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星の綺麗な日

 ひどい寝苦しさから目を覚ましたハールは、外へ涼みに行きました。ドアを開けると、心地よい風が吹き抜け、森の匂いが鼻をくすぐりました。地表から見上げる夜空は黒く光る宝石のようで、丸い月が煌煌と輝き、その月を飲み込むかのように青白い色をした雲が流れていきました。ハールは遥か彼方の頭上の世界と一体化したかのような気持ちになりました。それは恐ろしくもあり安心できる心地よさもありました。

 

 そんな余韻に浸っていると、視界の隅っこで黒い影がひゅっと音も無く中空を滑るように飛んでいくのが見えました。黒い影は西の森へ向かっていきました。センセイからは「西の森に一人で入っていってはダメだよ。特に夜はね」と忠告されているにも関わらず、ハールは静かに森の方へ歩いて行きました。

 

 生い茂る高木に月明かりが遮られ、ハールの周りは徐々に暗くなっていきました。それでも頭上の葉っぱの隙間から微かに漏れてくる光を頼りに進んでいきました。するとホウホウという鳴き声が頭上から聞こえてきました。なんとも言えないのんびりした声にハールは可笑しさと可愛らしさを感じました。鳴き声のするほうへ向かっていくと、木の高いところで枝分かれしている場所に丸い影が立っているのが見えました。


 ハールは音を立てないように丸い影がもっと見える位置を探して少しづつ前進しました。影はハールに気付いているようでしたが、それでもそこから動こうとはしません。やがてハールは影に月明かりが当たる場所を見つけました。それでようやく影の姿が薄っすらと見えてきました。少し青み掛がかった黒い羽根を優雅に畳み込んでいるフクロウでした。そしてそのフクロウのとても大きな目と澄んだ瞳に目があった瞬間、ハールはなにも考えられなくなり、ただその瞳をじっと見つめ続けていました。


 青いフクロウはゆっくりと体の重心を低くし、羽根を広げました。そしてさらに暗い森の奥へと飛び出しました。ハールもそれについて行こうとしました。


「ついて行ったらだめだよ」


 背後から呼び止めれてハールは我に返りました。振り向くと、センセイが大きな松明を掲げていました。


「あの鳥はいたずら好きで、ああやって他のいきものを混乱させて、自分のすみかへ誘導していくんだ。危なかったね。このままさらに進んでいたら戻ってこれなかったかもしれない。さあ、帰ろう」


 ハールはセンセイの後について行きました。歩きながらセンセイの持っている松明を見ていると、

「センセイ」

「ん?」

「センセイの持っている松明もなんだかきれいだと思って」

「ありゃ」

 センセイは笑い出しました。ハールも笑いました。徐々に月明かりが差し込んできて周りが明るくなっていきました。


 森を抜けるとさらに空が澄んでいて、天の頂を流れる星の形まで見えそうなくらいでした。川を渡り、田んぼを横切っていくと、家が見えてきました。


 ハールはセンセイの後ろ姿を見つめながら、あの時センセイが言った「帰ろう」という言葉を思い出していました。その言葉に懐かしいものを感じながら……


ありがとうございました。

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