キティルハルムの聖域
アトランティアとの国境付近・・・
ここには、人猫の少女像が立っている。
周囲が、荒れ地で、キティルハルムとアトランティアとの車道しかない殺風景な地・・・
しかし、キティルハルムから持ち込まれた草花で、きれいにかざられた丘の上・・・
少女像の横には、御影石の墓碑・・・
「宗教に殺された少女リケ・ミケランジェロ、ここに眠る。」と、書かれている。
「今は、あなたを殺した国は、誰も殺さないいい国になってるにゃ・・・複雑にゃ・・・」
墓参りに来ていたのは、アリシア・ミケランジェロ・・・
ミケランジェロ一族当主である。
「っつ!なんですかここは!」
「霊園」に入ろうとして、指先を軽く焼かれてしまったエルフ女性・・・
「アトランティア現教皇・リアエーヌ猊下・・・」
アリシアは、リアエーヌ教皇を見た。
「ここは、信仰厚きお方は立ち入り禁止にゃ。
ここは、宗教に殺された少女が眠る神聖な地・・・
我が一族が、管理を任されているにゃ・・・」
アリシアは、リアエーヌ教皇を再び見た。
「歴史書には、書かれていない事実も混ぜて話すにゃ。
宗教によって殺された、年端のいかない少女の話を・・・
知れば、あなたは、初代女王を頭ごなしで否定することは、できなくなるにゃ。」
それは、建国期のこと・・・
ミケランジェロの末娘・リケ・ミケランジェロ・・・
彼女は、ミケランジェロに大層可愛がられていた。
「ここは、やわらかくて固まるのがはやいいい粘土がよくとれるにゃ。」
ミケランジェロは、彫像の他、鋳造もやっていた。
「きっと、母ちゃんがやりたいって言ってた、オリハルコン像にいいにゃ。」
ほくほく顔で、土を物色するリケ。
そんな時だった。
そこに、アトランティアの神官兵がいた。
リケは、耳をぴんと立てる。
ヤバい・・・
直感で思った。
「娘・・・何をしている?」
『ひーふーみー・・・五人いるにゃ・・エルフだけどやばいにゃ・・・
ノワール陛下が言ってた「都のエルフ」じゃないにゃ・・・』
だっと、リケは駆け出した。
『皆に知らせるにゃ!陛下が言ってたにゃ!「人間」いい人ばっかじゃないって・・・』
リケは、すぐに印を結んだ。
『上手くできないけどやるにゃ!』
飛行の魔法が、成功した。
しかし、眼下を見ると、高速飛行するリケの後を、物凄い速度で追ってくる神官兵たちの姿が確認できた。
「こいつら・・・怖いにゃ!」
殺気を感じる。
「!!!」
魔法力が尽きて、地上に落ちてしまう・・・
「にゃあ・・・」
「こいつ・・・どうします?隊長・・・」
「「猫」の使い魔・・・?いや・・・それどうしのかけ合わせの「新人類」か・・・」
「でも、教皇エクシィル様は、「獣が人のマネをすることは、許されない。」っておっしゃってましたよね・・・」
「うむ。」
「それと・・・「生殖実験」をしてみてもよろしいかと・・・」
やりとりを聞いたリケは、青ざめた。
「にゃ・・・にゃあああッ!」
その場から、逃げるが捕まってしまう。
数刻後・・・
着衣を汚され、破られたリケは、それでも逃げようとする。
「おらッ!
獣が暴れんじゃねぇ!」
押さえられようとしたところを、リケは引っかく。
「ぎゃあああッ!」
「帰るにゃ・・・帰って・・・母ちゃんのシチューを食べるにゃ・・・」
必死で逃げる・・・
やがて、王都の門が見えてきた。
神官兵たちを振り切ったようだ。
「リケ!心配したにゃ!
って・・・」
尋常ではない、リケの傷だらけの身体に気付く。
「アトランティアの・・・」
「回復魔法をかけるにゃ!」
だが、効かない・・・
生命力がもうないのだ・・・
「母ちゃん・・・ごめんなさい・・・いい土みつけ・・・」
「リケえええええッ!」
ミケランジェロの叫びが、響いた。
アトランティアの「封印」後・・・
「かあちゃん、なにやってるにゃ・・・」
「一番可愛がっていた妹だからな・・・」
ミケランジェロの子供たちは、ジャンルは違えど、「芸術家・職人」として大成しつつあった。
「ミケならあそこですよ。」
葬儀を仕切っていた女王ノワールが、荷車を引っ張ってきたミケランジェロを見つけた。
そして、荷台にあったのは・・・
「母ちゃん・・・これ・・・」
「リケにプレゼントにゃ・・・
あいつ・・・
あちしのオリハルコン像・・・
楽しみにしてたにゃ・・・」
これ以降、歴代ミケランジェロ一族当主による「墓参り」は、代々続いている・・・
「だから、ノワール陛下は、大地の「気」の循環で、半永久的に動く「信仰心の強いもの」を拒む結界を張られたにゃ。」
アリシアは、哀しそうに空を見上げた。