英雄と友情と
異世界に召喚された男子高校生二人組の話
俺と悟はボコボコに殴られ、城の地下牢に放り込まれた。
「そこでしばらく反省しておけ!」
衛兵を引き連れたおっさんからそんなお言葉を頂戴する。
……何が『反省』だ、この誘拐犯が。
奴らの足音が完全に消えるのを待って相棒に声をかける。
「悟、大丈夫か?」
「僕は問題ない。少なくとも誠司ほどはやられてないさ」
悟は苦笑いして答えた。
俺と悟は中学生の頃からの親友だ。
今、高校二年だから、四年とちょっとの付き合いになる。
非モテ系男子を貫く俺と、順調に美少年からイケメンにクラスチェンジしつつある悟。
月とスッポンの様に言われることもあるが、何故かウマが合う。
今日も放課後につるんでゲーセンに行き、その帰りに異世界へと召喚された。
そして、2時間程度で地下牢に放り込まれたのが今の状況だ。
にしても、イケメンはボコボコにされても絵になるな。
顔にあんまりキズがついてない。
対する俺は頬や目の上なんかも殴られ、鏡がなくてもヒドいことが分かる。
元々イケてない勢だが、評価不能枠に落ちた感じだ。
そんなことをぼんやり考えている俺に、悟が少し不満げに言う。
「さっき殴られた時さ、僕の事庇ったよね?」
自分が殴られるべきだった分も、俺が殴られたことが気にくわないようだ。
『対等な友人』であることが、コイツのこだわりポイントだからな。
何かプライドというか変なツボを刺激してしまったようだ。
まあ、確かに庇ったけど、特に考えてやった訳じゃない。
なんか体が動いてしまっただけだ。
というか全然庇いきれてないし。
「そりゃあ、アレだよ。お前のイケメンフェイスに俺の落ち度でキズでもつこうものなら、クラスの女子から総スカンだし」
しかし、形だけだろうが、相手のこだわりを尊重するのが俺のスタイル。
なので、適当な理由をでっち上げておく。
だが、悟はこれでは納得行かないようだ。
「誠司の落ち度じゃないと思うんだけど」
「いや、俺のせいだろ」
召喚のターゲットは何故か俺だった。
普通なら、なんでもソツなくこなす悟が勇者で、平凡な俺が巻き込まれキャラのがしっくりくるんだけどな。
実際は逆だった。
悟は俺を助けようとして巻き込まれただけのようだ。
呼んだ奴らも俺こそ救世主だと言っていた。
何の根拠があって言ってるのかはよく分からないが。
なんでも、奴らは世界を救った英雄を召喚しようとしたらしい。
大ハズレにも程がある。
俺が救ったことがあるのは、迷子の女の子とか川で溺れかけた猫とかその程度だ。
「『召喚された』のは誠司のせいじゃないだろう?」
「そこは不可抗力としてもさ、その後はもっとやりようがあったと思う」
召喚された俺たちを出迎えたのは、ファンタジーな衣装に身を包んだおっさん二人と衛兵たち。
おっさん二人は最初は耳あたりの良い言葉で俺たちの機嫌をとろうとした。
でも、よくよく聞いてみると、異種族の国を侵略するための尖兵になれって話だった。
そんな危ない奴らに、俺は間抜けにも無力な一般人であることをアピール。
馬鹿正直に『それって侵略とか虐殺とかじゃね? って言うか俺関係ないよね?』って指摘した。
その結果がおっさんブチギレ→衛兵暴力→俺たち投獄だ。
「そこは否定できないかな……」
悟は苦笑する。
「だろ? あー! もっと慎重に立ち回るべきだった」
「でもさ、この状況で最適な行動が取れないのは仕方ないよ。いきなり別の世界に召喚されるなんて想定してる訳ないし」
「……そうだな」
実はめっちゃ脳内シミュレーションしてた。
登校中は食パンをくわえた少女に備え、授業中はテロリストの乱入に備えているこの俺だ。
当然、帰り道に異世界に召喚されることもシミュレーション済みだった。
しかし、現実は厳しい。
シミュレーションでは美少女が出迎えてくれるはずだったのだが、実際はおっさんどもだった。
女神様もいなかったし、チートも当然ない。
俺の益体もない内心のアレコレをよそに悟がぼやく。
「彼らが暴力に訴えるのもかなり早かったのもあるけどね。拙速と言うより、浅はかな感じだ」
「不用心だよな。俺が本当に世界を救った英雄で、この世界を滅ぼせる力とか持ってたらアウトだろ」
「そうだね。本当に不用心だ」
本当、どうしようもない奴らに召喚されてしまった。
「だいたいさあ、下心丸見え過ぎるんだよ、あのおっさん達」
「誠司にすらバレバレだからね。あれでは引っかかりようもないよ……」
そんなこんなで俺と悟は、しばらくの間、奴らの悪口で盛り上がった。
◇◇◇
それから3日後。
俺たちは相変わらず地下牢に閉じ込められていた。
ちなみに3日と言うのは食事(というか餌)を出された回数からの推測だ。
時間の感覚はとっくになくなった。
流石に気が滅入ってきている。
俺たちの口数もずいぶん少なくなってきていた。
そんな中、悟が思い詰めた表情で口を開く。
「……僕は誠司に秘密にしてることがあるんだ。謝らなければいけないことも」
ひどく深刻な感じだ。
悟のそんな顔が見たくなくて、俺は軽口を叩く。
「無理に話さなくてもいいぜ。俺だってお前に秘密にしてることあるし」
というか『最後だから』みたいな物言いが気にくわない。
死亡フラグの匂いを嗅ぎ取った俺は、その先を言わせないことにした。
「なら、まずは俺の秘密から聞いてくれよ。『対等な友人』なら秘密は打ち明けあうもんだ」
「……分かった」
悟のこだわりポイントを押さえてやると、しぶしぶと言った感じの返事が返ってきた。
よし! 破れかぶれだ。
俺はひた隠しにしていた秘密を暴露することにした。
「俺、中学生の頃好きな女の子いないって言ってただろ。アレ、嘘だから。本当はクラス委員のユキちゃんが好きだった」
悟の顔から思い詰めた感じが消え、苦笑に変わる。
「クラスの皆が知ってたよ。知らないのはユキちゃん本人くらいかな」
……マジで?
「ついでに卒業式の日に、ユキちゃんから『この手紙、加藤くんに渡して』攻撃を受けたのも知ってる」
なん……だと……。
「ユキちゃんも気づいてないとは言え残酷だよね。確かに男子で一番親しいし、加藤とも仲が良い誠司に頼むのは分かるんだけどさ」
うぐ……。
「加藤言ってたよ。『ユキちゃんのこと、ちょっといいなと思ってたんだけど、誠司の想い人だから躊躇してた。でも他ならぬ誠司がラブレターを届けてくれたことで、踏ん切りがついた』って」
ぐ……。
「加藤には『誠司が吹っ切れたら礼を言っておいてくれ』って頼まれた」
……どういたしまして。
「ユキちゃんにもこの間バッタリ会ったんだけどさ、『誠司くんのおかげで私たちラブラブです☆』だってさ。天然でもここまで来ると犯罪だよね」
……。
「誠司、聞いてる?」
……なんか派手に突き刺さったぜ。くそ、でも……。
「あー、俺のメンタル、残りHP0だからお前の秘密までは聞いてやれないわー」
真っ白に燃え尽きながら、俺は言葉を続ける。
「だからさ、お前の打ち明け話は、ここを脱出してからゆっくり聞かせてくれ。全部それからだ」
うむ、想定外の流れだが綺麗にまとまったな。
心の古傷は抉られたけど。
やっぱり、死ぬ前に心残りを無くすみたいな発想はダメだ。
大事なのは前向きでいること、脱出の望みを捨てないこと。
そうしないと、1%の可能性も0%になってしまう。
などと心中で自画自賛している俺に、悟は首を振る。
「気合い入れた自虐ネタ提供してもらって悪いんだけどさ。そろそろタイムリミットなんだ」
え、俺、心抉られ損?
っていうか
「タイムリミットってなんだ?」
悟はそれには答えず、立ち上がって鉄格子をつかんだ。
すると鉄格子が粉々になって床に崩れ落ちる。
って、何だ今の?
「なあ、今のって秘められた力が目覚めたとかそんなヤツ?」
「違うよ」
「じゃあ、実は世界を救った英雄はお前だったとか?」
「それも違う。『英雄』は誠司で合ってる」
「え?」
「何から言えばいいかな……。僕はいわゆる『宇宙人』なんだ」
「お、おう……?」
「今まで隠しててすまない。後は脱出しながら説明しよう」
「わ、分かった」
え、何この超展開。
「じゃあ、ついてきて。特に危ないことはないと思うから」
しっかりとした足取りで進む悟に、俺はあわててついて行った。
◇◇◇
俺と悟は地下牢を脱出し、城の中の階段を登っていた。
3日の監禁生活で体力が落ちてて、かなりキツい。
一方、悟はスイスイ登っていく。
「宇宙人って体力もあるんだな……」
「普段は制限がかかってるからね。先ほどようやく、解除許可申請が承認されたんだ」
何を言ってるのかよく分からないが、さっきまで使えなかったってことか。
にしても3日は長すぎだろう。
「えらい長くかかるんだな」
「命の危険がないと緊急解除はできないんだ。彼らは僕たちを捕らえるつもりだったからね。『直ちに命の危険がない』と判断された」
お役所仕事かよ……。
「融通がきかないんだな」
「おかげで現場は苦労してる」
悟はそう言って笑う。
城は静かで、道中誰にも出くわさなかった。
階段が終わり、城のバルコニーに到着する。
青い空が懐かしい。
「ここに迎えが来る。しばらくのんびりしていよう」
悟の言葉に、体力の限界が来た俺はその場に座り込んだ。
めちゃくちゃしんどい。
「僕が宇宙人であることは信じてもらえた?」
悟の問いに俺は答える。
「なんか俺の想像を超えてるのは分かる。後、お前はこういう時に冗談を言わないことも知ってる」
「そうか……」
「何、しょぼくれた顔してんだよ。お前が宇宙人でも親友なのは変わんないだろ」
宇宙人だからって何が問題なのか分からん。
一緒にメシが食えて、ゲーセンで遊べれば何の問題もない。
「その言葉は嬉しい。けど、友人で居続けてくれるかは、僕の話を聞いてから判断して欲しい」
堅苦しいヤツだ。まあでも
「そんなに言いたいなら、聞いてやるからサクッと話せ」
俺にうながされて、悟は話し始めた。
「未知の文明を発見した。技術的なレベルはこちらの方が遥かに高い。そんな時、どうする?」
「ん? まずは挨拶じゃね?」
悟は一瞬、虚を突かれたような顔をし、そして吹き出した。
「いや、笑うなよ」
「それが本来在るべき姿かもしれないね」
何故笑われたのか、いまいち分からん。
ひとしきり笑った悟は真面目な顔に戻る。
「僕たちの場合は、大きく分けて二つの意見があった。
一つは『友好派』だ。
彼らは地球の人々を対等な人間とみなし、文明の成熟を待って友好的にアプローチすることを主張した。
もう一つは『資源活用派』。
この人達は地球の人々を劣った生物とみなし、地球もそこに住む生き物も資源として使おうと主張した」
「で、結局どうなったんだよ?」
「僕みたいな中立の人間を潜入させて調べることにしたんだ。価値観を共有できるのか、分かり合えるのかってことをね」
「え、じゃあ、お前が調査してるのか?」
「『してる』と言うより『してた』だね。地球に関しては結論が出てる」
「……どうなったんだ?」
俺はおそるおそるたずねる。
「約三百年の経過観察。まあ、実質『友好派』の勝利だよ」
良かった。
っていうか割と世界の危機じゃないか。
「特に誠司の『生き方』は貢献度大だった」
「え? 俺、普通の一般人だろ」
悟はかぶりを振る。
「分かり合えるかどうかだからね。特殊な人物である必要はないんだ」
「にしても、俺なんかやったっけ?」
「川で溺れそうな猫を助けたり、迷子の女の子を助けたり他にも色々だ」
「見てたんなら、手伝ってくれよ……」
色々大変だったんだぞ。迷子の時なんて、もうちょっとで『事案』になるとこだったし。
「あはは、ごめんごめん。どうしようもなくなったら手伝うつもりだったよ」
「まったく……」
悟は苦笑しながら続ける。
「誠司のさ、ちょっとおバカだけど、お人好しで人情にあつい。でもちょっとバカ。そんな所が受けたんだよ」
「それ、誉めてるんだよな? っていうかバカって二回も言うなよ」
「誉めてる、誉めてる。バカやったり、悩んだり、あるいはお人好し振りを発揮したり。
僕たちは、そういう誠司を見て、一緒にいたら楽しそう、友達になりたいって感じたんだ」
悟は俺を正面に見据え、強調する。
「そして、それこそが一番大事な事だった。僕たちにとってはね」
うーん、なんかよく分からない誉められ方だ。
まあ、友達になりたいと言われて悪い気はしないけど。
しかし、『僕たち』ってことは……。
「『僕たち』って他の宇宙人も俺のことチェックしてたのか」
「それに関しても、謝らなければいけないね。『情報公開』のために、主なエピソードは映像にまとめられて、一般にも公開されてるんだ」
「え?」
「特に『卒業式~涙のラブレター配達~』編は大人気でね。僕の星系で知らない人はいない程だ」
「よりによってそこかよー……」
俺が秘密にしていたことがクラスどころか宇宙レベルで周知の事実だった件。
「まあ、そんな訳でさ。誠司が『世界を救った英雄』なのは間違いない」
「別に俺じゃなくても良かったんじゃね?」
「それに関しては何とも言えないな。でも実際に成し遂げたのは誠司なんだ。知らず知らずだけどね」
理屈は分かる。
分かるんだけど、納得行かねー。
「ただ、そのせいでこの世界に召喚されてしまったんだ」
「そうつながるのかよ……」
「これも謝らなければいけない。間接的だけど、この状況は僕らのせいだ」
悟はそう言って目を伏せた。
「そりゃ、まあそうかもしれないけど。助けてくれるんだろ?」
「それはもちろんだ」
こいつが宇宙人じゃなければ、まだ牢屋の中だろうし。
第一、召喚したのは悟たちじゃない。責めるのは筋違いだろう。
「じゃあ、別に――」
「あれを見てくれ」
悟が俺の言葉を遮る。
指さす方向には、大岩としか形容のできない何かが浮かんでいた。
「ありゃ、なんだ?」
「君たちの言葉で言うと一番近いのが『宇宙船』かな」
ん、『大岩』の下の方に人がいるのが見える。
この国の軍隊だろうか。
『大岩』に向かって、弓を撃ったり、電撃を放ったりしている。
あの電撃って魔法だよな。俺、初めて魔法を見てしまった。
でも、まったく効いている様子がない。
そして、『大岩』からサーチライトのような光が放たれる。
その光に当たった兵士が、次々に空中の『大岩』に吸い込まれていく。
「あれは……?」
「あれは牽引光線だ。この世界の人間は、僕らに資源として活用されることになった」
兵士たちは『大岩』に全て吸い込まれてしまった。
『大岩』はそのまま、異世界の街の上空へ移動する。
そのまま、サーチライトのような光を乱射。
その光は石造りの建物を分解し、街の人々を老若男女問わず吸い込んでいく。
悲鳴と怒号がこちらにまで聞こえてくる。
「これは君たちに起こり得た事態でもある」
悟は沈痛な表情だ。
「包み隠さず、話そう。
誠司が召喚されたことで、僕たちはこの次元座標に人類代替生物がいることを知ってしまった。
そして、地球の時と同じように、『友好派』と『資源活用派』の議論になった。
今回は『資源活用派』が勝った。その結果がこの光景だ」
だとしたら、結論出すのが早すぎる気がする。
解除許可申請とやらが通るのにも3日かかっているのに。
「俺たちの時は、もっと長くなかったか? お前と出会って四年。川に流された猫から、卒業式だけでも2年以上あるぞ」
「今回、『友好派』のモチベーションは、ものすごく低かった。
誠司はさ、『友好派』だけにとどまらず僕らのアイドル的存在なんだ。
君のために、『資源活用』を思いとどまるくらいにはね。
そんな君が不当な扱いを受けているところが、大きなマイナスポイントになった。
決定的なのは、僕を庇って殴られたシーン。
自分たちのアイドルが殴られた。そして、その理由は自分たちの同胞をかばったから。
君に対する親近感の大きさが、そのままこの世界の人々に対する敵意になった。
僕らの世論は君たちと同じように、理屈だけでは動かない。
今回のように感情が左右することは往々にしてある」
「俺のせいなのか……」
「それだけじゃない。
3日で調査・評価した部分もある。これも大きなマイナスだった。
この世界の道徳は異種族は殺せだ。
だから、異種族を殺せば殺す程偉いし、異種族を皆殺しにして、その土地を奪えば英雄だ。
誠司が侵略を否定したときに、彼らが怒ったのはそのせいだ。
自分たちの価値観においてはあまりに不道徳な発言だからね」
つまり、俺は『異種族は皆殺しだぜヒャッハー!』みたいなのを期待されてた訳か。
そういうのがこの世界の品行方正な英雄ということなんだろう。
そんな話をしている間にも、街の人々はどんどん吸い込まれていく。
悲鳴と怒号は先ほどからずっと続いていた。
多分、恐怖を感じるべき光景なんだろう。
しかし、あまりに想像を超えていて現実感を感じない。
俺は、それを呆然と眺めるしかなかった。
「なあ、あの吸い込まれた人たちはどうなるんだ?」
「資源として活用される。少なくとも人間としては扱われない。
例えば、僕らにとって体細胞クローン技術を用いた臓器移植は非人道的ということになってる。
内臓の一部には君たちの言葉で言うところの魂が宿るから、それを使うのは道義上許されないんだ」
「だから、異世界人の臓器を使うというのか?」
「そうだ。彼らは人間じゃないから、問題ない。
それが僕らの道徳だ」
悟の顔は苦しげだった。
軽蔑しただろうと言わんばかりの顔だ。
「君がこのことを重荷に思うなら、今回の件の記憶は消去してもいい。
また、これから君の前に姿を現さないことも誓おう」
うーん、正直よく分からん。
さっきから頭がパンクしそうだ。
しかし、ただ一つ、明確に気に入らないところがある。
「お前さ、さっきから、俺が友達やめたくなるはず的なことばっか言ってるけどさ。
肝心のお前はどうなんだよ?
お前は、俺の友達止めたいのか?」
俺がまだ出していない結論を分かったように言うのが気に食わない。
悟はしばらく黙り込んでから、口を開いた。
「……そんなことはない。
中立派の監査官だった僕は、君の友達を続けるためにその職を辞したんだ。
こんな形の別れは不本意だ」
「なら、それ以上言うな。
お前の内緒話は異世界で助けてくれたことでおあいこ。
殴られてるお前をかばった分は――そうだな、今度ゲーセンで1クレおごれ。
それで、すべてチャラ。俺とお前は『対等な友人』のままだ」
見れば、悟は泣きそうな顔をしていた。
男が泣いていい場面はもっと他にある気がするんだが、まあいいか。
「あ、俺の記憶はどうしよう? お前が気にやむなら、消してもいいぞ」
あんまり、悟にウジウジされても困るし。
「いや、僕は大丈夫だ。誠司の好きにしてもらって構わない」
「じゃ、残す方向で。
正直、色々よく分からないけどさ、忘れていいことだとは思わないんだ。
俺が大きく関わってるなら、なおさらな。
そのうち、この意味が分かる日が来るかも知れないし」
「……分かった」
俺たちの会話はそこで一区切りとなった。
この辺りの人間は全て『回収』されてしまったらしい。
人々の悲鳴は途絶え、辺りは風の音しかしない。
どれだけ、そうしていただろうか。
やがて城のバルコニーにいる俺たちの前に、光輝く円盤が現れた。
「迎えが来た。地球へ帰ろう」
悟が言う。
「さっきの大岩と違って、ベタなUFOだな」
「サービスに誠司が好きそうなベタなタイプのUFOを呼んでみた」
まあ、確かにそういう昔ながらのトンデモ本好きだけどさ。
そんなセリフを言う悟は、いつもの飄々とした調子を取り戻しつつあった。
俺は少し安心する。
そして、安心ついでに面倒なことを思い出してしまった。
「そういえばさ、連絡なしで3日と経ってるんだよな。
帰ったら、親に怒られそうだ」
……母ちゃん、心配してるだろうな。
俺の憂鬱な声に、悟が笑う。
「大丈夫、その辺りは任せてよ。『宇宙人』はアリバイ工作とか隠蔽とか得意分野だから」
「よし、頼んだぜ、我が相棒! なるべく角が立たない方向で頼む」
「まあ、でもその前に傷の治療かな……」
そんな会話を交わしながら、俺たちはUFOに乗り込む。
こうして、俺たちの異世界ライフは3日間で幕を閉じた。