金木犀(掌編・旧作)
金木犀
金木犀の花言葉を知っていますか?
金木犀が好き。 あの甘い香りが。 あのオレンジ色の小さな花が咲き乱れる木が。 あの散ってゆくときさえ,きれいな所が。
小学生のとき,友達に言ったらトイレの匂いって。
数段良いのに。
トイレの匂いより,
初めて金木犀より好きなものが出来た。 斜め前の席で本を読んでるあの人。 あの人は毎日図書館に通う。 あの人が見たくて毎日図書館に通う。
同じクラスで、でも1回も話した事ないのに,
が特別になった。
誰にも言ってない。
まだ,
金木犀の香りみたいに,嫌な風に言われるかもしれないか ら。
閉館の時間。 あの人は立ちあがり出口に。 10秒数えてから,立ちあがり出口に向かう。 方向が同じで良かった。 1秒でも長く,見ていたい。
今年も金木犀が咲いた。 あのオレンジ色の小さな花をつけて。
金木犀は満開がなった。 金木犀と同じ金曜日。
あの人が振り向いた。
帰り道に,
「ドウシテアトヲツケルンダ。」
彼をまっすぐ見上げ,側にあった金木犀の枝を1本折って 差し出す。 「これが私の気持ちよ。」
次の日から,あの人は図書館に来ない。 次の日も。 次の日も。 ずーっと・・・。
金木犀の花が散り始めた頃。 あの人は戻ってきた。
なにも言ってくれない。
でも,
閉館時間。 あの人はいつものように立ちあがる。 いつものように10秒数えて立ちあがる。
図書館から少し歩いた所。 あの人に枝を折った所で,あの人は立ち止まった。
こっちに振り返る。
抱きついてきた。
そのまま歩いて,
「コレガオレノコタエダ。」
耳元でささやかれた声は,金木犀のように甘かった。
金木犀の花言葉は。 『あなたを気付かせる・・・。』