手紙(掌編・旧作)
春,彼は旅立った。
私にも,親にも,誰にも告げずにそっと・・・。
大騒ぎになった。
私は彼の両親に泣かれた。
「なぜ,止めてくれなかったのか。」と。
私は泣いた。
目が腫れるまで。
11月,彼から1枚のポストカードが届く。
『元気です。そっちは秋ですね。』
それだけの。
短いポストカードには、かわいい外国の少女の笑顔があった。
12月,彼からリースと、ポストカードが届く。
『元気です。クリスマスですね。』
それだけの。
リースはベルや色とりどりのリボンがついていた。
それからしばらくポストカードは届かない。
春,彼がいない2度目の春が来た。
私の日常から彼の姿が消えかかっている。
シーツについた彼の匂い。
彼の歯ブラシは,どこかへ行ってしまった。
5月,彼からポストカードが届いた。
『元気です。リカコに逢いたいです。』
それだけ,でも今までよりすごく重要。
どうしてだろう,とても寂しい気がする。
それから毎月必ずポストカードはやってきた。
何か,忘れかけている物が戻ってくるかんじ。
そして,12月。
今年も来るかもしれない彼からのクリスマスプレゼントを待っている。
チャイムが鳴る。
ドアを開けると,彼がいる。
手に,1枚のポストカードと小箱を持って。
ポストカードにはこう書いてある。
『結婚しよう。
オレにはリカコが必要なんだ。
この旅をしてすごく,すごく感じた。』
目がぼやけた。
涙が溢れた。
ソウ,ワタシモカレニアイタカッタノ。
彼が小箱から指輪をだして私の指にはめる。
それから涙が乾くまで,ずっとキスしていた。