地面の棺
こんにちわと言ったあの子の手は土で汚れていた。
何を掘っていたのと聞くと何もと答えた。
じゃあどうして汚れてるのと聞くとずっとこうなのと言った。
踵を返したあの子はふらふらと白いワンピースをなびかせて歩いて行く。
スコップを持って森へと消えたあの子の後を追ってみれば掘り返したあとのある土があった。
掘り返してみたらあの子がいた。
どうしてここにいるのと聞くと寂しかったのと笑った。
そのままにして穴を埋めるとあのこの手がスコップを触った。
いかないでと震えていた。
僕はスコップを土の上に置いた。
なぜ生まれてきたと思う?
夜空を見上げて瞬く星の輝きが大地を濡らす。
もぞもぞ動く土から這い出した手達が僕の足を掴む。
長い長い枝が無数に刺さった大地はくすんだ色で果てまで続いていた。
両の手を空に捧げる。地面から這い出た手達も同じように空へと伸びる。
溺れるようにもがくように、何もつかめないままグルグル回る。
気がつけば周りには何もいない。
木陰であの子が根っこの上に座り込んで僕を見る。
微笑みかけると赤い目を細めてくすくす笑った。
森を出て振り返ると地面から生えた無数の白い手が風に吹かれてるかのように揺れていた。
あの子は揺れずにずっと僕を見ていた。
そしてあの子は森に消えた。