ごめんなさいは?
一身上の都合により、追加投稿しています。
これに伴い、前回の話も内容が変更されていますので、よろしくお願いします。
「あっ。こんにちは、悪魔伯爵さん。いやもう、こんばんは、かな?」
いいタイミングで幹部っぽい人たちが現れてくれたので、私はニコリと微笑んだ。
500人の本陣を全て倒した直後に出てきてくれるとは、良い心がけだ。
しかし戦っている騒音は聞こえなかったのだろうか?かなりの爆音がしてたのに。
「お…おい、貴様!ここに居た者達は何処へ行った?!」
悪魔伯爵の取り巻きが問うてくる。チョビ髭の悪魔男爵さんだ。
むっ、なんか偉そうで腹立つな。私は貴方の上司の上司です。
「元の場所へ帰しました」
「なんだと? 貴様は何者だ?」
「新しくここの迷宮管理人になる、ユマリア=カムイソルナと申します。以後宜しくお願いしますね」
チョビが訝しげに私を睨んでくる。
伯爵さんはチョビを軽く手で制して、私の前へ歩み出てきた。
「俺は<悪魔伯爵>グナエウスだ。悪いが今は戦いの途中。詳しい紹介はまた次の機会にしてもらおうか。アルク様も居らっしゃらないようだしな。しかし貴様、私の配下を何処へやった?」
この人も偉そうだ。爵位を持っているし仕方ないか。でも私は貴方の上司です。
私は出来るだけ丁寧に、かつ下手に出てると思われないような口調で説明をする。
「“帰しました”と先程申し上げましたけど?」
「帰しただと?何処へだ、第八階層か?」
「さあ?分からないですね。貴方達って死んだら、何処へ“帰る”んですか?」
悪魔たちは、この時点でようやく事の成りゆきに気付いたらしい。
それでも信じられないのか、取り巻きの中には『そんな馬鹿な』『あり得ない』『500人も居たのだぞ!?』と騒いでいる人もいる。でも割と瞬殺でしたよ?
「貴様の事は、まだアルク様から紹介して頂いてない。故に俺はお前を管理人とはまだ認めない。そんなお前が俺の配下を殺していいと思っているのか?」
子供みたいな容姿の伯爵さんが、ギロリとした目で威圧してくる。
でも可愛い見た目には騙されないよ。君ら、何百年何千年と生きるんでしょ?
私よりも年上のはずだ。
「まだ認めて貰わなくても良いですよ? 今はテオドーラたちの代わりに来ていますしね。でもアルクから私は『好きに戦うといい』とも言われています」
「アルク様にそう言われたとしても、それが殺して良い理由にはなるまい?」
「良いんじゃないですか?貴方もテオドーラを殺す気だったじゃないですか」
その言葉に取り巻きたちが目を逸らし、伯爵はスッと無表情になる。
やはり殺す気だったのか。
「テオドーラの軍勢は、大将も含め全部で100ちょっと。しかも9割がスケルトンです。そこへ中級以上の悪魔が500人も攻め込もうとしていれば、誰だってそう思います」
惚けられても困るので説明する。
「まあ…それもそうか。だが<死霊の王>は強い。それぐらいの手勢を率いねば勝てぬのだ」
「つまり貴方一人ではテオドーラに勝てない。だから手勢を用意した。そういう事で宜しいでしょうか?」
「貴様!坊ちゃまに無礼だぞ!」
「坊ちゃまではない。伯爵と呼べ」
あれ…本当に子供なの?
伯爵の取り巻きたちが騒ぎ出すが、それには答えず話を進める。
「勝てないなら、諦めてくれませんか?彼女はあまり戦いを好まないそうですし、面倒くさがっていましたよ。もっと伯爵さん自身を鍛えなおしてから、再挑戦してみるのが良いかと思います」
何なら特訓のお手伝いをしても良いよ。藁の人形を作って一緒にキックの練習だ。
「そんなものは断る。俺は誇り高き悪魔伯爵だ。鍛える必要など無い」
いやいや、勝てないんだから必要あるでしょう?
伯爵より、取り巻きの人たちのほうが、まだ強そうに見えますよ。
実際、強いように思う。
「それならば、部下に頼らず一人で彼女に挑んでくださいよ…それが出来ないうちは、今のポジションで満足してください」
伯爵は顔を真赤にして、睨みつけてくる。悔しいなら鍛錬すればいいのに。
私はふぅ、と溜息を吐き、話を続ける。
「とにかく。腕試しの試合ならまだしも、殺し合いは認められません。序列に不満があるなら、まず貴方自身が強くなって下さい。いつまでも部下に頼っていては、強くなれませんよ?」
取り巻きの何人かは私の言葉を聞き、バツの悪そうな顔をしている。周囲がイエスマンばかりだから、伯爵は自分を鍛えようと思わないんじゃないの?
しかし他の階層の守護者にも、伯爵みたいに血の気が多い人は居るのかな?
それなら序列を決め直す機会を、定期的に設けたほうが良いのかもしれない。
今度アルクさんに相談してみよう。
「貴様、いい加減にしろ!伯爵に失礼であろうが!」
「んあー。」
再びチョビが突っかかって来たので、大きく口を開くと共に<魔神の吐息>を解き放つ。
私の口から現れた細い朱色の光線がチョビに直撃し、その直後に猛烈な爆発がおこりチョビの体を蒸発させる。塵も残さず髭は消えた。
「いま私がやった事は、これから伯爵さんがテオドーラにやろうとした事です」
小学校の校長先生が生徒を叱るときのような、厳格な物言いでこの場にいる悪魔たちに説明する。しかし私の言葉に耳を傾けてはくれず、消えた髭のいた跡地を見つめ、呆然としている。
「う、うわあああ!グレイヴ卿がああああ!」
「貴様あああ!」
消えたチョビ髭以外の取り巻きが、叫びながら一斉に私に襲いかかる。
「んあー。」
<魔神の吐息>を浴び、膨大な熱量とともに塵も残さず取り巻きが全て消えた。
『殺し合いをするな』と言っている当人が、こんな大量虐殺をするのはどうかと思うけれど、話して判るタイプじゃなさそうなので、敢えて強気に行かせてもらう。
もちろんこれは『再召喚すれば元通り』ができるからこそ可能な手段だ。
「いま私がやった事は、これから伯爵さんがテオドーラにやろうとした事です」
ひとり取り残され、怯えるような顔でこちらを見ている伯爵に、諭すようにして、もう一度語りかける。
「あ、ああ」
「ね? 身内で殺しあうのは建設的ではないでしょう?職場の仲間同士、互いに切磋琢磨して強くなる方が良いと思いますよ」
「わかった!わかったから、顔をこちらに向けるな!口を開くな!」
「ノー。お断りします。人の目を見て話すのは礼儀ですから」
一生懸命目を瞑って顔を背けているけど駄目だよ。
ペタンと座り込んでしまった伯爵さんの顔を、両手で掴んで顔を近づける。
よく見るとやっぱり若いな、まだ十代前半の顔だ。
「伯爵。私の目を見なさい」
「嫌だっ!」
「んあー」
「うわっ、目を見る!目を見るから撃たないで!」
「貴方は仕事仲間を殺そうとしました」
「はひっ」
「殺す対象は侵入者だけで十分です」
「はいっ」
「仲間同士なら練習試合だけで十分です」
「はいっ」
「試合したいときは相手の許可も取りましょうね」
「はい」
「では、ごめんなさいは?」
「はいっ?」
「『テオドーラの命を狙って、ごめんなさい』は?」
「…ごめんなさい」
「後で彼女に謝ってくれますね?」
「…はい」
「よろしい。では改めまして、こんばんは。この度、迷宮管理人になりましたユマリア=カムイソルナです。どうか宜しくお願いしますね」
「…………………………………………………………………………よろしく」
何でそんなに長い間を開けて答えるのよ?
<魔神の吐息>吐き出すよ?
失った部下の再召喚を後日に手伝う約束をして、今日の所は伯爵さんと別れた。
ひょっこり現れたヘルメスさんという人に手を引かれて、伯爵は帰っていった。
伯爵さん本人によると、彼は悪魔侯爵家の三男で、話を聞いた感じでは周りから甘やかされて育ったみたい。
別れ際に『こんなに厳しく扱われたことはない』と言われた。お坊ちゃんか!
いや、坊っちゃまだった。
戦いも終わったし、夜も遅い。今日はここまでかな。
アルクさんのいるテオドーラの部屋へと戻る。
「ただいまー」
「おかえり…ユマリア。あの伯爵との戦いに決着を付けてくれた礼を言おう…」
「<奈落の迷宮>の目を通して戦いを見ていたが…まるで君のほうが悪魔のようだった」
「私も主様に同意だ…悪魔が泣いている姿を初めて見たよ…」
アルクさんとテオドーラはドン引きした顔で私を見る。テオドーラの配下は私と目を合わさないようにして、遠巻きにこちらを眺めている。
別に泣かすつもりは無かったんだけれどな。むしろ優しく対応したつもりだ。
それに、この体を作ったのはアルクさんじゃないですか。あの破壊力は、私のせいじゃないですよ?
しかしテオドーラの部屋に侵入してきた、一番槍の人たちの行動が未だに解らない。単なる目立ちたがり屋だとは思うけれど。
わざわざコッソリ侵入してきて、ライトアップする意味あったのかな?
あれのおかげで調子を狂わされた。
後日、伯爵さんに聞いても『あれは俺にもわからん』と言われた。
再召喚にも応じなかったし、もう既に他の人に召喚されてるのかもしれない。
もしかしたら、どこかで会えるかもしれない。
次に会えたら、何故あんな目立つことをしたのか聞いてみよう。
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