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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第一章 プロローグは、一章が終わるまでがプロローグです。
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こんばんは、上司です

「<奈落の迷宮>は10階層の構造をしており、各階層の最奥を守護者が守る。


 この“10階層”というのは、“10階建ての迷宮”と言う意味を示さない。

 迷宮内部が10のユニットに区分けされた、多重階層構造である事を表している。


 1つのユニット内は、時に上下のフロアに跨る通路が存在しているが、

 他のユニットに踏むこむことは決して無い。


 例えば、97階から98階へと進みたい場合は、一度95階まで登り、

 そこから下へ降る通路(ルート)を使わないと、進めない構造になっている。


 しかし100階から101階以降に跨る通路(ルート)は存在しない。

 100階以上と101階以降は、それそれ別々の階層ユニットになっているからだ。


 そしてそのユニットが縦に10個連なり、最下層にある創造主の居住区を含めると、地下1000階もの深さを持つ巨大迷宮が、<奈落の迷宮>なのである。


 正に<奈落>の名に相応しい迷宮と言えよう。」



「──ええ、そうですね。 でもそれ、もう知ってますよ?」


 どうしちゃったのアルクさん、子供扱いしたから、いじけちゃったの?



「君の独り言に倣って、ちょっと言ってみただけだ。それより、準備はできてるか?」


主様(あるじさま)…すっかりユマリアに毒されてしまって。何とお(いたわ)しや…」


 テオドーラが『よよよ』と、演技掛かった声で泣く。

 あとなんか刺のある事を言われた気がする。

 そんなことを言ってると、仕返しに、お持ち帰りしちゃうぞ?



「準備というほどのものはありませんけど、覚悟は完了しています」


 私は腕を組み、敵がやってくる扉を見据えつつ答える。


「よし、では行って来なさい」


「ノー。ここで待機です」


「えっ」


「あ、そうだ。アルクさん、部屋の明かりを消して下さい。『いつも通りのこの部屋』を演出したいので。あと配下の人たちは、戦闘の下準備してるフリをしててください」


 私としては、最初はこのテオドーラの部屋から攻撃をしたい。

 管理人の私としては、伯爵も彼女も公平に扱うべきなんだろうけど、『今回の件に限ってはテオドーラの側につきますよ』という、意思を示すためだ。


 ここでテオドーラの部下たちと一緒に、鬨の声をあげてから、ワンマンアーミーよろしく一人で突貫するつもり。私はテオドーラとその配下の代役をするのだ。



「なんでも伯爵さんは、テオドーラの同意なしで攻めて来たらしいじゃないですか。伯爵さんもテオドーラも、同じ職場の仲間ですよね? 私としては、職場がギスギスするのは好きじゃないので、こういう事は、せめて相手の同意を得てからやって欲しいと思っています。だから──」


「だから?」


「伯爵さんを一度、フルボッコにしてきます」


「ふむ…そうか、分かった。戦い方は問わん、好きに戦うといい」


「伯爵と私は、職場の仲間…だった…のか?」



 “伯爵”というから、吸血鬼なのだろうと頭に思い描いていたけど、伯爵さんとその配下は悪魔らしい。

 <奈落の迷宮>からの情報を再確認して、種族名を見て初めて知った。

 伯爵さんの種族は悪魔。<悪魔伯爵(デビルカウント)>グナエウスという。

 アルクさんの話によると、悪魔たちは魔法で召喚された精霊たちと同じで、この世で死んでも“元の場所”に帰るだけで、完全に死ぬわけでは無いとのこと。


 それなら遠慮なく、容赦なくやれるのだ。

 迷宮内での彼らの動きは、今も<奈落の迷宮>が詳細を教えてくれている。

 彼らの作戦は、丸見えだ。戦略上のミスはない。もはやイージーミッションである。

 戦場での凡ミスさえしなければ、勝利は目前である。

 後は変なフラグが立たないよう、祈るだけだ。





 やがて扉が静かに、ゆっくりと、少しだけ開く。


 その僅かな隙間から、20体の下級悪魔たちが闇に紛れて部屋の中へと、順番に忍び込んでくる。気配を殺し(ているつもり)の下級悪魔たちは、上官に指示されたのであろう手順通りに、手際よく入口側の両隅に10体ずつ待機して身を潜めた。


 それから一呼吸した後、いきなり扉が大きく開く。

 入り口から15体の悪魔が一斉に突入してくる、中央には悪魔将軍が、その後ろには悪魔騎士たちが控える。


「フハハハハ! はじめましてだな、<死霊の王>よ! 今宵は、お前が冠する第九階層守護者の地位を、我らが伯爵様に捧げて貰うぞ!」


 将軍さんが高らかに口上を述べてきたよ。んんんー?


 私の予想では、悪魔たちは現代の軍隊が市街で戦うみたいに暗闇に紛れて、攻撃魔法をぶっ放してくるはずだったけど、実際の下級悪魔が放った魔法は、<照明>の魔法だった。

 魔法で将軍と騎士たちがライトアップされ、暗い部屋の中に浮かび上がる。

 こんな部下を率いてる伯爵さんは、もしかして愉快な人なのだろうか。


 何か思っていたのと違う展開になりそうだなと思いつつも、深くは考えずに先ずは10本の<魔力の槍>を全て悪魔将軍に命中させる。今際の言葉は「えっ」だった。

 続けて、ありったけの<魔法の矢>を放ち、悪魔騎士たちも瞬殺する。

 なお、<魔法の矢>の正確な本数は覚えていない。500から先は数えていないからだ。


 いきなり上司が昇天したのを見て、呆気にとられていた下級悪魔たちも、追加の<魔法の矢>で後を追わせる。これで先発部隊は終了だ。


 悪魔って死ぬと、肉体は残らないんだね。将軍の体が霧散すると共に、装備品だけが残り、床に転がり落ちた。

 元の世界に帰った時は、彼らはきっと全裸なんだろう。

 公然猥褻罪で逮捕されないことを祈る。


 シンと静まった部屋の中で、悪魔たちの残した兜の、転がり続ける音だけが響く。



「よーし、先ずは一勝!」


 『ちょっとやり過ぎたかもしれん』と思いつつも、右腕を突き上げ、声高に叫ぶ。

 かなりオーバーキル気味にやっちゃったので少し気が引けたが、彼らは後で再召喚さえすれば、再びこちらに帰ってこられる。

 呼び出す役目は伯爵さんに任せるけれど、再召喚に必要な魔力を私が手助けすれば、あまり心を痛めずに済みそうだ。


「「「うおおおおおおお!」」」


 私の宣言に応えて、テオドーラの配下たちが一斉に鬨の声をあげる。

 声を上げたのは肉体を持つ上級アンデッドだけで、スケルトンはカタカタと顎の骨を鳴らすだけだったけど、頑張って剣と盾も同時にガンガン叩いて鳴らしてくれた。



「では、首魁を狙いに行ってきます!皆はここで待っててね!」


 右手をシュタッと上げながら、私はその場から足早に去る。

 テオドーラが青ざめた顔で、呆然と私の事を見ていたからだ。

 私もちょっと将軍たちには悪い事したと思っているから、そんな顔で見つめないで欲しい。



 テオドーラの部屋を少し進んだ所にある、広い通路を(ひし)めくように、伯爵の本隊が集合している。

 その数、ざっと500名。あれは一人でも転んだら、大変なことになると思う。まあ、でも仮にも悪魔だし、圧死はしないだろう。

 あの通路の奥にある小部屋に<悪魔伯爵(デビルカウント)>グナエウスさんが居るはずだ。


 たぶん悪魔将軍たちに先陣を切らせ、戦況が動いたら一気に突入し、後は数で押して勝利する予定だったのだろうな。

 テオドーラの本陣は、スケルトンも含めて約100名、五対一ならまず負けまい。


 でも、悪いけれど、今回は勝たせてあげないよ。

 私は<魔力障壁(フォース・フィールド)>の起動準備を終えた後、残り全ての基本機能を一つ一つ起動させながら、敵の本陣へと向けて、ゆっくりと歩き出した。






「何だ貴様は? テオドーラの配下ではないな? 何故こんな所にいる?」

「おい、止まれ!貴様、何者だ!」



 本陣の見張りに呼び止められるが、歩みを止めずに進つつ答える。



「こんばんは、貴方の上司の上司です。今日は説教をしに参りました」



 そう告げた直後、私は最後の基本機能である<魔神の吐息(デモン・サイン)>を、悪魔の本陣の一切を薙ぎ払うべく解き放った。


ユマリアの第七の機能、「魔神の吐息」の能力はアレです。

薙ぎ払えー!と言いたくなるようなビジュアルです。

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