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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第一章 プロローグは、一章が終わるまでがプロローグです。
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仲良くなれました

 龍の息(ドラゴンブレス)を浴びる直前、昨日アルクさんから習った通りに<魔力障壁(フォース・フィールド)>を展開させる。

 これはホムンクルス(わたしのからだ)に備わる『基本機能、その1』だ。

 私には全部で7つの機能があるのだよ。近日公開予定、かみんぐすーん!



「おう…あんまり熱くない…でぇす」


 地獄の業火みたいな(ブレス)を浴びているにも関わらず、思わず呑気な感想が出る。



 障壁の外側は床が蕩け始めているにもかかわらず、私の周りは初夏の陽気だ。

 その様子に驚いたのか、ドラゴンさんが目を見開いた。

 よし、行ける。これなら昨日の屈辱は晴らせそう。



「な? どうだ? 言った通りだろう。何せ、君の体は私の最高傑作だからな!」



 アルクさんがドヤ顔でこちらを見ている。ちょっとうざい。

 自分の作品の性能に満足してるのか、かなりご満悦だ。

 確かに凄いとは思うけど、障壁の中でお酒を飲むのはやめてね。匂いが篭っちゃうから。



「コイツは上級種とは言え、まだ若造だ。本気のブレスもこの程度。二千年前に私と戦った時から、大して代わり映えせんな」



 せんせー…練習相手を煽るのはやめて下さい。授業が進められません。

 ほらほら、ドラゴンさんがメンチ切っていますよ?

 敵は油断させて足を掬うのが、私の人生における基本的戦術です。

 相手を本気にさせないで下さい。


「でも障壁の外は、溶岩っぽく溶け始めてますね。フロアの床、抜けちゃいませんか?」



「この程度の炎で穴が作れるのなら、今頃こいつはここに居らん。コイツはここで寝こけている内に体が成長してしまい、外に出れなくなった粗忽者なんだよ。あははははは。」



 アルクさん、凄くいい笑顔で他人の黒歴史をバラしおった…。

 炎の(ブレス)を吐き出している音で聞こえづらいと思うんだけど、ドラゴンさんにはこちらの会話は丸聞こえなのか、神でも殺せそうな形相でアルクさんを睨んでくる。

 今のところ問題なく耐えられますけど、一気にブレスの火力が上がったよ?

 それに合わせて障壁内の気温も、初夏から夏日へとバージョンアップする。



 このままだとマズイ気がする。こちらから動いたほうがいいのだろうか…。

 どうしたら良いですか?指示を貰おうとアルクさんの顔を窺ってみる。



「───昨日も話したが、神は膨大な魔力をそのまま“世界”に打ち込み、事象を丸ごと改編する。これが、いわゆる神の使う『奇跡』の仕組みだ」



 なんでか、いきなりアルク先生の講義が始まった。



「そして、神とは比べ物にならぬ貧弱な魔力を使い、いくつかの極小の『奇跡』を起こし、それらを組み合わせることで神の奇跡に肉迫する結果を生み出す技術、それが魔法だ」



 それはもう聞きましたけど…。



「例えば怪我人を治す事になったとしよう。神は10000の魔力を使い、怪我人が怪我をしていない状態へと世界を改編(・・・・・)する。これが神の奇跡の力だ。これに対して魔法とは、1の魔力で怪我の部位を感知し、5の魔力で適切な細胞の再生能力を高め、2の───」



 どうも遠回しに『俺に聞かず自力でやれ』と言われてる気がする。

 適当に相槌を打ちながら、反撃準備の仕込みをしておこう。




「───それら小さな奇跡たちをパーツとして扱い、呪文という擬似的な簡易魔法陣へとパッケージ化させた後に一気に発動させる。これが『魔法』という技術だ。分かったかね?」



「はい、分かりました」


「よし、そろそろ(ブレス)が終わる。反撃準備はできてるね?」


「はい、準備万端です」


 あのドラゴンさん随分と長いことブレス吐いてるな…でも耐え切れそうだ。

 次はこちらの番だ。鼻で笑われた時のことは、まだ憶えているからね!

 よし、ブレス終了!



「では行ってきなさい」


「はいっ!」





 私は私はアルクさんに背中を押されると、<魔力障壁(フォース・フィールド)>を解除すると同時に、前もって準備してあった自分の基本機能その2~4を起動させる。

 順番に<知覚強化><思考加速><身体強化>の三つの機能だ。



 他に<高速飛翔>も準備だけはしてあるけど、今は起動させずにフロアの石畳を走る。

 まずは飛べないふりをして、相手の油断を誘うのだ。



 でも思った以上に床が溶けてて動きにくい。

 視線でドラゴンを牽制しながら、床を冷やすために<氷の嵐>の呪文を唱える。

 冷たい嵐に包まれるはずが、スチームサウナのような水蒸気に囲まれてしまう。

 焦って呪文を失敗したか?! まずい、蒸気で何にも見えない。



 急に横から何かが迫ってくる気配を感じたので、即座に<高速飛翔>を起動させ、真上へと退避する。


 

 空中から見下ろすと、今まさにドラゴンが体を捻らせ、私がいた場所を尻尾で薙ぎ払おうとしているのが見えた。


 ここで魔法詠唱を始める。初歩的な魔法なら詠唱時間も短い、すぐに完了する。

 ドラゴンが、体躯の勢いを殺しきれずに、私に背を向ける。

 そのタイミング合わせ、立て続けに合計100本の<魔力の矢>を放つ。



 ドラゴンは矢から身を守るように、必死に翼を動かすが、残念!

 後頭部あたりが狙われてると思った?



 私の狙いは最初から、コウモリのような翼についてる、皮膜のような部分だ。

 そこが一番強度なさそうだしね。私は続け様に、計200本のお替わり(まほうのや)をプレゼントした。



 とはいえ<魔法の矢>程度の攻撃では、ドラゴンには通らないみたいだ。

 その証拠に翼に身を隠し、矢を受けながらも一歩たりとも動いていない。

 もしかしたら『ククク…この攻撃が尽きた時がお前の最後だ』などと思いながら、防御に専念してるのかもしれない。それなら尽きること無く攻撃し続けよう。



 そして私は5つ目の機能、<多重詠唱>を起動させる。



 <魔法の矢>の雨を緩めること無く振らせ続けながら、同時にそのワンランク上の魔法である、<魔力の槍>を唱えて放つ。

 身動きしていないドラゴンの翼を、10本の槍が突き抜けると、そのまま槍は床に突き刺さり霧散する。



 その直後、けたたましい悲鳴のような声が、フロア中に響き渡った。



 畳み掛けるべく20本の槍を作り出す私を見て、ドラゴンは翼を羽ばたかせるが、上手く浮かぶことができない。

 慌てて避けようと走りだしても、もう遅い。こちらはお空で、君は地上。

 地形効果を侮ってはいけない。

 

 これでチェックメイトだと心で勝ち誇りながら、私は手を振り下ろし槍を放つ。

 その刹那───



「そこまで!」



 ドラゴンと私の間に、突如として黒い巨大モノリスが現れた。

 そこへ全ての槍が飲み込まれると、アルクさんから試合終了の合図がかかる。

 先生、その魔法カッコイイので後で教えて下さい。





「何という失態…。こんな小娘如きに、やられるとは…」


 アルクさんに魔法で翼を治療してもらいながら、ドラゴンさんは凹んでいた。

 ざまあないです。


「あはは、どうだ! 彼女は中々やるだろう? まあお前のブレスなら、直撃さえすれば火傷くらいは食らわせられる。問題はそれ以上を望む場合だが…」


 アルクさんは思案顔で、顎に手をやり、遠くを見つめだした。

 ちょっとちょっと。何で、私の攻略法を練ってるんですかね…。

 今は私がドラゴンさんを倒すための実地研修中ですよね?

 そういう訳でもう一戦やりましょう、まだまだ練習し足りない。



「もういい」


「え?」


「もういい、ワシの負けだ…。馬鹿にして、すまなかったな」


「ドラゴンさん…






 …それだと私の練習にならないので、もう一度。今度は本気で行きますね!」



「やめんか貴様、ワシを殺す気か!」


「これからも階層守護者としてのお仕事をしてもらうんですから、そんなつもりはありません。鼻で笑われたことも恨んでませんよ。ええ本当です」


「恨んでいたのか…ホントにすまん」


 小娘相手に頭を下げられるとは立派なヒトですね、では水に流しますか。


「冗談はさて置きですね。私はこれから上にいるはずの階層守護者たちを、一匹残らずシメないといけないのです。ここで少し練習して行きたいんですけど」


「お主に、練習なんていらんだろ…」


 ドラゴンさんは、呆れたように呟くけれど、基本機能で唯一の攻撃技も使ってないし、ここで満足行くまでテストしたい。


「いや。彼女も中盤以降は安定していたが、試合はじめに凡ミスがあったな…」


 アルクさんに駄目出しされてしまった、あのスチームサウナのことか。

 そういう所はやっぱり実戦を重ね、学んでいくしか無いですよね、要練習だ。


「いやいやいや!ここより上の連中相手に練習など必要あるまい。ワシが保証する!」 


 ええと…ドラゴンさんは何でそんなに必死なの?



「ところでお主、名は何と云う?」


「ユマリアです。ユマリア=カムイソルナ」


「そうか、我が名はドライクという。これからよろしく頼む」


「こちらこそ、よろしくね」


「では疾く、上の階へと進むが良い。疾くと進め。即座に進め」


「うん? では行ってきます」


 ドライクと仲良くなれました。なれたよね?





 さてアルク先生、上の階へと向かいましょうか。






<高速飛翔>は基本機能その6です

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