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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第一章 プロローグは、一章が終わるまでがプロローグです。
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 黒い球に吸い込まれた直後、ゆっくりと目を覚ますと、そこはガラス製のプールの中だった。鼻にも水が入っているのに不思議と息苦しくはない。


 素っ裸なのは少々気になるが、今はそういうことに拘ってる状況じゃなさそうだ。この水なんだか発光してるけど、ヤバいブツじゃないよね?



「どうやら成功したようだな、私の声が聞こえるか?」



 薄暗い部屋の中、ガラスの向こうからこちらを初老の男性が覗いてくる。何に『成功した』のかは知らないけれど、声は聞こえてるので取り敢えず頷いてみる。



 これが今風のあの世への移動方法なのだろうか、三途の川は廃れたのか。

 いやそんな話ではないだろう、多分ここはファンタジーな異世界。


 だって目の前に居る銀髪のおっちゃんはローブ姿で杖を持ってる。このひと魔法使いでしょ?


 私の体も幽霊じゃなくなってる。生まれ変わったように細くて白い、瑞々しい肌。

先ほどおっちゃんが言っていた『成功した』とは、多分この体のことだろう。


 黒い珠に吸い込まれた時は、地獄の直行便にでも乗せられたのかと思って焦ったけれど、私の知識にある展開っぽいので安心した。



「いま培養液を抜くから、少しの間そのままでいてくれ」



 目の前の魔法使いさん(仮)が杖をチョチョイと動かし、呪文のようなものを唱え始める。



 やがてプールの水が排水口へと流れ落ち、ガラスの容器も床に沈んでいく。おっちゃんは私に服を差し出し静かに微笑みこう言った。


「はじめまして。突然の事で驚いただろう?ここは君にとっての異世界だ。<アルカデイル>へようこそ」


「いやー、驚く程のことではないですね。ところで元の世界に帰るにはどうしたらいいんでしょうかね?世界とか救ったらいいですか?それとも神と戦う?」



 おっちゃんは微笑んだまま固まった。私は無視して服を着た。



 おっちゃんには悪いけど、こちとら気付いたら死んでいて、さらに幽霊になって彷徨(さまよ)った。

 もうそこで一生分の驚きは終えたんですよ。異世界召喚なんて、その景品(オマケ)に過ぎんのです。

 そんな事よりも、私の葬式中に『ドッキリ!』と書かれたプラカードを持って現れてくれたほうがよっぽど驚いたと思う。







「えっ、帰る方法はないんですか?」


「すまんが“今すぐに帰る”方法はないのだ。今は<召喚期>だからな」


「もぐもぐ。召喚期?」


 よく判らないファンタジー用語が来た、説明してもらおう。


「<召喚期>というのは星の廻り合わせにより“他の世界に存在する生命を、この世界へと召喚できる時期”の事だ、これはあと一週間ほど続く。それとは逆に“この世界から元の世界へ帰すため”の<還送期>という時期もある。但しそれは五百年ほど先になる」


「五百年…帰れるようになる前に寿命が尽きちゃうじゃないですか…」


 思わずしょんぼりな声になってしまう。私の『取り敢えず食べ物ください』のリクエストに応え、皿一杯に盛ってくれた炒り豆をボリボリ齧りながら愚痴を溢す。

 肉体を手に入れたら、取り敢えず何か食べたくなるよね。


「いや!この世界での君に寿命はない!そこは安心して欲しい。異世界から召喚された魂を宿す存在は全て<定命あらざる者(イモータル)>となる。もっとも…病気や怪我、飢えなどの外的要因によって死ぬ例はあるが」


 『あわあわ』という擬音が付きそうな表情で、おっちゃんが説明してくれる。


 いも…え?なに? あー、はいはい。芋小樽ね、じゃがバタ美味しいよね。

 そうか、私は不老不死になったのか。でも死ぬことはあるらしいから、ただの不老かな?

 そういや漫画に出てくるヴァンパイヤって、不老不死とか言われてる割に陽の光を浴びてサラッと死ぬよね?あれは不死じゃないと思う。

 私にも弱点とかありますか?



「君の場合は並大抵の事では死なないよ、特に弱点もない。異世界から召喚されただけの常人ならともかく、君の身体は私の最高傑作の人造人間(ホムンクルス)だからな!下級竜のブレス程度なら直撃しても火傷一つ負わん」


「ホムンクルスなら私も知ってます!あれっ?ホムンクルスは元から不老ですよね?というか私の魂も不要じゃないの?」


「君の世界のホムンクルスはそうなのだろう。だがこの世界のホムンクルスに魂はない。見た目に自我があるように見えるが、実際には製作者が組み込んだ擬似的思考の枠内でしか動けず、不測の事態への対応力がない。君の魂が宿ったその体は不老だが、本来ならば経年劣化という名の老化現象もおきる」


「私の世界のホムンクルスなんて知りませんよ。でもそれ、どっちかというと私の世界ではゴーレムに近いですね。もぐもぐ」


「いまホムンクルスは知ってると言ってたじゃないか…」


「ええと…うん。 私のいた時代には、もう存在してないんですよ」


「なるほどな。こちらの世界ではゴーレムとホムンクルスの違いは、肉体(ボディ)を鉱物など既存の資源で組み上げるか、無から作るかで区分している」


 へー。じゃあ、この体は無から作られたのか。試しに手をグーパーして体の感触を確かめてみる。

 以前の私の身体より少しだけ小さいな。手や肌が瑞々しくて白くて細いのはいいけれど、Eあった自慢の胸がBにランクダウンしてしまったのは残念だ。

 以前の身体は火葬場で煙になっただろうし、Eなバストは諦める。

 鏡がないからどんな顔をしてるのか判らないけれど、若返ったみたいだし、心機一転で生きていこう。

 帰れるようになるまでの五百年、ここでお世話にならせてもらおうか。



「そういえばお互い自己紹介がまだでしたね。私は<地球>という世界の島崎ゆまといいます。もぐもぐ。生前は普通の会社員でした」

 私は持ってた皿をテーブルに置き、微笑みつつ彼に握手を求めた。

 

 この世界に召喚された理由はなんだろう?彼には異世界人を呼び出さなければいけない何らかの理由が、そして私にやらせたい何らかの“仕事”もあるはずだ。

 豆もくれたし悪い人じゃなさそうだから、ブラック企業みたいな無茶な労働条件は押し付けてこないとは思う。


 でも『そんな事を軽々とできるのはお前だけだ、このチーターめ!』と言いたくなるような事を、何の気なしにやらさせる可能性もある。

 出会い頭の会話じゃないが『おう、お前ちょっとひとっ走りして世界を救ってきてくれ』なんて気軽に頼まれたら、流石にやんわり断ろう。

 この体は下級竜のブレスも防げるらしいけど、魔王や神様の攻撃は痛そうだ。


 あっ、そういえば。この世界でも握手は失礼に当たりませんよね?

 侮蔑や威嚇のポーズ扱いとかじゃないですよね?

 あ、良かった握手してくれた。これで安心して豆を食べられる。



「私の名はアルク。アルク=カムイソルナ。この世界で“魔法”という概念を生み出した原初の存在だ。人は私を<魔導の神(カムイソルナ)>と呼ぶ」


「プヒョッ!」

 おまえが神か!そして変な音が出た。

 口から飛び出た豆鉄砲(ショットガン)が神様の顔面に直撃する。

 ゴメンゴメン。私は服の袖で神様の顔を拭く。バチ当たらないよね?


「そして君の名はマリア=カムイソルナ。君にはここ<奈落の地下迷宮(アビス=ラビス)>の、そして私の遺産である<魔導の書庫(マグナ=ライブ)>の管理人を務めてもらいたい」


「えっ?」


 いきなりぶっ飛んだ話を立て続けで頭に詰め込まれ、思わず固まってしまった。

 ここがダンジョンの中だった事にも驚いたけど、私の名前まで決まってたのか…。


 キラキラネームの人には悪いけれど、昭和生まれの日本人からすると、自分がマリアと呼ばれるのはちょっと気恥ずかしい。

 ゲームで自分のキャラにだって、そんな名前は付けない。


「アルクさんは神様だったんですか。この世界に来て初めて驚きました。大変無礼な事をしてしまい申し訳ありません。でも私の名前は『島崎ゆま』のままがいいです、勝手に改名されるのはちょっと嫌ですね」


「マリアで良いじゃないかマリアで。素敵な名前だと思うぞ? まあ私は現世の人間に神と同列に扱われているだけで、実際には神ではない。本来は<古代人>と呼ばれるただの人間だ。だからマリアが畏まる必要なないんだよ」


 アルクさんは一応は人間だけど、種族的に今の人間とは別種族ってことかな?

 あと私はゆまです、マリアじゃありません。処女受胎なんてしたことないしね。

 何で『マリア』に拘るんだろう、昔に振られた女の名前がマリアなの?


「───じゃあ、間を取ってユマリア。ユマリア=カムイソルナ。それが新しい君の名だ。これ以上は一歩もまけられない」


「“じゃあ”って何ですか…じゃあって…」

 それ、間とってないし!混ぜただけだし!



214/07/04 一部修正しました。

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