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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第一章 プロローグは、一章が終わるまでがプロローグです。
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プロローグ 終わったり始まったり

 どうやら私は死んだらしい。


 でも死ぬ間際の記憶はない。


 自我を取り戻したのは、ついさっき。



 私が目が醒ました瞬間に、目の前でいきなりお坊さんが念仏を唱え出した。

 思わず『まだ死んでないわよ!』と怒鳴ったけれど、無視された。


 周囲を見たら両親やお兄ちゃんや兄の家族が居た。

 そして親戚の人たちもたくさん居た。みんな悲しそうな顔をしてた。



 死因は脳溢血。



 先ほど終了した告別式で、親戚の叔母ちゃんがそう言ってた。



 棺に入った私の体も、今頃は火葬場に着いただろう。

 火葬場は、ここから歩いて5分の場所だしね。



 まさか自分が幽霊になるとは思わなかった。



 まあでも幽霊になれる機会(チャンス)なんて、滅多にあるものじゃないし、少し彷徨(うろつ)いてみよう。


 そうだな、まずは火葬場に行こう。自分が燃やされる場所だから、記念に見ておきたいな。






 火葬場の入り口に会社の後輩が佇み、中を覗きこんでいるのが見えた。



 彼女は雪野涼子ちゃん。私の職場の後輩だ。

 去年の春にうちの商品開発課に配属されてから、私がずっと可愛がっていた。



 彼女とは一回り以上も歳が離れていたけれど、新人歓迎会での会話の中で彼女の趣味が私の学生時代に嵌っていたものと同じだったと判明した。

 その時から、子犬のように懐かれてしまった。

 趣味とは漫画やアニメ、ゲームのこと。まあ有り体に言えばオタク趣味です。



 私は今さらその世界には興味もなかった。

 でも彼女があまりにも嬉しそうに話しかけてくれるので、私も嬉しくなっていつも彼女の話の聞き役になった。

 おかげで彼女の薦める深夜アニメを見出したり、あまつさえネットゲームまでするようになってしまった。



 いつしか私達は、お互い職場を離れて合う場所では名前で呼びあう仲になった。



 私が倒れたあの日も、彼女がお気に入りのゲームに一緒にログインし、セクハラ上司への鬱憤を晴らすべく仮想空間にて鉛弾を大量にばらまき、敵を大量虐殺する約束をしていた。



 だけど私はゲームにログインできなかった。

 涼子ちゃんは私が寝落ちでもしたのかと思っただろうけれど、次の日も出社してこない。電話にも出ない。

 さんざん心配させてしまった挙句に、私の訃報は届いただろう。




 いや、もしかしたら私の遺体の第一発見者は涼子ちゃんだったのかもしれない。

 その可能性は低くはない。だとしたら申し訳ない。

 彼女のトラウマにならなければいいのだけれど無理か、無理だよね。ごめんね。



 涼子ちゃんはしばらく火葬場を見つめていたけど、やがて俯きながら帰っていった。

 去り際に火葬場の建物へと深々とお辞儀をしていた彼女を、私は後ろ髪を引かれるような気持ちで見送った。



 私は死んでしまったけれど、特に心残りはない。

 彼氏いない歴イコール年齢だけは少し残念だったけど、その他の欲しかったものは大抵は手に入れた。

 もっと歳をとってから、一人寂しく逝くよりはいい。



 そう思っていたけれど───彼女だけの行く末だけは心配だ。



 (人見知りのする涼子ちゃんが、これからも会社で上手くやっていけるだろうか)

 (早く良い人を見つけて幸せになってほしいな)

 (…彼女の結婚式には参加したかったな)



 今まで私は彼女の母親の気分だったんだなと、改めて知った。

 独り身歴の長かった私の心は、彼女のおかげで満たされ、救われていたのだから。



 でも、だからこそ、もう私は彼女に必要ない。



 いつまでも一緒に居たら、彼女が困ったときには頼まれてもいないのに、ホイホイと過保護な母親の気取りで手を貸してしまうだろう。

 それでは彼女の自立心を潰してしまう。



 社会人は独りで立ってこそ一人前というのが私の持論だ。

 彼女には一人前になってほしい。

 そのための基礎知識(たたかう ちから)は、既にみっちり叩きこんである。



 世の中には『可愛い子には旅をさせよ』という言葉があるが。

 私にとって涼子ちゃんは世界一可愛いから、そろそろ一人で旅をさせるべきだったのだ。



 私は彼女を必要としていたけれど、彼女は私など、本当は必要ないのだ。

 彼女の戦いは、いま始まったばかり!涼子先生の活躍にご期待ください!




 うん、何だ私ここで死んで正解じゃないか。

 そう思い直すと、少し心が軽くなった。



 これでもう本当に心残りは何もない。

 でも君のことはちゃんとあの世から見守っているからね。






 やがて私の体は自分の意志とは無関係に、ゆっくり空へと浮かび出す。

 いよいよ本格的にお迎えか、予想以上に早かったのは心残りが消えたからだろう。



 涼子ちゃんが歩いているであろう方角に『じゃあね、頑張ってね』と呟いたあと、私は天を仰いだ。

 どうか来世では彼氏が出来ますように───って、あれ?




 煩悩の塊みたいな事を考えたのが悪いのか、私が空へ向かうのを防ぐかのように黒光りする珠が浮かんでいた。

 もしかして私、あの珠に吸い寄せられてないか?



 上司から『ちょっと話があるから会議室まで来てくれ』と言われたときとは比較にならない程の恐怖を感じ、慌てて黒い珠から逃げるべく空中で得意のクロールを始める。

 しかし心は嫌がっていても体は正直だ、じりじりと黒い珠へと近づいていく。



「やだ!助けて!死にたくない!」



 そう叫んだものの、健闘むなしく黒い珠に私の体が到達してしまう。

 私の足先が球に触れると、珠の表面に謎の文字のようなものがびっしりと浮かび上がり、その直後に怪しげな駆動音を立て始める。



 黒い珠は耳なし芳一だった、うわなんかキモい!と思った瞬間に、珠の中へと私は吸い込まれた。



プロローグ長すぎ?異世界へ行く前の話って普通はサラッと流すものですよね。でも必要な前振りだけじゃ寂しいので加筆しだしたらこうなりました。初投稿ということでご容赦ください。涼子ちゃんは再登場の予定ですが、暫くの間は登場しません。


2014/07/04 修正しました。

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