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人間の定義  作者: hayate
4/6

父親

事故の後、すぐに俺は救急車を呼んだ。

大きくなっていくサイレンの音は、勇輝を助ける救世主の登場シーンに流れる、挿入歌のようだった。

救急車は俺の目の前で止まり、医者達は意識のない勇輝を横にしたまま中に入れる。

勇輝と付き添いの俺と医者達を乗せると、挿入歌は再び流れ出し、次にそれが止まったのは病院でだった。

手術はすぐに行われ、成功はしたが、病院に駆けつけた勇輝の親には衝撃的な言葉が突きつけられた。


勇輝が意識を取り戻す可能性は、ほぼない。


大声を出して泣き崩れる母親を、抱きしめる父親の目にも涙が溢れていた。

それは、後で聞いた、勇輝が目覚めないという報告を必要としない絶対的な光景だった。


勇輝は植物状態になったのだ。


その光景を見て、俺は自分の間違いに気づいた。

都合のいい奴と言われても構わない。

それでも言わせてくれ。


植物状態の人間は死人なんかじゃない。


「勇輝、聞こえてるか?返事しなくても、俺の声届いてるんだろ?もう、目を覚まさないなんて嘘なんだよな。話を出来ないってのも、飯食えないってのも、何処にもいけないってのも、全部……全部嘘なんだろ。なぁ……明日も学校行けるよなぁ。一緒に行けるよな!!もうすぐ先輩の卒業式なんだぞ!寝たままでいいのかよ!寄せ書き書くんだろ!なぁ……何か言えよ……一言でいいから……何とか言えよ!!勇輝!!」


病院に悲しい叫び声が何度となく響いていた。

病院にいるほぼ全員がその叫び声を聞き、また、その半分程が可哀想にこちらを見つめていたが、たった1人、一番届いて欲しい人に、その叫び声が届くことはなかった。


『コンコン』

二回のノックが病室の外から行われた。

扉が、叫び声の後の静寂に罅を入れてゆっくりと開く。


「失礼します。」


聞き覚えのある声に、俺は絶望を感じた。


「健太じゃないか!」


振り返らなかったのは、顔を見なくても誰だか分かっていたから。

言葉を返さなかったのは、話を聞きたくなかったから。

その状況にいる俺は、運命から逃れようとする哀れな羊のようだった。


「なんでここにいるんだ。」


羊は、やはり言葉を返さなかった。

逃れられないことを知りながら、それでも抵抗する様は、惨めだったに違いないが、そんなことは気にしなかった。


「もしかして、勇輝君なのか?その子。」


無視をしていてもしょうがなかった。

だから、その行動は当たり前だった。


「お願いだ親父。勇輝を殺さないでくれ。」


地面に手をつき頭を下げた。

額も三月の冷えた床についていた。

俺に出来る精一杯の行動だった。


「ダメだ。悪いがその願いは聞けない。」


吐き捨てられた台詞は、悪である自分を正当化し、今まで最上位にあったものを最下位に

落とすだけの力を持っていた。


「俺は仕事として、死人をベットに寝かしたままには出来ん。」


親父のいうことは理解できた。

親父にとって……いや、世間にとって勇輝は死人なのだから。


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