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隣の席の人  作者: 亜実香
6/16

ろく

「あー、面白かった」

私は上機嫌で映画館を出た。


私達は帰り道を歩く。

隣の天野君の様子を窺うけど、いつもの無表情で感情が読み取れない。

だから素直に聞いてみることにした。


「天野君も楽しかった?」

こくんっ、と天野君が頷く。

やっぱり可愛い。

天野君も楽しかったのならよかった。

私はさらに機嫌がよくなる。


「あ、そうだ!映画代、私払ってないよね?」


映画の上映中に思い出したのだが、天野君がチケットを買ってきてくれたので、私はお金を払ってなかった。


歩きながら、私が鞄から財布を出そうとすると、

「いい。」

断られてしまった。


「でも、・・・」

私は反論しようとしたが、その時脳内にゆーちゃんが現れた。


『いい、彩花。学生だから基本は割り勘よ。でも、相手に奢るって言われたら素直に受け入れなさい。何度も断るなんてことしたら駄目よ?』

これは昨日の夜ゆーちゃんに言われた言葉だ。


私は迷ったが、ゆーちゃんの言いつけ通りに天野君の言葉に甘えることにした。

ゆーちゃんの言葉に間違いはないし。


「じゃあ、ありがとね。」

天野君に笑顔でお礼を言うと、軽く頷いてくれた。


でも、ただ奢ってもらうのは悪い気がする。

その時、私の目に喫茶店が映った。

ガラス張りの窓から店内でお茶を飲んでいるひとが見える。


そうだ!

私は喫茶店を指差しながら、天野君に言った。


「あそこ入らない?映画のお礼に奢るよ。」

我ながら良い考えだ。

これならお礼にもなる。それに私はもう少し天野君と一緒にいたかった。


私の言葉を聞いて天野君が喫茶店の方に歩いて行く。

これはOKってことだよね?

私は急いで天野君の後ろについていった。






お店の中に入ると、店員さんが席に案内してくれた。

案内された席は道に面した窓際。

そこに天野君と向かい合わせで座る。

いつも横から見るばかりだったので、こうやって天野君の整った顔を目の前にすると、緊張してしまう。


私は緊張を紛らわすようにメニュー表を開いて天野君に話しかけた。


「天野君っ!何にする?!」

勢い余って声が大きくなってしまった。

周りの席の人にくすくす笑われる。


恥ずかしい・・・。

顔に血が上っていくのが分かる。

私は思わず下を向いた。 


「佐伯さんは?」

天野君がいきなり口を開いたので、私はびっくりして弾かれたように顔を上げた。

天野君は僅かだが口元に笑みが浮かんでいる。


天野君にも笑われた。

私はどうしようもなく恥ずかしくて、再び顔を下に向け、ぼそぼそと

「ミルクティーとケーキセット」

と、言った。


しばらくは恥ずかしくて顔が上げられなかったけど、やっちゃったものは仕方ない!この際甘いもの食べて忘れよう!

そう決意して顔を上げた。


天野君はそ間に注文してくれてみたいだ。

決意したものの羞恥心を拭いきれず、天野君に話しかけることが出来ない。

天野君も喋らないので、私達は注文したものが運ばれてくるまでの間、無言のままだった。



「お待たせしました~!」

店員さんが私達の間に流れる空気を打ち破るような明るい声でやってきた。

私の目の前にケーキセットとミルクティーが置かれた。

私はさっそくフォークを持ち、ケーキを一口。

んー、おいしい!

さっきのダメージがちょっとだけ癒された。

私は二口、三口とケーキを食べていく。


「佐伯さん、ケーキ好きなの?」

珍しく天野君のほうから話しかけてきた。

ケーキで機嫌を取り戻した私はにこにこと天野君の質問に答える。


「うん!!ケーキっていうか甘いものが好き!甘いもの食べると幸せな気分になるんだよね~」


私の言葉を聞いて、天野君がホッとしたように笑ってくれた。

その笑顔にドキッとさせられ、頬が少し熱くなる。

見たのは2回目だけど、相変わらず綺麗な笑顔で見惚れてしまう。



私は話を変えようと、天野君の飲んでいるコーヒーに目を向けた。

すると、あることに気づく。

「もしかして、それ、ブラック?」


「うん、甘いの苦手。」

コーヒーには砂糖とミルクを入れないと飲めない私には信じられない話だ。

やっぱり天野君はカッコいいなぁ、と再認識した。






それから、私達は他愛のない話をして、(ほとんど私が一方的に喋っていたのだけど)喫茶店を出た。

それから天野君が私の家の前まで送ってくれた。


「今日はありがとう。楽しかった。」

私は天野君に告げた。


「じゃあ」

そういって天野君は歩いていく。


そこで私は大事なことを思い出した。

しまった。教科書のお礼まだしてない!


「天野君!お礼、まだしてないよ!」

私は天野君に向かって叫ぶ。


「もういい」

振り返って天野君が言った。



もういいってお礼しなくてもいいってこと?

でも、

「それは駄目だよ!」

再び歩き出した天野君の背中に叫ぶ。


でも、今度は天野君は振り返らずに片手を上げるだけで、スタスタと歩いていってしまった。


「行っちゃった・・・」

私はそう呟いて、見えなくなるまで天野君の背中を見つめていた。






その夜、私はベットに入って今日の出来事を思い返していた。


今日は楽しかったなぁ。

無表情だと思っていた天野君の表情を沢山見れた。

これをきっかけに仲良くなれるといいなぁ。

明日、学校で天野君に会うのが楽しみだ。


そんなことを思いながら私は眠りについた。


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