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もうすぐ部活も終わる時間だ。
私は校門で天野君を待つことにした。
校門だとすれ違う可能性もないしね。
校門に立っていると、しばらくして人がたくさん出てきた。
ちょうど今部活が終わったようだ。
人混みの中に天野君の姿を探すが、いない。
サッカー部はまだなのかな?
人の波が途絶えてきた。
遅いなぁ。見過ごしちゃったかなぁ?
時刻ももう6時過ぎ。
だんだんと薄暗くなってきた。
と、その時サッカー部らしき集団が校門に向かって歩いて来るのが見えた。
その中に天野君の姿も見える。
天野君に借りた教科書を鞄から取り出す。
準備OKだ。
サッカー部の集団がこちらに近づいてくる。
「天野君!!」
声をかけると天野君はこちらをちらっと見た。
「えっ?何告白??こんな可愛い子、広樹もやるじゃん!」
天野君の近くにいたサッカー部員がからかってくる。
私が急いで否定するより先に、天野君が
「うるさい。お前ら、先帰れ。」
と、言ってサッカー部の人たちを帰してしまう。
サッカー部の人たちがみんな帰ってしまって、校門の前には私と天野君のふたりだけになってしまった。
さっきあんなことを言われたからか、少し緊張してきた。
「で、何?」
天野君の言葉に弾かれたように、私は両手を突き出す。
もちろん、天野君の教科書を持って。
「あのね、教科書ありがとう!!おかげで助かった!でも、私のせいで天野君が怒られちゃってごめんね。お礼に掃除当番変わるとか、宿題やってくるとか、何でもするから何でも言って!!」
よし、言いたいこと全部言い切った。
これで天野君に逃げられる心配はない。
「うん。」
天野君はそう言って教科書を受け取った。
何の「うん。」なのかは分からないが、ちゃんと伝わったようだ。
「家、どこ?」
いきなり天野君が聞いてくる。
よく分からないが、
「駅の近くだよ。」
と答えておく。
すると天野君は駅の方向に向かって歩きだした。
「天野君の家も駅のほうなの?」
と、聞いてみたが返事はない。
相変わらずの無表情で感情も読めない。
仕方がないのでそのままついていくことにした。
天野君と歩いている間、会話はなかった。
ただ交差点があるごとに、
「どっち?」
と、聞いてくる。
たぶん家の場所を聞かれているのだろう。
そう思って私が
「あっちだよ。」
と、答えると、天野君は黙ってその方向に向かって歩いていく。
その繰り返しであっという間に家に着いてしまった。
暗くなったから送ってくれたのかな?
「送ってくれて、ありがとう」
「日曜、10時に駅前。」
何のことだろう。
ありがとう、の返事ではない。
わからない、という気持ちを視線に込めて天野君を見上げる。
「礼。」
短い返事が返ってきて、天野君はスタスタと歩いて行ってしまった。
そっか、お礼のことか!
って、えーーーっ?!
掃除とか宿題じゃないの??
お礼って何させられるんだろう?
思いもよらない返事に私はパニック状態だ。
とりあえず、落ち着け私!!
ようやく落ち着いた頃に、天野君が歩いて行った方向をみると、もう天野君の後ろ姿は見えなくなっていた。