に
天野君が教室を出て行って30分が経った。
みんな部活に行ったり、帰ったりで、教室には2、3
人しか残ってなかった。
天野君、遅いなぁ・・・
結局、教科書も返してない。
それに謝らなくちゃいけない。
だから、天野君が帰ってくるのを待っているのだが、なかなか帰ってこない。
そうとう怒られてるんだろうな・・・
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「彩花ー!!」
「美桜、ゆーちゃん」
名前を呼ばれた方を向くと、友達の伊藤美桜と橘柚月が近づいてきた。
この二人とは去年クラスが一緒で仲良くなった。
美桜はオシャレでちょっと派手な感じ。
ゆーちゃんはしっかりしててお姉さんみたい。
みんなタイプは違うけど、一緒にいると楽しくて、登下校も一緒にしている親友だ。
「ごめん。待った?トイレ行った帰りに担任に雑用押し付けられてさー。遅くなったけど、帰ろっ!!」
美桜にそう言われたが、このまま帰る訳にはいかないので、天野君を待つことに決めた。
「ごめんね、美桜、ゆーちゃん。用事があるから先帰ってて。」
「何の用事?」
ゆーちゃんが聞いてくる。
「や、天野君に教科書借りちゃって。返さなきゃいけないから。」
「えっ!天野君に借りたの?!いいな~~!うらやましい!!」
美桜が興奮したように身を乗り出してきた。
そういえば美桜ってイケメン好きだっけ?
「美桜、近いよ・・・」
私が困っていると、ゆーちゃんが美桜を引っ張って私から引き剥がした。
「もー、あんたはイケメンなら誰でもいいの?彼氏いるんでしょ?」
「それはそれ!これはこれなの!!・・・彼氏他校で最近あんま会えないしさ。」
美桜がふてくされて言った。
女の子の顔してる。可愛いなー。
あ、とゆーちゃんが声をあげた。
「どしたの?」
美桜が聞く。
「数学の時間、教科書持ってないって天野君怒られてたじゃん?彩花が関係してるってこと?」
流石ゆーちゃん察しがいい。
「そうなの。私が借りちゃって。だからそれも謝らないといけないの。」
「ふーん。自分が怒られてまで貸してくれるなんて、天野君カッコいいねぇ」
ゆーちゃんが意味ありげに笑った。
「なになに?!ラブ関係?!」
美桜が口を挟んでくる。
「もうっ!そんなんじゃないよ!!」
力いっぱい否定したけど、二人はニヤニヤ笑ったままだ。
「じゃあ、あたしらは帰らないと邪魔になるね。柚月、先帰ろっか!」
「そうね。じゃあね、彩花。」
「ばいばーい!」
二人はやっぱりニヤニヤしながら、さっさと帰ってしまった。
「そんなんじゃないのに・・・」
二人と話しているうちに、みんな帰ってしまったようで、誰もいない教室に私の呟きだけが響いた。
二人が帰って20分くらい、天野君が教室から出て行ってから1時間が経とうとしていた時、天野君が帰ってきた。
天野君は帰る準備を始めた。
「天野君、ごめんね。今までずっと怒られてたの?」
そう声をかけると、天野君は手を止めずに
「ああ、説教のあと準備室の片付けさせられてた。」
と、ぶっきらぼうだけど返事が返ってきた。
初めてちゃんと会話が成り立ったんじゃない?
ちょっと嬉しくなった。
「部活行くから。」
荷物を持って天野君はスタスタとドアに向かって歩いていく。
片付け早っ!!いつの間に鞄持ったの?
「ちょっと待ってっ!」
慌てて追いかけようとしたが、天野君はもうドアの向こうに見えなくなった。
「行っちゃった・・・」
まだちゃんと謝ってないのに。
何より教科書返してないのに。
しょうがない。部活が終わるまで後1時間。
ここまで待ったんだ。
もうちょっと待つことにしよう。
そう思って、私は自分の席に座り直した。
ふと、窓の外を見るとグラウンドでサッカー部が練習していた。
あ、天野君だ。
練習着に着替えた天野君がグラウンドにやって来るのが見えた。
すぐさま女の子達に囲まれたのも。
ほんと、モテるんだなぁ。
なんだか女の子に囲まれた天野君を見ていると、胸の中がもやもやしてきた。
なんだこれ?
落ち着かなくなって、グラウンドから目を離した。
しばらくして、もう一度グラウンドに目を向ける。
練習するサッカー部員の中に天野君を見つけた。
颯爽と走る天野君はキラキラと光っていた。
女の子にモテるのも頷ける。
脳裏に天野君の笑顔が浮かんできた。
あんな顔して笑うの、他の人は知ってるのかな?
私は天野君から目が離せなかった。