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禁断の悪戯果実  作者: 宛 幸
序幕
3/4

旧校舎と少女

 時刻は5時30分を過ぎた頃。

 二人の少年少女は一度帰宅し、学校裏、森の入り口に集まっていた。


「さて、行くか」

「……うん」

「大丈夫だって。いざとなれば俺が守るからよ」

「……うん」


 気分はピクニック……なのは少年だけで、少女の方はあまり気分に乗らないようだった。


「噂話持ち出したのはお前だろ?だったらもっと気を張れよ」

「……む、無理。話を持ち出すのは好きだけど、実際に体験するのとか……怖いよ」

「なんだよ~。情けないなあ」

「うぅ…。男の子のあんたとは違うんだもん」


 少女はむくれ、頬を膨らます。

 それに少年は半ば呆れ、心配しながらも森の中を少女の速度に合わせて歩く。

 森は夕日の光で赤くなり、異次元のような気分にさせる感覚を覚えさせた。


「――きゃっ」

「……大丈夫だよ。ただの鳥だって」


 茂みが揺れ、少女はビックリして短い悲鳴を上げるが、少年がそれを諭す。


「……もう帰りたい」

「弱音は男がするものじゃないぞ」

「……私女だもん」


 歩いて数分。道は出来ていて、沿っていれば簡単に森を抜けられるようになっていた。


「……これはすごいな」

「……不気味」


 森を抜けると、すぐそこには廃れてボロくなった廃校舎である旧校舎が影を作り建っていた。

 入り口の扉には『入るな』と書かれた看板と、数メートルはありそうな鎖が落ちていた。


「これ、きっと山田の奴が入った証拠だよな?」

「……たぶんね」

「んじゃ、入るか」

「――ほ、本当に入るの?」

「当たり前じゃねぇか。そのためにここまで来たんだ。ここで帰ったら男が廃るってもんだ。旧校舎は廃ってるけどな」

「……そういうつまらない冗談はやめて」

「……」


 ちょっとした軽口ではあったが、割と渾身の軽口を冗談と言われてショックだったのを尻目に、旧校舎の入り口の扉を開ける。


「……これはひどいな」


 中はボロボロで、床は所々抜けていて壁にはヒビが入って割れていた。

 下駄箱らしき大きな物が左右にあったが、底が割れ、最早ただの木で出来た作り物の残骸でしかなかった。


「懐中電灯は持って来たか?」

「……あるよ」


 少女は肩に掛けていたポーチから持ち運びには持ってこいの小型のライトを出した。

 それに対し少年の物は、避難用に使われる大きなライトだった。


「……準備がいいんだな」

「備えあれば憂いなしって言葉が好きだから」


 少年は苦笑いを少女は軽く微んで、ギシギシと鳴く先の見えない廊下を照らしながら歩き始めた。


「それにしても、ほんとボロいな…」

「確か120年くらい前からあるって話だよ?」

「そんなに前なのか……そりゃこんなボロくもなるわな」


 見渡すと、窓と一部の壁以外すべてが木で出来ており、扉や床や天井までもが木の造りで、電光灯なんかはヒビ割れで中が剥き出しである。

 非常用のベルなんかはなく、暗くて奥が見えないのを除けば単純な造りであるが分かる。


「これだけ古いと、フインキあるよな」

「雰囲気なんだけどね。……そうね。身の毛も弥立つ雰囲気を持ってるね」


 ……ギシ、ギシ…

 歩く度に響く床の音は、静寂とした廊下によく響き、独特の怖さを醸し出す。

 少女は身を縮めて少年の後ろを恐る恐る着いて行く。

 反対に少年は怖れながらも堂々とした感じで前を歩く。


「こう言う所もたまにはいいよな」

「……」


 背後には気配を感じるため、少年は気にしながらも構わずに進む。

 ――フッ

 瞬間、目の前に青白い光が過った気がした少年は、それの同意を求めようと後ろに振り向く。


「……なぁ。今なんかそこ通らなかった……か…」


 …………。

 少年はまるで氷ったように固まり、表情を強ばらさせた。


「 」


 少年は冷や汗が滲み出て、足をガタガタさせて恐怖と言う感覚を実感していた。

 だってそこには少女の姿が“ない”のだから。


「……お、おい……。嘘、だろ…?」


 目の前の現実に驚愕と恐怖して少年は声を荒げる。


「……おい。いるんだろ?返事しろよ……。おいっ!!」


 何度呼んでも返事はなく、あるのは響く自分自身の声と静寂。

 少年は目の前ばかりに気を取られて少女のことを確認してあげられなかったことに後悔をした。


「……返事…しろよぉ……おい…」


 少年の声は虚しく虚空へ消える。

 見渡すも矢張誰もおらず、虚しさは寂しさに変わる。


「…………こうなるなら来なければよかった」


 後悔先に立たず。

 少年は少女の言っていた言葉を思い出す。


「(後悔をしたくなければ先をよく考えるべし。……ほんと、俺ってば馬鹿だよな……くそっ)」

 

 後悔は腹立だしくも自分への怒りに向け、先程までの自分に説教したい気分になる少年。


「……少女を捜すか(捜す?捜すってどこを?このだだっ広い校舎の中を俺一人で、しかもどこに行ったかわからないのにどう捜せばいいんだ)」


 考えると考えるだけ後悔が塵のように脳内をグルグル回って積もり出す。


 ――しくしく


「――っ!?」


 風が掠れるようなそんな音がどこからか聞こえて来る。


 ――しくしく。しくしく。しくしくしく……


「……な、なんだ…っ?」


 だけだ良く聞くと、どこか子供のようなすすり泣きにも聞こえる。


「ど、どこから……」


 ――しくしく…しくしくしく……しくしく


「……?」


 音が鮮明に聞こえて来たと思ったら、次は急に止んだ。

 少年は焦り、辺りを見回す。だがどこにも手がかりは見付かるはずもなく。


「……今のは一体…」

「なにしてるの?」

「――っ!?」


 唐突の問いは少年の恐怖を煽り、一気に心臓を跳ね上げさせた。

 その問いの持ち主は丸っこい相貌の持ち主の幼い女の子のものだった。


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