噂の口裂け女
「ねぇ、知ってる?」
「なにが?」
髪の長い、パッツンとした前髪の女の子が後ろの席の子に話しかける。
「口裂け女の噂」
「口裂け女?」
「そうそう」
「口裂け女って言えばあれか。あたし綺麗?とか訊いてくるやつか?」
「そうよ」
「それがどうした?」
「……“でる”らしいのよ」
「でる?」
「そう。学校裏、森の奥に廃れた旧校舎があるでしょ?あそこででたんだって」
「なにが?」
「だ・か・ら、口避け女がっ」
「……お前、どこか頭打ったか?」
「打ってないっ」
「それとも悪いもんでも拾い食いしたか?」
「私をそこらにいる野良犬といっしょにしないで!」
女の子は後ろの席の男子生徒の軽口に激昂する。
「というか、噂だろ?気にすることないって」
「それが本当らしいの。隣のクラスの山田君っているでしょ?」
「……山田ってあれか。ミリタリー好きの」
「みり――、うん。たぶんその山田君」
「それでそいつがどうした?」
「山田君って、いつもクールで物怖じない性格なんだけど……」
女の子は少年を招き耳に囁く。
「いつの日か、学校に来なくなったらしいの」
「……風邪かなにかか?」
「違うの。それでね。その来なくなった日の次の日にね、山田君登校したんだけど……」
「イチイチ勿体振るなよ」
「あの物怖じない山田君がね、一人言を呟いてるんだって」
「ん?どんな」
「『やめて。やめて。やめて』って」
「は?意味わかんね」
「でしょ?何をやめてなのかがわからないんだよね……」
「……なら行ってみるか?」
「え」
「だって山田も行ったんだろ?それで口裂け女って奴に会ったんなら、俺らも行って、真相を明かせばそれで解消するじゃねぇか」
「……うん。だけど、旧校舎は立ち入り禁止だし…」
「大丈夫だって。じゃ、放課後に学校裏の森の入り口に集合な」
「……うん」
この時は知らなかった。
あの旧校舎で、何が起きるのか。
好奇心だけで動いたらどうなるのかを……二人は身を持って体験することとなる。