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精霊は科学の夢を見るか  作者: ごんけ
クロステル領Ⅰ
12/23

012話


 早起きは三文の得らしく、早く起きた。別に起きる必要はないのかもしれないが、ここでは朝飯を食することができないというのが大きいだろう。また、街に入っているのに干し肉や燻製肉なんて食べたくはない。できれば文明人らしい食事をしたいと思う。

 冒険者というものは朝が早い者も多いらしく、店主も朝から起きている。店主にこのあたりで安くて美味しい料理を出す店を教えてもらうことができたので移動した。そこも宿屋らしく、その一階では売り子の女の子が忙しそうに走り回っていた。冒険者というか旅行者というかそういった人も多く見られ、この時間帯なのにみんなよく起きているなと思った。


「お食事ですか?」


「ああ、一番安い定食と、生肉か何かあれば持ってきて欲しいんだが」


「かわいいわんちゃんですね」


「ああ。これ用に」


「はい、ちょっとまってくださいねー。えーっと4ドル50セントですね」


 身分証とカードを合わせて生産した。どうやらこのカードは身分証とは違うようだ。個人で持つには身分証の方がいいが、こういう店では身分証よりもこういった誰でも使えるようなカードがいいのだろう。


「足りなければ追加もできますので、その時は呼んでくださいね」


 長く赤い髪を翻して走っていってしまった。私達は端っこの席に座り料理を待った。鶏肉のようなものを焼いて塩で味付けしたものに、固いパン。それと野菜が少々。生野菜の人参のようなものはアリスがポリポリと食べていた。ドレッシングがあればいいのに。贅沢はいけない。欲しがりません、勝つまでは!


「すみませーん」


「はいはーい」


「生肉を5倍くらい持ってきてもらえますか?」


「は、はい。……えっ精霊さん? うそー! かわいいー!」


 生肉を注文したら若干顔が引きつったんだけど。レーレはよく食べる。うん、食べるんだ。これくらいじゃ足りないだろう。お金はあるけど、これからあの巨狼のような図体になった時のことを考えると涙が出そうだ。あの大きさなら一日で牛一頭くらいは食べそうだ。どれだけあってもお金は足りない。

 上喜した顔をほころばせて大声でアリスを見て騒いでいる店員さん。お仕事をしてください。


「いくらになりますか?」


「は、はい2ドル50セントになります」


 私の呼びかけでようやく正気に戻ったが、チラチラとアリスの方を見ている。あとあんまり騒がないでほしい。精霊ってかなり希少価値が高いらしいのでいらぬ騒動のもとになってしまいそうだから。

 レーレはペロリと肉を食べてとりあえず満足したようなのであまり騒がれないうちに店を出ることにした。

 そのまま組合へ行った。

 とりあえずすることがなくても出向いて街のことを知るのも大事だろう。簡略化された大きな地図が置いてあったし、仕事の斡旋も行っているのだ。レーレの為にも、いいや私の為にも仕事をしなければならないだろう。

 組合はこんな時間でも開いていた。もしかしたら24時間休みなしで開いているのかもしれない。


「おはようございます」


 挨拶は基本中の基本。誰も挨拶では返してくれなかった。


「てめーはこの前の!」


 でっかい怒号が返ってきた。

 私は驚いたし、レーレも驚いたのかわんわん吠えている。


「フレッツさんですね」


「お高くとまってんじゃねーぞ!」


 と向こう明らかに悪いのにこちらが然も悪いかのように因縁をつけてくると、さすがにむっとくる。騒ぎを起こしたくないのに。


「組合内での暴力沙汰は厳禁だって言っとるだろ!」


 フレッツの声とは違った低音を響かせた声がした。


「二人共こっちへ来い!」


 逆らった殴られそうな雰囲気がしたので従った。190 cmを超えてそうな大柄な男でスキンヘッドなのだ。しかも筋肉隆々。あの筋肉を躍動させた拳が私にめり込んだら死ぬと思う。リアルに。だってさ、テレビで見るようなアメリカンフットボールの選手のような人だ。殴られたらやばい。

 奥の部屋に連れてこられて、椅子に座らされた。

 私は身分証とライセンスを見せるように言われたので、もちろん反論の余地なく従った。


「それで、何があったんだ」


 私とフレッツはお互いに言い争った。相手はであった時間帯とそこからの推論で私を非難してきたが、私からすれば意味のわからないことであった。私はただ単に歩いていたのだから。むしろ、こちらの攻撃の意思がなかったのに向こうから攻撃してきたことこそ問題であると主張した。


「ふん、話からするとフレッツが悪いな」


「おい、そりゃねーぜ」


「話を聞け、だからお前はいつまで経ってもフレッツなんだ」


 話が違わないか?


「ジロウは先日まで無一文であった。だが、金の宛がなかったわかじゃない。現に今はかなりの金額を所持している。フレッツたちを襲う必要はない」


「だけどよう、もっと金が欲しかったら襲っていても不思議じゃないだろう?」


「人から奪うとか、そんな盗賊紛いのことができるか」


「盗賊紛いじゃなく、盗賊ならできるんじゃないか?」


「落ち着け。そして暗掛りの中歩いていたと言ったな。盗賊ならさらに森に潜んでから襲うんじゃないか? それにジロウはおそらくだが妖精が見えるんじゃないか? そうだとしたら明かりもなく夜道を歩いていても不思議ではない。そこに魔物もいるからな」


「妖精が見える? たしかにこいつはエルフの村から来たとか言ってたが、こいつはエルフじゃない」


「そして、最後に。ジロウは精霊契約者だ」


 そこからフレッツは無言となった。


「精霊契約者は国においてその存在自体が貴族といえる。形式だけだがな。野盗や追い剥ぎなんかをする必要はないんだよ」


 ぐっ、とこちらを見ている。一息吐いて力を抜いたようだ。


「すまなかった。俺たちが悪かったようだ」


「いいえ、俺の方こそ紛らわしい事をしてしまったのは事実です」


 向こうが頭を下げてきたのだからこちらも許すというのが筋だろう。


「しかし、このローブに傷がついてしまったのでそれだけは……」


「しかし、あの剣撃で傷程度で済んだのが信じられないぞ」


「それはですね、このローブには私の加護、それに風の妖精の加護、空間魔法の応用で圧縮してあるからですよ!」


 じゃん! と胸を張ってアリスが登場した。そのことに呆気にとられる一同。


「スコットニの剣を止めたのはアリスの魔法だからな」


 何とも言えない空気が漂っていたので口をはさんでしまった。


「そ、それよりも。そのローブすごいな……。売ったらどれくらいになるんだ?」


「魔物の毛皮でそれだけのものだとしたら20万ドルは超えるだろうな」


「ちなみに修理費は?」フレッツはガクガク震えている。


「これだけの品となると、優秀な魔導師も雇わないといけないから……」


「いや、もういい」


 肩を落としてしまった。流石に気の毒ではあるが、レーレの親の形見のようなものだ。直せるものであれば直しておきたい。


「それなら魔力石か魔力結晶をもってきてください。それで手を打ちましょう」


「それならここにいくつかある」


 アリスが言うと、フレッツは小指の爪の半分ほどの赤黒い石を取り出した。


「あんまり綺麗じゃないですね」


「俺らみたいなのが使うんだから関係ないだろ」


「ではいきますよ」


 ローブにその石ころを押し当てると、赤黒かった石はなんの変哲もない黒茶色の石になってしまった。石はアリスの手からフレッツのもとに返されたが、フレッツはいらなさそうな顔をしていた。しかし、ローブの修復すべき箇所は直って毛並みもツヤツヤしている。非常に満足のいくものだった。


「せ、精霊さんありがとうよ。これでマスターにころがされなくてすむぜ……。ジロウも悪かった。何かあったら言ってくれ。それくらいしか俺にできることはないから」


「なら、莫大な借金ができたら肩代わりお願いするよ」


「ちょっと待て!」


 そこからは朗らかな空気が流れた。あとあんまり組合内で騒ぎを起こすなと言われてしまった。外でならいいのかと思ってしまう。


「俺らのパーティーはRiver Of Tearsリヴァーオブティアーズっていうんだ。活動は主に討伐と護衛だな。マスターのラ・フェブレは激流の二つ名持ちAランクだからな。頼ってくれていいぜ」


 ちなみに俺はDランクだけどよ、笑っていたが、そもそもどれくらいの強さなのかわからない。フレッツも私から見るとすごいと思うんですけど。



 組合内の掲示板には様々な仕事があった。

 家出した猫の捜索願などや商店の店番など。子供のお小遣い程度の金額から高額報酬まで。

 地図によると商業地区だけは完全に区分けしてあるくらいで他は雑多な感じがした。しかし、西側東側はそれぞれ農業を生業としている人が住んでいるようであった。北側には森が広がっている。私は東側からきたわけだ。中心より東側にはこの地を治めるハーディ準男爵家がある。

 地図の精度もあまり良ないので自分で歩いて確かめるしかないだろう。


「この街には図書館はなさそうだな」


「図書館なんてものは王都にくらいしかないんじゃないか? 書店なら街に一つくらいあるだろうがそれも国営だからな。一般人が購入するにはちと敷居が高いな」


 当然のようにフレッツが返してきた。


「暇なのか?」


「ああ。パーティーのメンバーと落ち合う約束なんだが、まだ着てないんだ」


「スコットニ?」


「他にもいるが、会ったら紹介する」


「それがいいと思う。聞いてもわからないだろうし。しかしなぁ、なんか仕事したいなあ」


「ジロウにできそうなのか。狐とか猪の狩猟系の依頼は常時出ているからな、害獣駆除はそこそこ儲かる。素材が売れるからな。あとは盗賊の討伐とかが高額になるな。建築とかもあるが、ジロウは線が細そうだからちょっときつかもしれないな。魔力を強化に回せるならそもそもそんな仕事はしないよな。無難に皿洗いとかでいいんじゃないか?」


 アリスが頭の上で私の頭頂部をべしべし叩きながら笑っている。

 結局、狩猟系の依頼は以来達成を証明する素材を集めておいてから依頼の受領、即達成というのもできるらしいので街から出ることにした。森の中では動物を取りやすいから。スコットニ以外のパーティーメンバーを見ることはなかった。



「共食いっぽいな」


 レーレが狩ってきた動物を見る。毛皮を分けると、肉はレーレの腹に納まった。内蔵はそのまま落として、血の臭いに誘われてきたほかの獲物を狩ろうという算段だ。匂いに誘われてハイエナのようで、それよりも一回りほど大きな生物がやってきた。仮にハイエナとしておく。レーレとどっこいどっこいの大きさである。

 ヒュッとレーレがが駆けると、こちらを向いた瞬間には首に噛み付き頚椎を破壊している。レーレが化け物じみている。捌いていると次々と獲物が集まってくるらしく、レーレが運んでくる捌いていない動物が集まりだした。言っておくが、捌くのは時間がかかる。そんな5分やそこらで捌けるわけもない。


「捌くのは後回しにしてください。囲まれます」


 と捌くのに夢中になっていると囲まれてしまっていた。黒曜石の小刀を右に持って腰を落とす。既に狩った動物はもったいないと思うが、逃げることも視野に入れる。

 一匹のハイエナがやってきたが即座にレーレが反応した。その瞬間に私に他のハイエナが殺到した。6匹だろうか。レーレは首に噛み付くだけで相手を死に至らしめるということで、瞬く間にさらに2匹を仕留めたが、4匹はもう目の前だった。闇雲に右手を振り回しただけで、2匹が絶命した。左腕に1匹が噛み付いてきたが、少し圧迫されたような感じがするだけで痛くない。すっと小刀を走らせると頭が落ちた。なんという切れ味。

もう1匹はまたしてもレーレが噛み殺していた。

 少しきつかった。息を深く吐くと、どっと疲れが襲ってきた。緊張していたんだろう。


「アリスも働いてくれよ」


「何言ってるんですか。私も活躍していたじゃないですか」


 何かしたのかもしれないけど、私にはわからなかったんだぞ。いつもの障壁を張ったのだろうが。それにしても、レーレの活躍は恐ろしいものがある。

 ざっと見て私の3倍は働いている。感謝の意を込めてわしゃわしゃしました。ええ、わしゃわしゃわしゃわしゃ。レーレに肉を与えつつ、皮を剥いでいく。もうすでに今日はよくはたらいたとおもうので内蔵は全てレーレにあげた。もはや骨までばりばりたべているので皮についた肉片や脂肪などといった不要なものをアリスが分解しているだけとなっている。


「よく食べるなぁ」


「ええ、すごい食欲ですね」


 魔力素に分解しているとしても見ているこちらが気持ち悪くなるくらいの量を食べている。

 まだこのあたりには濃い血の匂いが立ち込めているので、さっさと戻って休もうと思った。思っただけで、依頼とかあれば運がある位の思いで足を組合へと向けた。



River Of Tears

和名は「大河の滴」


ハイエナ

集団で獲物を捕獲します。


ウィンドウルフ

特に敏捷性に優れた魔物。

レーレの親(母親)は産後のために弱っていたところを襲撃されたために負傷しました。

魔物なのですくすく育ちます。魔物の討伐は速やかに行われなければなりません。


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