チュウニのショウゴ2 【真夏の昼のカフェ】
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当作品は、企画『ミステリア』に参加しております。
ネタバレするから読了前に感想欄を読まないでね。
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先に『チュウニのショウゴ1【ショウコ】』を読んでいただく事をお勧めします。
「私ね、ウソは嫌いじゃない?」
目の前の緑……おそらく抹茶フロートをストローでいじりながら話し出した女性。
「たとえそれが小さなものでも。よくいいウソと悪いウソがあるっていうけど、それは詭弁よね。言う側の勝手な都合じゃない。相手による場合だってあるでしょ? 私はそれを承知でウソが嫌いって言っているのにあいつったら――」
途中でズズーっと、
「先週のあの男は最悪だったわよ。あたしを舐めてるってかさ、女を何だと思ってるんだか」
まだ混ざりきっていない底の抹茶ラテの部分を飲みながら女性は話すのだった。
「先週の日曜日にね、ドライブに行くっていうから家の前で待ち合わせしたの。時間になって出てみたら、もう彼がいたんだけど、『今さっき着いたばかりだ』って言うのよ。私がウソが嫌いなのを知ってそんな下らないウソをつくなんて最低じゃない?」
そこにウエイターが3種のベリーのパンケーキを持ってきて、話は一時中断された。
ショウゴはチュウニである。
そう書くと、何が何だかなのでもう少し丁寧に説明する。
湯谷正悟(ユタニ ショウゴ)は中学2年生である。
夏休みに入ってしばらくが経った。
特に予定もない正悟はリビングで毎日ぐーたらしていたが、安城祥子(アジロ ショウコ)に誘われて遊びに出かけた。祥子は思ったより元気な姿の両親に無事会うことができ(チュウニのショウゴ1を参照)、今日は正悟とショッピングをしに来ていた。
「えーと、次はね……」
「まだ買いに行くの?」
すでに正悟の両手には複数の紙袋。1つだけ祥子のものだが、あとは全て正悟のものだ。
「だって、せっかく正ちゃんとお買いものでしょ? もったいないじゃない。それとも休憩する?」
呼び名も当初は『正悟くん』だったがいつの間にか『正ちゃん』になっていた。
「うん。ちょっと休みたい」
午前中から歩きに歩いて足が棒のようだった。
「そう。じゃあ、カフェにでも行こうか」
入った店はオープンテラスがある店内をアンティーク調にまとめたカフェだった。今日も日差しが強いためかオープンテラスの日なたの部分には誰も座っていない。
奥の2人用の席に案内され、正悟は紙袋を横に置いてやれやれという形で腰かけた。
「この店はパンケーキが有名なんだ」
「うん、そうみたいだね」
周囲を見渡すと半分以上の客がパンケーキを食べている。
出された水を味わう様に飲むと口の中から喉を通って体の中へ吸収されるのがよくわかった。
「結構種類があるんだね」
「うん」
「そういえばニューヨークにも美味しいパンケーキの店があってね、ジャーマンポテトとハムとベーコンのパンケーキなんだけど、これがシンプルながら美味しいのよ」
「へぇー」
といってもこの店にはそういったのは置いてない。あくまでデザート的な位置づけのようだ。
2人で悩んでいると隣の席にウエイターが3種のベリーのパンケーキを持ってきた。
「……キャラメルチョコバナナにしようか」
「うん、それでいいよ」
「すみませーん」
祥子がウエイターを呼んで注文をした。
「それでさっきの話なんだけどさ」
「え?」
「そのウソつきの話。どうして車が着いたばかりじゃないってわかったの?」
「うーん。ほら、私の家のあたりって斜面を削って建てられたから道が坂になっているでしょ?」
「うん、そうだね」
「だから――ちょっと待って」
抹茶女の携帯が鳴った。
「どうしたの? ……うん。…………内容にもよるかも。私だって毎日暇ってわけじゃないから。……え、本当? ……うんうん。……行く行く! ……うん、じゃあねー」
「誰から?」
「彼からだった! 今度ディズニー行かないかって!」
「で、行くんだ」
「だってディズニーだよ! もうチケットもあるんだって!」
「あー、よかったね」
「うん!」
先程までつまらなそうにしていた抹茶女だったが、上機嫌な顔になると伝票を手に取った。
「今日は私におごらせて。すぐに新しい服を買わないと。まだ時間ある?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、行こっか」
2人は店を出た。
キャラメルチョコバナナのパンケーキが運ばれてきた。
「ねえ、正ちゃん」
正悟がパンケーキを食べていると祥子が声をかけてきた。
「?」
「隣にいた人たちの会話聞いてた?」
「何となくだけど。車がどうとか……」
「さっき何だか不思議な話をしてたんだけどね――」
祥子が2人の会話を要約して話した。正悟はふんふんと聞きながらパンケーキを口の中へ。
「どうして彼女がウソを見破ったんだろう?」
正悟がゆっくりと咀嚼して飲み込むと口を開いた。
「多分。多分だけど、アレを見て判断したんだと思うよ」
「アレって何?」
さて、問題です。
抹茶女が男性のウソを見破ったきっかけとなった原因は何でしょうか?
答えを出してから次へ読んでいただければより一層楽しんでいただけるかもしれません。
よろしいですか? では、下へとどうぞ。
「多分、その日もとても暑かったんだと思うよ」
「そりゃ、そうでしょ」
「だから車の中だって暑かったし、走っていれば窓を開ければ風が入ってくるけど、駐車していると限界があるよね。だからエアコンをつけるでしょ」
「普通はね」
「だから水が出てくるよね。それで現場が坂になっていたんだから、大量に水が流れていたんじゃないかな。さっき着いたでは言い表せないほど」
正悟の推理に祥子が感心した。
「すごいね、正ちゃん。そういえば私が返ってきた時の推理といい、今の時も含めてよくわかったね」
「たまたまだよ。普通に考えたらその答えが出てきただけだって」
「うーん、普通に考えてその答えが出てくるなんてその頭が羨ましいな。……じゃあ、私から問題だすから解いてみて」
「え? う、うん」
「私は今何を考えているでしょうか?」
急に心を読めと言われても困る。
正悟を見つめるまっすぐな瞳。もしかして今食べようとしているこのパンケーキをあーんしてほしいとか、いやそんなわけがない。どうやらノーヒントらしいし、これは難問だ。
「ごめん。わからないよ」
正悟は白旗を上げた。その言葉を聞いて祥子はそっと右手を正悟へ伸ばした。
「正解は――」
祥子は正悟の唇についたチョコを指ですくうと自分の口の中へ入れた。
驚く正悟に祥子は言うのだった。
「この後どうしようかなって」
ひっそりと口角を上げながら。
シリーズとして今回2作書かせていただきましたが、いかがだったでしょうか。
今回はなーこさん主催の『ミステリア企画』ということで、読みやすさを追求して3000字程度の短編としました。べ、別に長編が力量不足で書けなかったとかそんなんじゃないんだからね!
今回のイベントを機に『推理』ジャンルがよりより盛り上がればこれ以上の喜びはありません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。