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近未来に超能力で暗部エンジョイライフ  作者: 神萄 零弩
第一章 騒乱の火種 【Premonition_of_a_battle】
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第七話 孤立-Aislamiento-

行間二


我は最強の生物。


神が天地を創造したと言われる七日間の内、五日目に我は造られた。


我は、我と同時に造られ、我と対を成すアイツに嫉妬した。


我は最強の生物だ。


我が動くだけで海に巨大な渦が発生させ、口から炎を吐き、鼻から煙をだした。


そして我が誇る堅牢な(うろこ)には、()()なる武器も通用しなかった。


それなのに・・・・


神が造り出した最高傑作とされる生き物は、我ではなかった。


我と対を成す生物。


アイツこそが神が最高傑作と称した生物だった。


我は奴に『嫉妬』した。


いいだろう。


ならば最期まで『嫉妬』してやろうじゃないか。


我は『嫉妬』を司る最強の生き物。


我が名は海軍提督(レヴィアタン)―――――






-2061年 某月某日-


気が付いた、というよりも、子供の頃の話をするときによく使う、『物心がつく』といった方が正しいかもしれない。


そんな、初めて自我が目覚めるような状態で榊原が()ず最初に感じたものは『匂い』だった。まるで周りの空間が全て鉄で出来ているのかと錯覚するほどの鉄臭さ。そして、それに追いつくかのように、視覚情報も少しずつ榊原の頭へと入ってくる。


最初に見えたのは床だった。自分は下を向いているという事に今この瞬間気付いた。だが、床の色がおかしい。さっきまで淡いクリーム色だったはずだ。


それが、


どうしてこんなにも、


どうしようもないほど、真紅に染まっているのだろうか。


「あ・・・ぁ・・ぅぁ・・・・・」


声ともいえないような声が静寂した音楽室に響く。床は、染まる前の色の床を探すほうが難しいほどに全体に亘り真紅に染まり、天井は蛍光灯が粉々になっていて部屋全体は暗く、壁には月のクレーターのようなものが幾つもあった。


そして、


顔を上げれば、


さっき理科のレポートを見せてもらった女子が心臓を貫かれていた。


右を見れば、


昼食を一緒に食べた男子が、正面を向いた状態から首を180度回転させられていた。


左を見れば、


喧嘩を止めに入った先生が、腕を本来脚があるべき場所に、脚を本来腕があるべき場所に付けられていた。


そして下を見れば、


頭が転がっていた。首から下は無くなったものの、その顔は間違いなく仲の良かった不良のものだった。


「ぅ・・・ぐッッ!!」


嘔吐しそうになるのをギリギリ堪えて、音楽室を飛び出す。


音楽室を出たところで偶然事務員のような先生と出くわした。


「な・・・君・・・・・それは・・・・・・・!?」


それは本当なら先生が生徒に出くわしたときにする反応ではない。榊原は自分の制服を見る。それは制服と表現するにはあまりにも赤く、醜悪なものだった。それだけではない。自分の制服に付いた丸いそれは・・・・・


「うっ・・・ああああアアアアアアあぁぁぁぁぁァァァァァ!!!!!!」


それを理解してしまった瞬間、強大な恐怖が榊原に襲い掛かった。






-2061年 某月某日から一週間後-


裁判が開かれた。


『それでは被告人に、裁決を下す』


2061年で、裁判制度が進んでいたことや、事件が音楽室だけで起こったこと、そして俺の精神状態が酷いことも手伝って、裁判は早めに開かれた。

結論を言えば、


『無罪』


榊原は無罪だった。


Lank.4の身体能力上昇(フィジカルレイズ)程度では、意図的に凶器もなく相手を殺すには、相手の後頭部をコンクリートなどの硬い物に叩き付けるか、硬いものを叩きつける事しか殺す手段が無いからだ。警察曰く、凶器も見つからなかったと言う。


だが、客観的に見れば俺は無罪だが、それに対して被害者の親族が黙っているわけがない。


『この人殺し!!』


『こういう人間を野放しにするから世界は悪い方向へ進むんだ!!』


『お前タダで済むと思ってるのか!』


裁判所から出てきたばかりの俺に、心無い言葉が投げつけられる。だけど、俺はそれを否定しない。理由は簡単だ。犯人は自分だと分かっていたから。

逆に、あの状況で俺が犯人でなければ、何処のどいつが犯人だというのだろうか。裁判所は証拠が揃わなければ有罪にできないから俺は無罪になったが、本能で分かる。

犯人は俺だ。


俺は見かけの上では無罪になったが、周りはそれを容認せず、俺と関わるようにような人間はほとんど居なくなった。家族ですら俺を気味悪がって、俺に(なつ)いていた妹を置いてどこかへ行ってしまった。

それでも俺と関わろうとする奴は俺の方から関係を断ち切った。俺に関われば、そいつも友達を無くすことぐらい目に見えていたから。自己満足だってのは分かってる。でも仕方なかった。


俺は孤独になった。それでも、沙紀は俺に話しかけてきた。俺はそれを拒絶したがあいつは俺についてきた。


「俺についでくんじゃねぇ。テメェも友達無くしたくねぇだろ」


それでも


「私は恭也と一緒に居たい!」


沙紀だけは言ってくれた。


「俺は人を殺した!世間的には無罪かもしんねぇが、あの状況で俺以外に犯人がいると思ってんのか!!」


「私は恭也が人殺しなんてするとは思わない!現に恭也は捕まらなかったじゃん!」


確かに捕まりはしなかった。だが、それが犯行をしていない証拠になるのかと問われれば答えはノーだ。


「私は恭也に勝手についていく。いいでしょ?」


それなのにコイツは・・・・・


「チッ・・・勝手にしやがれ」


俺の近くに沙紀という一人の馬鹿がいたせいで、俺は孤独にならずに済んだ。コイツは俺にとっておそらく恩人というヤツなのだろう。


沙紀が居なければ、俺は人知れず潰れていた。死んでいた。妹という大切な存在があることも自覚せずに。

俺は守りたいものを守っていこう。


大丈夫だ。守りたい(たから)は、俺には少ししかないのだから―――――






-四月十七日 PM11:40-


「アンタにそんな過去があったなんてね・・・」


四百苅(しおかり)の病室は静寂に包まれていた。それがこの場に居る全員の心境を現しているかのように。


「月並みな言葉かもしれにあけど、沙紀が居たから、今の自分があるんだよ」


俺は沙紀に感謝している。本当に。


しばらく病室が静かになる。誰も口を開こうとはしない。だが、


榊原恭也(アンタ)はそれでいいの?」


四百苅は破り難い静寂をものともせず俺に尋ねてきた。


「何がだよ」


「周りに誤解をさせたままでいいの?あんたは孤立したままでいいの?」


「いい。俺には大切なものがあるから」


「それでも・・・そのアンタが守りたい人は悲しく思ってるんじゃないの?」


まるで俺の全てを知っているかのような一言に、自分でも驚くほどに頭に血が上る。


「テメェに・・・!何が分かるってんだ!!どうせテメェは俺よかよっぽどマシな生活送ってきたんだろうが!!それが知ったような口聞くんじゃねぇ!!」


病室に響く俺の怒号に、四百苅は肩をビクッ!!と震わせた。

そして目に涙を浮かべながら病室を出て行ってしまった。


これは予想していなかった反応だ。


今まで黙っていた博士と向垣内(むかいがいど)はやれやれ、といった表情を浮かべている。


「何だ・・・?あいつ」


すると、その疑問に答えるかのように向垣内が続ける。


「あいつはな・・・2028年に発令された近未来邁進制度で、日本に生まれ始めた浮浪児(ストリートチルドレン)の内の一人だよ。親が居なくて、学校にも通えず、関われるような友人も居なかった分、お前よりもよっぽど孤独だと思うぞ?特に、あいつは同じ浮浪児(ストリートチルドレン)の死を看取ってきたらしいしな」


病室の出口付近からすすり泣くような声が聞こえてくる。よく分かった。多分博士や向垣内、それに下部組織の連中もそれなりに過去に深い傷を負っているのだろう。誰も好き好んで死地に赴こうなんて思わない。


辛い壁にぶつかり、過去と向き合っているのは自分だけじゃない。


それを知った瞬間、気付けば榊原は椅子から立ち上がり、自然と病室の出口へと向かっていた。


「何処に行くんだ?」


博士が問う。そんな事、問われなくても


「決まってんだろ。いつまでも人の肩にのっかって、うざってぇ思いをさせてる過去と決別しに行くんだよ」


服を目に押し当ててすすり泣く四百苅の頭にポン、と手を置いて、榊原は何の迷いも無く告げた。


やるべき事は、決まっている。

近未来邁進制度


名前思いつきませんでしたので適当ですww

とりあえず2028年に出された憲法で、国民の税率を高め、その国の収入によって科学を推し進めるという内容のものです。

表向きは医療の発展とか何とか。

この制度で金を毟り取られた親が、子供を捨てて、その子供が浮浪児(ストリートチルドレン)となるわけです。


過去編も終わり、次回でシリアスムードも終わりを迎えようとしています。

ちなみに作者は次の話のストックとかはないですww

更新は明日か明後日かな


ついでに、やっと受験終わりました。

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