第四話 任務-Un deber-
-四月十六日 AM9:42-
朝。沙紀は現在、鉄高校にて授業を受けている真っ最中だ。沙紀は左方向の窓側の席、本当なら恭也が座っているはずの空席をチラッと見て思い出す。
『悪い。俺さ、これからしばらく学校行けないと思うわ。沙紀はこれまで通り学校に言っててくれ』
恭也が一週間前に突然携帯で言ってきたことだ。九日の日、帰る前に恭也は一枚の手紙のようなものを見た後、いつになく真剣な顔をしていた。それと何か関係があるのかもしれない。けれど、それは恭也の事だから、私が自由にどうこう言っていいことじゃない。気にはなるけど。
でも彼は言ってくれた。『月並みな台詞かもしれないけど、必ず戻る。だからそれまで待っていてほしい』と。
-四月十六日 PM9:42-
暗部組織『アビリティ』の一室に二人はいた。榊原恭也と向垣内嵯駆真である。今、その二人はアビリティ内の『講習室』にいる。
榊原は白くて、横長の事務的な机の上にノートパソコンを開き、ノートパソコンの左に彼が大好きな飲み物であるところの(自販機で買った)500mlのマウン○ンデューが置いて、近未来的なデザインの椅子にドカッと体重を預けている。
榊原の上司である向垣内は、ホワイトボードに色々書き込みながら、榊原に高位能力者と対峙した時の対処方法を講師している。
「能力者は、何かしらの弱点や限界がある。それこそ、開発して実験もろくにしなかったんだろうな。超能力者は、全力で能力を長時間行使しすぎると、演算をしているナノマシンが演算しきれずに、オーバーヒートしてしまう、など不便な面が多々ある。極論を言ってしまえば、無能力者だろうとも超能力者次第では勝てる可能性があるということだ」
「まぁそりゃ、実験しなかったから超能力なんてイレギュラーな副産物が生まれたんだろうな」
榊原は勉強をほとんどしてこなかったせいで、勉強は得意ではないが、向垣内の教え方が上手いおかげか、それなりに理解できる。
「高位能力者と対峙してしまったときは、無理に攻撃しようとしないことだ。高位能力者は何かを『操作』する事に長けている場合が多い。よって、自分が放った攻撃を利用されて反撃されることがある。その方がナノマシンの演算処理も負担が少ないしな。だから、高位能力者と敵対したらまず、防御と回避に徹することだ。その方が勝機がある。」
(流石、隊長やるだけあって教え方上手いな・・・)
だが、榊原の頭の中には一つの疑問があった。それは、暗部組織『アビリティ』に来た時から抱いていた疑問だった。
「あのさ、一つ質問あるんだけど・・・いいか?」
向垣内は、何だ?とだけ返す。
「暗部ってさ、何をする組織なんだ?」
「何とは・・・随分と漠然とした質問だな。具体的にどういう意味だ?」
質問に質問で返されて若干イラッときたけれど、榊原はそこをグッと我慢する。今のは質問の仕方が悪かった。
「ほら、組織ってのは何らかの目的があって動いてるワケだろ?『革命軍』なら政府へのクーデターみたいので、『正規軍』なら革命軍の鎮静ってな具合にさ。でも俺ぁ暗部ってのが何を目的として組織されたモンなのか知らないんだよ」
「なるほどな・・その辺は下部組織だろうと知っておいたほうが良いか」
向垣内はふむ、と少し考えるようなしぐさをした後に、続ける。
「暗部組織は全国に展開されている組織でな、日本に幾つかの本部がある。その一角が此処、『アビリティ』って訳だ。で、その暗部は、日本の『バランスを保つ』事を目的としている」
「『バランスを保つ』?どういう事だ?」
「端的に言えば、正規軍と革命軍の均衡を保つ、という事だ」
「は?そんな事に意味があるのか?」
革命軍のせいで国の情勢が傾いている、と考えている榊原にとってはそれによってどんな利益が生み出されるのかが分からない。
「ある。政府は、革命軍の存在によって現在その役割を果たしているんだ。政府がちゃんとしなければ革命軍は激昂し、暴動が大きくなる。故に、政府は仕事を果たし、革命軍に『仕事をちゃんとしている』と示しているわけだ。だから革命軍に倒れてもらっては困る」
「国民のご機嫌取りの為に働くお偉方なんざ、腐ってるな」
「あぁ。だが、革命軍が正規軍を全滅させて、政府を倒してしまうのもマズい。おそらく革命軍の連中は、『政府がムカツク』という理由だけで暴動を起こしているのだろう。だが、革命軍は今の政治体制が崩れた後の事なんて考えてはいないだろう。
知っての通り、日本は資源の少ない国だ。その日本を支える体制が無くなり、根元から折れてしまえば、外国からの資源の輸入は不可能となる。そうなれば、日本という国は比喩抜きで消滅だ」
「なるほど。革命軍、正規軍、どちらに倒れてもらっても困る。そのためのバランスを保つ第三の組織、暗部ってことか。」
向垣内がそういうことだ、と言った直後、アビリティに事務的な女性のアナウンスが流れ、緊張感が走る。
『緊急任務です。革命軍の一部隊が正規軍の基地の内の一つを強襲、占拠。強力な能力者がいるため、正規軍は奪還に失敗。我々アビリティは、その基地を重要拠点と判断し、正規軍が圧倒的不利な状況に陥るのを防ぐため、正規軍の基地奪還作戦を遂行します。基地の所在、及び任務の内容は、総司令部にて伝令します。出動出来る部隊は早急に準備を行い、参戦してください。
繰り返します。革命軍は正規軍の基地の内の一つを強襲、占拠――――――』
繰り返しアナウンスが流れる。『アビリティ』の中が急にざわめき始め、誰かが走る音なども聞こえてくる。
「行くぞ!!」
向垣内の緊張気味な声が響く。向かうは、『総司令部』。
-四月十六日 PM9:46-
巨大モニターが設置されている一室、総司令室に榊原はいた。総司令部には、下部組織と思われる連中や、幹部と思われる四百苅や、『博士』がいて、総勢五十人ほどが集まっている。四百苅は、人数を確認するような仕草をした後に指示を出し始める。その声はいつも以上に真剣な声だった。
「アナウンスでも言っていた通り、我々は基地の奪還作戦を遂行する!目的地については、モニターを参照してくれ。」
総司令室にいる60人ほどの人間が一斉巨大モニターへと視線を向ける。すると、モニターに地図が出てくる。どうやら、基地とやらは崖のすぐ下に位置しているようだ。
「我々は崖を利用して、強襲を仕掛ける。崖の上は林になっているので、姿を隠しながら攻めるには適している。各自、装備を確認して任務に参戦するように。以上!!」
四百苅がそう言い切ると、五十人もの人間が一斉にそれぞれ動き出す。よし、初任務の始まりだ。
-四月十六日 PM9:50-
総司令室には、向垣内を前にして、榊原を含めた約50人の人間が整列していた。
「我々は、四百苅、及び『博士』の人間の護衛をする。A班は林にいるであろう敵を排除、B班を遠距離射撃で幹部の護衛、C班は基地への侵攻を行う。尚、榊原はB班へ入れる。」
それはつまり、新人はいきなり前線へ出すことは出来ないと暗に告げているのだろう。そんなのはどうでもいい。非日常なんて面白いじゃないか。
榊原は右拳を硬く握り締めると、気合を入れた。
-四月十六日 PM10:23-
A班と呼ばれた十五人で組織された集団の行動は迅速だった。動力外骨格を身に纏ったA班は、日本の最新の連射式ショットガン、NbX-27を使って、木に隠れているであろう敵を木ごと薙ぎ倒す。何人かの人間が木の下敷きになって血を流しているが、そんなものに誰も目を向けない。
「ハハッ、スッゲェな」
思わず榊原の口から感想が零れる。木々ごと相手が死んでいく相手は爽快そのものである。
敵を掃討し終わると、次に五人ほどで編成されるC班と幹部が、崖を博士の水流操作によってウォータースライダーのように崖を降りていく。
「博士の能力って便利だよな」
俺がそう言うと、B班の内の一人があぁ、と反応する。作戦中に思わず言ってしまった一言に反応するくらいだから、博士の能力は相当なものだろう。そして基地に四百苅達が侵入していくと同時、俺たちは日本の最新式対戦車ライフル、FnS-42をうつ伏せになって構える。基地といっても基本的に屋根は無く、巨大なコンテナや狙撃場、それに櫓のようなものが付いているだけだ。後は、唯一屋根のある司令室のような物が一つ設置されているだけである。
俺達はスコープを除いて、四百苅達の護衛の準備をした。
-四月十六日 10:38-
私、四百苅藍は基地に乗り込んだ。敵が何人か見えるけれど、私の敵じゃない。
私の能力はLank.7の未来視。その名の通り、未来を視る能力で、直接的な戦闘には使えない。けれど、数秒後の未来を視る事で、相手の動きを先読みし、効率の良い『殺し』をする。
それで、ナノマシンへの負担も最小限にして、私は長時間の戦闘も可能にした。超能力と日本製最新兵器を併用するC班と、博士の活躍もあって、襲撃は簡単にいった。C班は相手を能力によって同士討ちさせたり、最新式アサルトライフル、SuH-18を使って敵の頭を吹き飛ばしたりしている。でも、そこで私は一つの疑問を持った。
―――――何でこんな簡単に侵攻が進むんだろう―――――
正規軍は日本の科学技術の粋を集めた兵器と超能力者で奪還作戦を遂行し、失敗したのだ。いくら私達が少数精鋭だからといって、物量で奪還しようとしたであろう正規軍を退けた部隊をたった七人でこうも簡単に襲撃が成功するだろうか。(正確には援護射撃なども含めて五十人ほどいるのだが)
(本当に基地を占拠した部隊は他にいるんじゃ・・・・・?)
嫌な考えが頭を過ぎったけれど、それは間違いではなかった。私の前に、茶髪で左腕に刺青を入れた黒色の半袖シャツを着た男が現れる。直感で分かった。この男は別格だ。
「あぁ~あ。こんな派手にやっちまいやがって。それにしてもテメェら、何モンだ?その服装からして、正規軍のクソ共じゃねぇな。まぁいいか。テメェらが何モンだろうが、俺達の邪魔をするだけなら消すだけだ」
マズい。そう思った。私は未来視でこの男が次に起こす行動を『視る』。その瞬間私が視た映像は信じられないものだった。それは、私が今握っている日本刀で私自身が刺される映像。
「ッッ!!??」
相手がどんな能力を使って私自身の日本刀を操るかは分からなかったけれど、私はその男からバックステップで距離をとる。だが私よりも少し背の高い男は、余裕を崩さない。
「その判断は正しいけれどよォ、その行動に意味は無ぇな。俺の能力の射程範囲は俺を中心とした半径200m程。そこも射程範囲内だ」
男がそういった直後、私の日本刀が腕力の強い人間に強奪されるかのように手を離れる。そして宙に浮いた日本刀は、その切っ先を私の方へと向け、容赦なくこちらへと向かってくる。不意の攻撃に避けることができず、私の右下の腹辺りに赤黒いものが広がった。
「うっ・・・ぐ!!」
「侵攻はちゃんと調査してからするもんだ。まぁ俺達が此処を占拠してから一時間も経ってねぇから仕方ねぇか。次からは行動を起こすときはもうチット慎重にやるんだな」
その言葉を聞いた直後、意識が遠のくのを感じた――――――
暗部組織『アビリティ』内の下部組織
A班
最新兵器を利用した、近接から中距離射撃を得意とする部隊。基本アサルトライフルから手榴弾、サバイバルナイフを使う。実力的にはC班の次。人数は十五人ほど。
B班
遠距離射撃を使った部隊。基本は部隊の後方からの護衛。実力的には下部組織で最も下。人数は二十五人。
C班
下部組織では最も強い部隊。超能力と最新武器を併用する強力な部隊だが、現在五人しかいない。ちなみに劇中でチラッと出た(相手を同士討ちさせる)能力は『意思相対』。
意思相対
10m先までの視認した人間の、今しようとしていることと逆のことをさせる能力。劇中では、『敵を殲滅する』という意思の命令文を、敵のところを味方に相反させ、相手の脳からの命令文を『味方を殲滅する』という命令文に変えることで、同士討ちを確立。
一見便利な能力に聞こえるが、命令文を自由に変換できるものではなく、命令文を全くの逆、又は一部分を逆にすることしかできないので、逆にしたときにさせる事が出来る命令以外はできない。(言い回しクドいなw)
未来視
四百苅の能力。その名の通り未来を映像として『視る』ことができる能力。どのくらい先の未来を視るかは任意。だが、遠い未来であればあるほどその映像が不正確なものとなり、また、ナノマシンに強大な負荷がかかる。よって、四百苅は近未来を視て、相手の行動を予測しながら戦うことで弱点を克服した。
尚、未来視の能力使用時の映像は頭でイメージする感覚に似ているので、能力行使中に視力が失われたりはしない。
2063年の日本の最新兵器
SuH-18
日本の科学技術の粋を集めて作られたアサルトライフル。反動は、連射中でも小学生でも扱えるほど小さく、威力は一発一発が従来の対戦車ライフル並の威力を持つ。強力な兵器だが、コストもかかる。
NbX-27
重量が5kg程しかない、見た目ガトリングのようなショットガン。一発で大木を倒すほど高威力だが、この武器を使う際はその強大な反動に耐えられるように、高さが3mほどの動力外骨格に乗らなければならない。
FnS-42
総重量30kg程の対兵器ライフル。うつ伏せの状態で、尚且つ衝撃を受け流す方法を熟知した人間でなければ撃つことさえもままならない。もし普通の人間が撃てば、身体が半分吹き飛ぶ。威力自体は一発で戦車を爆破させる事も可能。動力外骨格と組み合わせる方法も考案されたが、実験結果、動力外骨格に乗っている人間ごとバラバラになった。
その反動の強さは、何故本体が壊れないのか疑問が浮かぶ程。
動力外骨格
未だ実験段階の代物。基本的にはNbX-27を安全に撃つ為だけに考案された。動きがスムーズでは無いことや、あまり長い時間動けないなどの理由で、奇襲の為だけに使われる。動力外骨格という名称も、仮の名前。