第十五話 超越-Transcendence-
「俺の弟も何か変なことに巻き込まれてるらしいな。そんな事より、俺の能力は尚も募集を続けるので、とりあえずは保留らしいぞ。まぁ、あからさまにふざけてるっての以外は大丈夫らしいからな」
正規軍の幹部―――――龍神焔羅
行間三
アイツとは気が合った。
まだ『上』に従っていた時の事だ。
アイツは突然、『上』が気に食わないという理由だけで、反逆しようと言った。
まぁ俺も同感だったんだけどな。
だから反逆し、追放され、『堕ちた』。
まぁ何だ。
別に『上』に逆らってここまで堕とされた事を後悔しているワケじゃないんだ。
むしろ良かったんじゃないかって思ってる。
『上』に従って良い事ばっかりするってのも骨が折れるしな。
今の生活は結構気に入ってるんだよ。
馬鹿なヤツらと一緒に馬鹿やって、馬鹿笑い出来ることとかな。
そして、アイツが仕切ってるこの世界がそこそこ好きなんだ。
どこぞのクソ野郎とかは俺とアイツを同一として考えているらしいが、違う。
だってそうだろ?
アイツはアイツで、俺は俺だ。
アイツも確固たる自意識を持っているし、俺も自分の意思くらい持ってる。
証拠として、アイツは堕天使長、俺は悪魔王っていう全然違う名前を冠しているんだからな。
-四月二十七日 PM6:08-
ジェット音が絶えない第24区にて、Lank.10の碧梨と博士、四百苅と結誠は激突していた。
「ふッ!!」
博士の少し強く息を吐く音と共に、振るわれた掌から水剣が飛び出し、それを碧梨が能力で押さえつける。四百苅が振るった日本刀を、結誠が空間移動で避ける。そんな攻防が続いていた。
「(このままじゃ終わらない・・・!能力を使うか・・・!!)」
四百苅は意志を固め、再び結誠の下へと駆ける。
彼女の能力は未来視。空間移動者が次に逃げる場所を予測するなど造作も無い。
「ッッ!!」
四百苅が『視た』未来は、結誠が自分の手が届かないほど遠くへ空間移動する未来だった。
確かに、これならば結果が分かったところで攻撃を加えることは出来ない。かといって、今攻撃しなければ反撃の機会を与えてしまうだけだ。
仕方なく四百苅は避けられることが分かっている攻撃を結誠へと繰り出す。それを結誠が空間移動で遠くへと逃げる。先程から、そんな事が何度も、何度も続いていた。
(あしらわれている・・・・・)
四百苅は、薄々自分が軽くあしらわれている事に気付いていた。相手の魂胆としては、此方が疲弊して動けなくなったところで必殺の一撃を加えるところなのだろう。
今はナノマシンで身体を強化しているとはいえ、それでも四百苅は人間だ。全力疾走を続ければいつかは動けなくなってしまう。
だが、相手は空間移動者。三次元上の障害物など物ともせず、物体を直接心臓や頭に送り込むことも可能だ。だが、強力故に座標計算に幾分かの時間を食う。だから走り続ければ攻撃を受けないという算段なのだが
(このままじゃ・・・勝てないじゃない・・・・・!)
攻撃を繰り出しても避けられる。攻撃をしなければ後手に回ってしまう。そうなれば最後だ。その辺に転がっている小石か何かが四百苅の脳をブチ貫くだけだ。
(どうする・・・・・?)
しかし、思考の海に沈んでしまっている時点で既に後手に回ってしまっている事に彼女は気付かない。
一方、博士も苦戦していた。相手はLank.10の空間砕枉。一瞬でも相手の攻撃を読むことが出来なければ、その時点で自分は肉塊になってしまうという焦りを感じながら戦うという、心理戦のようなものを強いられていた。
碧梨は常に自分の体から数mm浮かせたところで空間砕枉を展開している。よって、博士の攻撃は一切通じない。そして、碧梨の能力は体力に限界がある博士に圧倒的な攻撃力を誇る。
「クッ・・・ソ!!」
博士には珍しく焦りの色が出始めていた。相手の能力は、座標さえ分かればその物体の強度、高度、質量、密度、性質を無視して破壊し尽くす悪魔のような能力だ。
故に、此方も相手に座標を特定させない為に常に走り続ける必要がある。
だが、そんな戦術もジリ貧になりつつあった。博士とて人間だ。無限に全力疾走できる訳じゃない。
「どうしたの?もしかしてもう限界なの?なぁんだ、もっと楽しませてくれるかと思ったのに」
対し、碧梨の方は余裕だ。これがいつ殺されるか分からない者といつでも殺せる者の焦りからくる疲弊の違いなのだろう。
二つの戦いは、両方『真実の希望』に傾きつつあった。だが、とある一人の人間の声が第24区に響いた時、その戦況は大きく覆される。
『何だ貴様ら。情けない。やはり雑魚に戦場を任せるべきではないな。全て俺様に任せておけば、一瞬で終わらせてやったと言うのに』
碧梨はLank.10の空間砕枉だ。結誠はLank.8の空間移動者だ。だが、その声の主はそんな強能力者の常識さえも粉砕する存在だった。
その人間の名を榊原恭也といい、
その身に宿る人格を堕天使長という。
-四月二十七日 PM5:45-
「なかなか強かったじゃねぇか、彪駕さん」
「フッ・・・何を言っている・・・そう言う貴様は・・・・傷一つ無いじゃないか・・・」
龍神焔羅は一つの動物園にいた。目の前には、Lank.9の重力支配を有する能力者、宵板彪駕が大の字になって仰向けに倒れていた。
そして、焔羅は傷一つ無いのに対し、彪駕の脇腹にはシャーペン大の穴が開いていた。そこからは限界を知らないかのように血が溢れ出てきている。だが、これでも致命傷ではない。
「どうする?アンタの標的は未だ元気な訳だが・・・その無様な格好で能力を使って殺すかい?」
「やめて・・・おこう・・どうせ・・・・貴様に殺されるのが・・オチだ・・・・・」
彪駕の声が徐々に途切れ途切れになっていく。その言葉同士の間隔の大きさは、まるで死が近いことを表現しているかのようだった。
「じゃあどうするよ?一応致命傷は外しているから、今すぐ治療すれば助かると思うけど?」
「いや・・・やめておこう・・どうせ私には・・・リーダーに殺されるという結末が・・・・ゴホッ・・・待っている・・・・・」
喋りながら、時に血を吐く彪駕。おそらくこれ以上の出血は耐えられないだろう。
「あっそ。そんじゃあッッ!!」
焔羅はそう言うと、彪駕を抱きかかえ、ナノマシンで強化された脚力で、凄まじい速度で救急車へと向かう。
「おぃ・・・・・・・どういう・・・・事だ・・・・・・?」
彪駕は最後の力を振り絞って喋っているのか、先程よりも言葉同士の感覚が大きくなる。そんな事を無視して、ニカッ という笑顔を浮かべて焔羅は彪駕に向かって言う。
「俺ってさ、人の嫌がることをするのが好きなんだよッ!だからさ!!アンタに生きてもらわないと、アンタをッッ!!困らせること出来ないだろ?」
足に力を入れ、その都度言葉にも力が自然に入りながら、焔羅は一点の迷いも無くそう告げた。
自分が任務を与えられ、殺せと命令された相手でさえ、焔羅は殺そうとしなかった。それは彪駕に対して利用価値があると思ったわけでも、偽善で助けようと思ったのでもない。
『理屈で物事を考えず、自分が信じたことを行動し、誰にも文句を言わせない』
それこそが、龍神焔羅という一人の男の信じてきた道だったという、ただそれだけの事だ。
次回でテロ編終了だと思います。
そしてコメディも入れていきたいと思いますw