第十三話 強者-Un hombre fuerte-
PVがやっと一日で3桁行きましたww
地道にがんばっていこうと思っていますw
-四月二十七日 PM3:35-
―――――日本帝国議会直属軍部『正規軍』総本山内部―――――
龍神焔羅は、正規軍の休憩室に居た。休憩室といっても中は相当に豪奢なもので、政府直属の軍部であることを感じさせる造りになっている。
焔羅は、今日はもう任務の予定が無いというので、紅茶を啜りながらまったりとパソコンをカタカタさせていた。
そんなまったりムードが漂う休憩室には似つかわしくないほどの勢いで、バタァーン!!と扉が開け放たれる。
見れば、正規軍のエージェントとして働いている加苅綾鷹が立っていた。
「おい焔羅ァ!!今どういう状況か分かってんのか?」
「チッ、俺の休憩時間中だろォが。状況なんぞ知るか」
焔羅は適当に返したが、その直後焔羅の表情が怪訝なものとなる。パソコンを弄っていると、不意に開いた覚えの無いウインドウが表示されたのだ。おそらくパソコンの回線そのものに干渉されたのだろう。そのウインドウは一瞬暗くなり、そして覆面の男を表示した。
内容は、国民半分以上の命を掌握したテロを起こしたので、それを失いたくなければ金を用意しろというものだった。
「ハッ面白ェじャねェか。テメェら、俺のブレイクタイム邪魔してタダで済むと思うなよ」
焔羅の顔が歪んでいく。その圧倒的な何かに圧され、思わず綾鷹は後ずさりしそうになるが、踏みとどまる。綾鷹には焔羅に伝えなければならない任務がある。
「焔羅、お前に任務がある。護衛の任務だ。」
綾鷹は正規軍の中でも最高峰の実力を持つ焔羅へ、何の迷いも無く任務の概要を伝えた。
-四月二十七日 PM5:34-
日本帝国第24区は、あらゆる航空機が集約された区画である。その為、第24区は輸出が盛んで、航空機の飛行が絶えず行われている。
そんなジェット音の絶えない幾つもの空港が連なる24区の滑走路を、一つの車が走っていた。通称『マキシム』。その形状はスポーツカーに似ており、完全発電式の『マキシム』は銃弾を受けても大爆発を起こすことは無いだろうという太鼓判付きの車。尤も、『マキシム』にはミサイルを撃ち込んでも、車体が多少浮き上がり、煤が付く程度で済むのだが。
その『マキシム』に乗る『真実の希望』のリーダー、辻嵐碧梨は退屈していた。
「はぁ~あ。もっと派手に妨害してくると思ったんだけど、邪魔してくる気配すらないじゃん。何なの?もしかして気付かれてすらいなかったってオチ?」
「いえ、そんな事は無いと思いますよ。少なくとも、既に発見されていますでしょうしね。ここら一帯は警備が厳しいというのに敢えて何も工作せずに突っ切ってるんですから」
さわやかな笑顔で後部座席に居る碧梨に運転席から返してきたのは、灰色のスーツを着込んだ空間移動者、咲峪結誠だ。
「そんなモンかね。アイツら低脳だしなぁ~」
碧梨は、このまま何事も無く海外へ逃亡してしまうのは何だかつまらないと思ったその時だった。碧梨の耳にジェット音に混じり、バババババというヘリが飛ぶ音が入ってきた。
「へぇ~、やっと敵さんの登場って訳か。しかも無人兵器の天空狩人まで出してくるなんてね」
時刻は約5時30分。多少暗くなってきて、機体は所々しか見えないが、碧梨にはそれの正体が分かった。
無人AI兵器、『天空狩人』。それは、ヘリの常識を超えた音速以上の速度で大空を滑空する七枚の羽で飛ぶヘリコプター。連射式のFnS-42や、高性能ミサイルTSH-AEを搭載した兵器で、普通の武装集団だけなら、大規模だろうが天空狩人のみで壊滅させられるという折り紙つきの日本屈指の無人兵器だ。(その分コストもかかるのだが)
大物が出てきたことに愉悦を覚えたのか、碧梨は口が裂けるといわんばかりに口端を吊り上げる。
「いいじゃんいーじゃんいィーじャンッッ!!やっと面白くなってきたよ!!やっぱ戦いが無けりゃ楽しく無いよねェ♪!!」
天空狩人は、『マキシム』の移動直線上に移動して機体を止めると、FnS-42をガトリングのように撃ってきた。あれをまともに受ければ『マキシム』とて無事では済まないだろう。
FnS-42の弾丸を一気に20発程喰らった『マキシム』はグシャグシャにひしゃげ、それに呼応するように大爆発を起こした。銃弾を受けても爆発は起こさないと太鼓判を押されていた車が、だ。
連射式のFnS-42の威力の強さを物語っている爆発から10m程離れたところに、二人の男女が立っていた。碧梨と結誠だ。
爆発の直前、結誠は碧梨の手を掴み、空間移動していたのだ。
「何て事をしてくれたんだ!!あんな程度の攻撃、私なら防げる!」
「まぁまぁ。確実な方法を選んだだけですよ」
その言葉にカチンとくる碧梨。ともすれば自分の能力が信用出来ないと言わんばかりの目の前の男へ言葉をぶつける。
「お前は・・・ッッ!!私の能力を信用できないとでも言うのか!!大体、貴様より私の能力の方が誰がどう見たって上だ!!」
「いえ、そういう意味ではありません。攻撃は防ぐより避ける方が安全性がある、という話ですよ」
「喧嘩をしているところ、申し訳ないんだが・・・」
碧梨と結誠が喧嘩とはいえない喧嘩をしているところに、第三者が割り込んできた。おそらくヘリから降りてきたのだろうその男は、静かにこう言った。
「死んでもらえないか?」
直後、水の剣が大きく横なぎに払われた。その全長10mにも及ぶ巨大な水剣は、碧梨と結誠を二つに切断するはずだった。そう。ハズだった。
見れば、碧梨の目の前に不可視の能力がはたらいていた。なんと表現すればいいのだろうか、その能力を通して見た景色は、大きく、大きく歪んでいた。
空間砕枉。碧梨の任意の空間に発動させることで、その空間にある物体を強度、硬度、質量、密度、性質を問わずに捻じ曲げ、拉げさせ、砕き、穿ち、屠る能力。
その空間に触れてしまったコートを着た男の水は、碧梨が発動させた空間の中で、重力に逆らって浮き、一瞬で蒸発し、また発生し、そして大きな塊が幾つかの小さな塊へと分裂していく。その空間に誤ってでも入れば、人間なんてどうなるかは想像しなくてもわかるだろう。
「どう?ビビッた?」
碧梨は余裕の表情で、目の前に立つコートを着た男と日本刀を差した女へと言った。
-四月二十七日 PM4:45-
17区は、管理が行き届いておらず、廃ビルや廃病院、倉庫など不良が溜まっている場所が数多くある。
そんな第17区の倉庫に短めの茶髪に黒いシャツを着、ジーンズにタングステン製のチェーンを付けた男、不知火緒方は居た。
不知火緒方と対峙している旧部下、蒼杜優貴は静かに口を開いた。
「貴方が此処で切腹しているというのなら、許してあげてもいいんですけどねぇ」
もちろん不知火だって、こんな所で死ぬのはゴメンだ。それでも、たった数時間だけとはいえ、触れ合ってしまった子供を見殺しにする訳にもいかない。こう考えた時点で、不知火はフッ、と自嘲気味に笑った。不知火は、自分が明確に精神的に弱くなっている事を感じた。
「クソが・・・調子付きやがって」
「そんな態度でいいんですか?貴方の大切なものの命はコチラが握っているんですよ?」
蒼杜はそう言いながら、二人の子供の首筋にナイフを突きつける。子供達はそれでも何も言わない。おそらく気絶させられているのだろう。
許せない。そう思った。一昔前ならこう思わなかっただろう。むしろ、人質なんて効率的だと考えていたハズだ。でも、あの子供は不知火自身が助けた。それを自覚した瞬間、不知火の中の何かが弾けとんだ。
「があああああぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
不知火は音速を超える速度で黒い装甲服の部下4人に近づき、ほぼ同時とも言える速度でタングステン製の日本刀で斬りつけた。生々しい体の一部が地面に落ちる音が聞こえる。
「テメェもこうなりたくなかったらさっさと離しやがれ」
ナノマシンの性能的には不知火の方が上だ。それを考慮すれば蒼杜が隙をつかれてやられる事だって十分あり得るだろう。だが、そんな状況でも蒼杜優貴は余裕だった。
「見えないから分からないでしょうがねぇ、これだけ近距離の標的ならば心臓の鼓動を掌握して殺す事だって可能なんですよ。」
「・・・ッッ!!テメェ・・・!!」
不知火のギリリ、という歯軋りする音が倉庫内に響く。不知火が手に持っている刀で切りつける刀が先か、蒼杜の能力が発動するのが先かなんて不知火自身にも分からない。結果、倉庫には長い沈黙が流れていた。
先にその沈黙を破ったのは蒼杜だった。念動力を使い、紗舞夜と劉醒を吹き飛ばしたのだ。
「紗舞夜!!劉醒!!」
不知火は咄嗟に叫んだが、子供達が目を開く様子はない。動こうとする様子も無く、二人はドガァン!!という音をたて、そこらに散らばっているコンテナにぶつかった。
「フ・・・・・ザケンじゃねぇぞテメェええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
不知火は叫ぶが、蒼杜はこれだけでは終わらない。念動力で鉄パイプやコンテナを浮かせ、子供二人がいる場所へと叩きつける。
鉄パイプが転がる嫌な音が響く。土煙でよく見えないが、あれをうけて子供が無事なわけが無いだろう。まして、不知火は何もしていないのだ。
―――――死んだ―――――
その考えが浮かんだ時点で、不知火は刀を手放し、膝を折っていた。
「俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ」
勝っことを確信したのか、蒼杜の口調が変化していく。
「ハッ、何だよそりゃ。あまりにショッキングな映像突きつけられてとうとう精神崩壊って訳かァ?」
これだけ言われても、不知火は膝を地面についたまま何も言わない。どうやら本当に壊れてしまったようだ。
「アンタには勝てないと思ったんだが、こんな形で勝つことになるとはなァ!!」
蒼杜はそう言いながら、ナノマシンで強化された脚力で不知火の右肩辺りを押すように蹴る。不知火はその加えられた力に逆らうことなく地面にうつ伏せに倒れる。
「はァ。ツマンネェよ。何でこんな簡単に諦めちまうんだ?もうチット頑張ってくれると思ったんだがなァ」
蒼杜は興味のなくなった不知火緒方から視線を外し、携帯を取り出して電話をかける。相手は『真実の希望』の下部組織だ。
「俺だ。不知火緒方をソッチで適当に処理しておいてくれ」
『了解しました』
二つ折りの携帯をパタンと閉めて周りを見渡す。さて、後は不知火に付いてきていた一悠仁を消すだけだ。だが、辺りを見渡してみても一の姿が見えない。おそらく戦いに巻き込まれるのを避けて退いたのだろう。逃げたのではない。退いたのだ。
「全く面倒くせぇなぁ。探さなきゃならねぇじゃねぇか」
此処で潰しておいた方が色々と楽だろうと蒼杜が思考していたときだった。視界に妙なものがチラついた。
「(あァ・・・?何だ・・・・・?)」
それは不知火緒方だった。ただ、その体勢が普通じゃない。胸の辺りを見えない何かで吊り上げられるような体勢になっている。そしてそのまま上昇していき、足のつま先が地面から20cm程浮いたところで止まる。手足や頭をだらんとぶら下げていることから自意識があるのかも微妙だ。
「(何だコレ・・・?)」
蒼杜は不思議に思っていた。不知火の能力は金属操作だ。それはありとあらゆる金属を精製し、操作するという強力な能力。だが、何も使わずに宙に浮遊するなんていうことは、この能力をどう使ったところで不可能だ。
蒼杜の疑問が解けないまま、不知火はその重心を後ろから前へと向ける。そうする事で、不知火は胸から、背中の肩甲骨辺りの位置の背骨を吊り上げられるような体勢になった。未だに手足をぶら下げ、頭も俯いた状態の不知火からは、表情は読み取れない。だが、蒼杜は聞いた。不知火が人間が発したとは思えない速度で何かを喋っているそれを。
『ゲンザイザヒョウヲカクニン、カンリョウアダムトイヴヲバイタイトシテテンシチョウデアルミカエルトシテノイミヲチュウシュツシメタルマスターヲチカラノウツワトシテキノウサセマスチカラノトイウツヲカクニンコレヨリメノマエノテキヲクチクスルタメニウィンズトハンズヲキドウサセマス』
「ハハッ。何だよソレ・・・テメェ今自分が何言ったか分かってんのか?」
Lank.8のナノマシン強化した聴力でも今のを聞き取ることは出来なかった。だが、次の短い一言だけは何とか聞きとることが出来た。
『コレヨリセントウヲカイシ』
それは、この倉庫が地獄絵図になる合図だった。
-四月二十七日 PM5:25-
龍神焔羅は、第32区のとある動物園に来ていた。焔羅が受けたのは、日本の巨大な家系、佐々布財閥の護衛というものだ。そして、何故かテロの真っ最中だというのに沙紀という高校生くらいの女子と動物園を見て回っている。
「ねぇねぇ焔羅~。コッチコッチ~」
「チッ、テメェ状況分かってんのか?今テロの真っ最中なんだって。警備が付いてるとはいえ、高位能力者だと使いモンになんねェぞ」
「分かってるよ♪その為の焔羅じゃないの?」
初対面で呼び捨てにされている事や、護衛の相手が緊張感ゼロなんて事も手伝って、焔羅は呆れていた。
(こんなんで大丈夫なのか・・・?此処は襲撃される確立が高いって綾鷹が言うから、俺が付けられたのに)
「ねぇねぇ焔羅ぁ~。コッチだよぉ~」
「ハイハイ。全く・・・」
焔羅が呆れ気味に返事をしたその時だった。ズドォン!!という爆音が木霊した。此処から2km程離れた位置。それでも押し倒されそうになるくらい強い爆風がくるほどの爆発だった。
「何事だ!!」
「現在確認中です!!」
「早急に対処しろ!!」
突然動物園の中が騒がしくなる。此処には一般人もいる。テロなら避難させなければ。
「爆発は囮。本命は私だ」
「ッッ!!」
不意に後ろから聞こえた声に、焔羅は勢いよく振り返る。10m程先に、黒いスーツを纏った、スキンヘッドにサングラスというボディーガートのような人間が立っていた。
「騒乱の火種を潰しに来た。我が名は宵板彪駕。」
「ハッ、面白ぇじゃねぇか。叩き潰してやんぜ」
「焔羅ぁッッ!!」
今此処に巨大な戦いが巻き起ころうとしていた。もう誰も逃げる事なんて出来ない。もうこの戦いを避ける事なんて出来ない―――――
『マキシム』
発電式のスポーツカー(のようなもの)。その為、充電の必要も無い。どうやって発電しているかは企業秘密との事。
『天空狩人』
日本最新のAI兵器。ヘリは、飛行が不安定になるという理由で音速を超えた飛行は出来なかったのだが、天空狩人はそれを解消し、ヘリで初めて音速以上の速度で飛ぶ事を実現した。連射式のFnS-42という強力な兵器を使えるが、発射の為には移動をやめなければならない。
ちなみにこの名前はガンダムから取った訳ではない。
TSH-AE
The Sky High-Anti Enemyの略称。追尾型のミサイルで、一発で核シェルターを粉々にするほどの威力。反動も強いので、人間は生身で使用することは出来ず、兵器に搭載されて使用されている。
第17区
主に廃病院や廃ビルが立ち並ぶ、人間は住んでいないという区画。管理は行き届いておらず、人もほとんど住んでいない。ちなみに、不知火緒方が住んでいる区画は此処。
第24区
あらゆる航空機関が詰まった区画。人の移動にも使われているが、ほとんどは海外との輸出入に使われている。ちなみに、ナノマシン関係の物は輸出される事はない。
区画
2063年の日本帝国では、○○県や○○府という概念がなく、県は区画で表されるようになった。
余談ですが、受験合格しましたw