第十二話 展開-Desarrollo-
様々な視点から書くのは私には合って無さそうなのでやめますw
-四月二十七日 PM3:59-
「もうそろそろか・・・・・」
博士がディスプレイに表示されている時間を見て言う。約束の時間は午後4時。約束の時間というのは、『真実の希望』が5000億円とヘリを17区に用意しろという要求された時刻の事だ。そして、17区のとある場所に停められている高性能ヘリコプターに、不意に現れたスキンヘッドでサングラスをかけた黒スーツの男と、茶髪に灰色のスーツを着た優しそうな男が乗り込んでいく。
その瞬間、ドゴォン!!という銃声にしては尋常じゃない音が響く。下部組織の人間が、二人同時にFnS-42を発砲したのだ。4、5発で頑丈にできた高層ビルさえも倒壊させるというFnS-42の弾丸は、当たったヘリの部分を大きく歪ませ、直後に『真実の希望』の下っ端と思われる二人が乗ったヘリを爆発に包み込んだ。
「おやおや。予想はしていましたが、まさか国民半分以上の命がどうでもいいなんて言っているんじゃないでしょうね」
優しそうな、それこそ男が女性を口説くような甘い声が聞こえた。ヘリがあった場所とは全く違う所から。
「とはいえ、金は偽札などではなかったようですし、国民の命と鐸耶さんの猫ちゃんの命は見逃すとはしましょう。それに、『コチラの本当の目的はもっと別の場所にあります』からね」
すると、また突然何も無い空間から猫が現れる。
「おぉ!!メグ!無事だったかにゃ~」
その猫に真風が駆け寄っていく。おそらく目の前の男は空間移動者なのだろう。二人の男は真風の猫を返すと、何処かへ消えてしまった。
「チッ、また逃しちまったか・・・・・!!これでまたゼロに逆戻りじゃねぇか!!」
榊原はほとんど叫ぶような形で言う。タダでさえ情報が少ない中で、情報を目の前でみすみす逃してしまったことを後悔しているのだろう。
「いや、ちょっと待って。さっき妙な事言わなかった?『本当の目的は別の場所にある』って」
榊原を宥めるように隣に居る四百苅が言う。その問いに博士が答える。
「確かに。だが、その内容が分からなければ情報が無いも同然だな」
「だったら・・・!!俺達はどうやって動けばいいんだよ!!」
榊原は行き場の無い怒りを感じていた。
-四月二十七日 PM3:59-
「ふぅ、こんなモンか」
「うぅ・・・」
今現在、不知火と一がいる店内には6人ほど黒く分厚い装甲服を着た屈強そうな男たちが倒れていた。時には不知火がタングステン製の日本刀で斬り、時には不知火が武器の形をした金属を精製して一に渡して武器変換によって変換した武器で倒していた。結果この通りである。不知火達の敵ではなかった。
「コイツら何なんだよ・・・!!一旦退くぞ!此処は分が悪い!!」
全ては不知火の思惑通りに進んでいた。黒服達はあらかじめ用意していた車に乗り込み、逃走を図る。だが、それを不知火達が黙って見ているわけが無かった。
「行くぞ悠仁!!」
「ハイッッ!!」
その声と共に、不知火はそこら辺に停めてあった車に水銀によって鍵をこじ開けて強引に乗り込む。この世代の車は複雑なセキュリティになっており、簡単に盗めるものではない。ハンドルの左付近に、カードを読み込む為のスキャナーのような装置がある。車を動かす為には、これに所有者のカードを読み込ませ、更にハンドルに付いた指紋認証や網膜認証を誤魔化す必要がある
だが、そんな事はやってられないので・・・・・?
「メンドクセェ!!」
不知火は言いながら、金属で作り出したナイフで指をわざと傷つける。
「不知火さん!!何を・・・!!」
「うるせぇよ。セキュリティシステムを馬鹿正直に破ってる暇はねぇ」
そして、そこから出た血液をスキャナーへと一滴だけ垂らす。それは、水分によって故障させようとした目論見ではない。
当然、そこから出た血液には大量に含まれているであろうナノマシンを使っての作戦である。
カードをスキャンする為の部分へ直接垂らされたナノマシンが不知火の脳から電気信号として受け取っていた命令はただ一つ。
『セキュリティシステムを上手く誤魔化すこと。』
カードスキャナーへと潜り込んだ最先端技術の粋であるナノマシンは、簡単に指紋認証や網膜認証を無効化させて、カードスキャナーを誤魔化した。
セキュリティシステムが反応しなかったので、車のAI部分が問題ないと判断したのか、車のエンジンが静かにかかる。
傷口はナノマシンの治癒能力によっていつの間にか治っていた。
後は100m程前方に見える車を追うだけだ。
-四月二十七日 PM4:28-
榊原たちは、総司令室に戻っていた。
「クソ!!どうにもならねぇのか!」
「どうにもならないわよ・・・情報が無ければね」
さっきから全く進展しないことに疲労を感じ始めたのか、会話が同じ内容しか無いことに呆れたのか、四百苅は若干気だるそうに答える。
不意に、モニターから報告が入った。
『第24区で不審な動きをしている機体を見つけました。真実の希望のメンバーである可能性も十分に考えられます。今通達があった暗部組織は至急向かってください』
通達というのは、おそらく今の報告のことだろう。という事は、ようやくまともな作戦を練ることも可能となったわけだ。
「行くぞ。奴らの不条理極まりないテロを止めるために・・・」
博士が言うと、俺と四百苅も続いて『アビリティ』の出口へと向かう。第24区に何があるのかは分からないが、情報を手に入れるために行くしかない。
-四月二十七日 PM4:37-
不知火と一は、とある倉庫に来ていた。この倉庫こそが、さっきの部隊の車が入っていった倉庫だ。
「此処なら親玉級はムリでも、幹部連中ぐらいならいるかもしんねぇな。ソイツなら親玉の何かしらの情報を持っていたって何ら不思議じゃねぇ。とりあえず此処の奴ら殺るか」
「そうですね」
不知火はナノマシンによって強化された脚力で分厚い鉄の倉庫の扉を蹴破る。2063年になってもこういう倉庫など廃れた管理の無い場所は放置されているのだ。
蹴破られたことで巨大な音が発生し、蹴破られた鉄のドアが転がり、嫌な金属音が倉庫内に響き渡る。
「おぉ、やっと来たか。待ち焦がれていたよ。さっさとおっぱじめようぜ緒方さん」
「テメェ、何で俺の名前知ってやがる。それに待ってたってどういう―――――」
そこで不知火は気付いた。目の前に立つ、おそらくテロリストの幹部の人間の顔を知っていたのだ。
「テメェ・・・蒼杜優貴か・・・・・?」
「そうですよ。貴方が請け負っている革命軍の内の三本柱の一角、『戦闘狂達』の部下で、任務で失敗した時、責任を擦り付けられて革命軍から追い払われた蒼杜優貴です。全く、あの時追い払われるべきだったのは貴方だったのにねぇ」
「あれは『上』がまだ俺を必要としていたからだろ。そんでも、何も処置しないってのは部下に面目が保てないから、ある程度上の位置にいたお前を解雇したってだけだ。申し訳ないとは思ってるが、俺のせいじゃない」
「へぇ、責任転換ですか」
「違う。事実だ」
二人の間で、空気が震えるかのように殺意だけが増幅されていく。Lank.8の念動力とLank.9の金属操作。双方が激突すれば、ここら一帯がどうなるかなど考えるまでも無かった。
蒼杜優貴の部下である黒い装甲服の4人と、不知火緒方の部下の一悠仁は、ジリジリと二人から離れる。離れなければ死ぬ事は必至だろう。
「やめましょう。貴方と真正面から戦ったところで、結果は目に見えています。今は違うとはいえ、上司と部下の関係ですからね。どちらの能力が上かなど競わなくても分かります」
蒼杜優貴の殺意が風船から空気が抜けるように消えていく。
「それに、私達は切札を所持していますからね」
蒼杜はそう言うと、部下へ指示して二人の子供を連れて来させた。片方は4、5歳くらいの水色の髪を腰辺りまで伸ばした女の子で、片方は茶髪が目にかかるぐらいの長さで、8歳くらいの男の子。倉庫内は光が差さず、暗くて顔がはっきりとは見えないが、不知火にはその二人が誰なのか瞬時に分かった。一時間半くらい前まで一緒に居たのだから当然だろう。
「紗舞夜・・・劉醒・・・・・!!」
「おや、顔は見えないと思ったのですが。分かりましたか?まぁ私の言いたい事は簡単です。よくある大切な人の命を奪われたくなかったら言うこと聞きやがれってやつですよ」
それはあまりにも分かりやすく、そしてどんな人間にも効果的な脅し文句だった。
-同日同刻-
―――正規軍の司令室―――――
「護衛の任務ねぇ・・・・・メンドくせぇが、強ぇ奴と戦えるならいーか」
Lank.8とLank.9級の能力を併せ持つ、暫定Lank.10の能力者―――――龍神焔羅
―――最強の暗部組織『バビロン』―――
「テロってさぁ~、何が起きてるんだろぉねぇ~」
Lank.10の能力者で、最強暗部組織『バビロン』のリーダー―――――瀬良川槻螺
―――革命軍本部―――
「ウチからも何人か人員引き抜いていったか『真実の希望』。テロすんのは勝手だが、部下に手を出されたんじゃブチ殺すしかねェよなァ」
Lank.10の能力者で革命軍のリーダー―――――神童穿牙
―――『アビリティ』が準備した『ワゴン車』内―――
「(絶ってぇこんな下らねぇ事やめさせてやる!!沙紀と美優!それまで無事で居ろよッッ!!)」
七人補完計画唯一の被験者―――――榊原恭也
―――日本帝国の独立組織『???』基地―――
「そろそろ騒がしくなってきた・・・俺の出番もそう遠くないかもな」
日本最強のLank.10―――――?????
日本は確実に、急速に変動していた。これはもうただのテロではない―――――
サブタイトルのは、戦いが激化するという意味です