第十一話 紛争-Una disputa-
-四月二十七日 PM3:04-
「緒方しゃん緒方しゃん!!起きて起きて!!」
妙な喋り方で俺を起こしてきたのは、咲葉紗舞夜だ。紗舞夜というのは、俺が午前中に拾った二人の子供の内の女の方で、男の方は劉醒というらしい。全く面倒な名前だ。
「チッ。どうしたんだよ。用が無ければ昼寝続行するぞォ~」
「いやですね緒方しゃん。紗舞夜たちがたべものたべてたられいぞーこの中がなくなっちゃったんですよ」
紗舞夜は5歳にしては敬語ができて、中々利口な子供なのだが、今さっき聞き捨てなら無い言葉を利いたような気がする。
「冷蔵庫の中身が無くなっただと!!ありえねぇ。ざっと一週間分の食料を入れておいたハズだぞ!」
「いや~、おなかが減っていてですね」
「だからって食いすぎだろ!!子供だけであの量食い尽くすとか・・・」
昼寝を邪魔された挙句、これでは買い出しに行かなければならない。そして劉醒が俺がしてるハズだった昼寝をしているのが更にムカツク。だが、5歳と8歳の子供に起こっても無駄だろう。俺は仕方なく財布を持って出かける。
「ハァ。ちょっとスーパー『SUZUKI』まで行ってくっから、テメェらソコで大人しく固まってろ。」
そして俺は携帯へ手を伸ばし、ある番号へと電話をかける。
「おい。一か?」
電話口の方から、想像通りの声が聞こえてくる。
『どうしたんですか?不知火さん、今日はもう仕事は無いはずですよね?』
「あァ。全くもってその通りなんだが、ウチの冷蔵庫が襲撃されたんだよ。それで今晩の分の食料が無ぇから、『SUZUKI』までの買い出しに付き合えよ」
『は?襲撃ってどういう意味で―――――』
説明するのがメンドくさいので、携帯を切って終わらせた。さて、行くか。
-四月二十七日 PM3:35-
俺は再び、総司令部へと戻っていた。此処には、俺、博士、四百苅、向垣内、瑠璃垣、真風の6人が居る。
巨大なモニターには、テレビ機能でもあるのか、ニュースが映し出されている。だが、それは日常で流れるようなニュースではなかった。
『大手スーパーSUZUKIを始め、数多くの店・交通機関・企業が強襲され、ほぼ日本中の至る所が襲われています!!これを政府はテロと見当しているようですが・・・えぇ、はい・・・・・今入ってきた情報です!!政府は、このテロを革命軍とは違った組織と判断したようです!!有力な情報が入り次第、常時お知らせしていくつもりなので目を離さないでください!それと、くれぐれも家から出ないようにして下さい!!繰り返します!家から一歩も出ないでくだ―――――』
アナウンサーが、巨大な事件だからか、大声で放送している。時には、ディレクターがカメラに思いっきり映りながらアナウンサーと何かを相談している様子も見て取れる。
「情報が無ければ、迂闊に出る事も出来ないね。相手がどんな組織なのか、何を目的としているのかが分かればいいんだけど・・・」
と四百苅が言っている。だが、テレビじゃ有力な情報は期待できないだろう。つまり、最初から手詰まりである。
さっきから一向に話が進まず、俺は思わずキレてしまう。
「何なんだよ!!此処でボーッとしてるだけで事件が解決するのか!?しねぇだろ!?俺たちも出て行かなくていいのかよ!!」
「落ち着け。情報が無ければ俺たちは動くことが出来ないし、命令も出ていない。それに、襲われているのは全国レベルなんだぞ。下手をすれば、俺たちは一気に国民の半分以上を亡くす可能性がある」
「それはそうだけど・・・・・!!でも、何もしないなんて・・・」
そんなことは分かっている。しかし、沙紀の事が心配なのだ。妹の美優はおそらく家から出ていないだろうとはいえ、沙紀が今どうしているかなど俺には分からない。
ブツッ
その時、妙な音とともにモニターが暗くなる。そして、一人の男が映る。といっても顔はマスクで覆われていて見えないのだが。
『諸君。我々、-真実の希望-は全国規模でのテロを起こした。だが心配はしなくていい。正規軍や革命軍の人間が我々に対し何かをしない限り、一般人に手を出すことはしない。我々の目的はただ一つ。まぁ端的に言えば金だ。そこで、正規軍には我々の逃走ルートと5000億円を用意してもらいたい。この要求が呑めるならば国民を無事に帰そう。だが、この要求を呑むことが出来ないというならば・・・・・』
画面に映っていた覆面男は、何やらゴソゴソし始めた。俺たちが頭に?マークを浮かべた直後だった。覆面男が、俺たちが追っていたマンチカン(真風鐸耶の飼っている猫)を持ち上げたのだ。
「「「「ッッッ!!!???」」」」
任務を知らなかった向垣内や、事情を理解できていなさそうな瑠璃垣意外は、全員その表情を驚愕に染めていた。あの猫が何に使われるかというと・・・
『この、現在の国家頭首の猫と、国民半分以上の命はどうなってもいいということでいいんだな?』
脅しに使われるのだ。しかも、国民半分以上の命よりも、猫の命のほうが先に引き合いに出されてしまっている。俺達はなんだよそりゃ・・・的な反応だったが、真風には相当な効果があった。
「おぉ!!家のメグ!!テメェ!俺のメグに手を出したら容赦しねぇぞ!!!」
瑠璃垣と真風以外の総司令室にいる全員が、同時にため息をついた瞬間だった。
-四月二十七日 PM3:35-
不知火緒方は、買い出しの付き添いとして一悠仁を連れて、ほのぼのと買い出しをしてそのままボロアパートに帰るつもりだった。
それが
「何でこんな事になってんだよ」
現在、不知火と一は突然やってきた強盗らしき黒服の男達に、銃を突きつけられて両手を頭の後ろに回されている。
「(ブッ殺すのは簡単だが、こんな所で銃を振り回されたらどんな被害が出るかも分かんねぇしな)」
不知火は、他の銃を突きつけられている客へと視線を向ける。
さっきの統率された動きを見る限り、此処を襲撃した10人そこそこの黒服たちは、ただの強盗などではないだろう。
「(午前中の遊園地の連中は明らかに素人だったから、本人に吐かせるなんて事が出来たが、今回の連中に同じ方法が通用するなんて確証はねぇ。確実な方法をとるには・・・)」
不知火としては、さっさと殺すか追い返して子供達の場所へ戻りたいと思っているのだが
、一般人が死ぬのはゴメンだ。『優しさ』に少し触れてしまった今なら尚更。
「(此処にいる部隊の内の、半分以上が壊滅すれば流石にコイツらだって撤退すんだろ。本部とかまでついていけば、ボスまでとはいかなくても幹部級の人間ならいるかもしんねぇ。ソコだったらボスの情報くらい転がってるかもしんねぇ。そうなればコッチのモンだ。何やってるか知んねぇが、計画を根こそぎブッ壊してやる)」
考えはまとまった。あとは隣に居る悠仁と協力して、部隊を撤退させれば不知火の立てた作戦の半分は完了する
『おぃ、悠仁。ちょっと耳貸せ』
不知火は小声で一に耳打ちする。一に作戦を伝え終えると、襲撃してきた部隊の内の一人が声をかけてきた。
「お前達、何を話している。静かにしろ」
「すみません。ちょっと家族が心配になったもので」
一はそう言いながら、何気ない動作で商品棚の方へ少しずつ近づいていく。その棚に並んでいるのは子供向けのお菓子だ。
「?」
「武器変換って知ってますか?武器の仕組みを知ってさえいれば、物を武器に帰ることが出来る能力なんですけどね」
一はそう言いながら、直方体のお菓子箱を手に取り、それを相手に向かって投げる。それは見る者が見れば分かっただろう。
プラスチック爆弾だという事に。
「なッ!!貴様!能力し―――――」
男の言の葉が最後まで紡がれることは無かった。言い切る前に、プラスチック爆弾がオレンジ色の閃光を放ちながら爆発したからだ。
巨大な爆発音と共に、店内がざわつき始める。リーダー格と思われる男の焦った声が聞こえる。
「おいッ!!何が起きたのか報告しろ!!何が起きたんだ!!!!」
だが、その言葉に答えるものは居ない。不知火と一の居た場所は煙に包まれ、どうなっているのか分からない。
「(クソッ!人質に迂闊に傷を着けるわけにも行かないから、見えない状態じゃ発砲できないッッ!!)」
その時、一つの動きがあった。不知火が煙の中からビュオッ!!という風を切る音と共に出てきたのだ。両手にタングステン製の日本刀を持って。
「テメェら相手が悪かったな。皆殺しだクソ野郎」
不知火の殺意が増幅され、圧倒的な殺戮が始まった。
一悠仁
不知火緒方直属の部下。Lank.6の武器変換。作戦案を練る役を主に担っているので、機転が利く。
身長は170cm前半くらいで、耳が隠れるくらいに髪が長い。
武器変換
文字通り物を武器に帰る能力。変換する前の物体と、変換後の物体の形状が似ている程、能力が精巧に行使できて、尚且つナノマシンへの負担が少ない。銃に変えるときは、最初は装弾数一杯に入っているが、弾切れになった場合は補充しなければならない。尚、変換後に選べる武器の条件として、その武器の仕組みを詳しく知っておく必要がある。
不知火緒方の戦闘スタイル
タングステン製の日本刀を主に使う。これは四百苅の影響も多少ある。何故刃を作った後に飛ばして攻撃しないかというと理由は簡単で、ナノマシンへの負担が少ないから。刃を作って操作して飛ばすと、精製という複雑な演算の上に、操作という座標計算も絡めた演算をしなければならない。ただ運動能力を上昇させるというだけならば、ナノマシンは自動で日常的に行っている為、さほど負担が無い。