第九話 変心-Un cambio de mente-
「あァん?今回は主人公が交代だと?」
革命軍の一角『戦闘狂達』のリーダーにしてLank.9の金属操作―――――不知火緒方
-四月二十七日 AM10:38-
不知火緒方は、とあるボロアパートの一室に居た。彼は革命軍の幹部クラスである為、正規軍からはよく狙われる。その為、彼は管理の行き届いていない場所を住処としなければならない。そういった理由から、金はあるのにボロアパートに住んでいるという奇妙な事になっている。
彼はその能力の性質から、周りにタングステンを大量に置いている。具体的には、タングステン製のテレビやテーブルといったものだ。そして今は、つい先日任務を失敗したことからもっと強化しろと『上』からタングステン製の指輪やピアスが送られてきたところだ。
(つか、テレビにタングステンを組み込むというより先に出てくるアイデアはコッチじャねぇのか?)
そんな些細な疑問を浮かべつつ、彼は、ナノマシンに異常がないかの確認と、『支度』をしている最中だ。
異常が無いかの確認というのは、珍しく不知火が失敗したあの任務のせいである。あの時、無理にナノマシンに高い演算をさせたせいによる後遺症がないかの確認というわけだ。
そして支度というのは、彼は『上』から任務の要請を受け、今から任務に向かう為の準備をしているところなのだ。
(つっても、体一つあれば十分か。まぁ、一応の)
不知火は、ナノマシンに異常が無いことを確かめると、ドアの方へと向かい、外へと出た。
「(あァん?)」
彼は、部屋の隣に座りこんでいる二人の子供に気が付いた。片方は男の子、片方は女の子だ。ちなみに男の子の方は7、8歳くらいで、女の子の方が4、5歳くらいと見える。
おそらく浮浪児だろうが、そんな事は不知火は知らない。見ず知らずの人間を助けるほど彼は善人じゃない。
「悪ぃな。テメェらを助けて満足するほどの偽善すらコッチは持ち合わせちゃいねぇんだ」
そうとだけ吐き捨てると、彼は今にも壊れそうなアパートの階段を降りていく。
-四月二十七日 AM10:46-
不知火緒方は大きな通りを歩いていた。今日は土曜日だというのに不思議と大通りには人っ子一人いなかった。通行人も、車さえ通る気配が無い。不知火が不自然な静けさに警戒し始めた、正にその瞬間だった。
「そこのお前!もう逃げられると思うなよ!!コレでチェックメイトだッッ!!」
「ッッ!!!」
後ろのほうから、何処かで聞いたことがある声が響いた。不知火は正規軍の人間かと思って後ろを振り返ったが、違う。
不知火が振り向いた先には誰も居なかった。他の通りにいるのか、姿が見えない人の声だけが誰もいない大通りに響く。
「榊原!!そっちに行くわよ!捕まえて!!」
「(榊原・・・・・?)」
聞いたことのある苗字と声に、俺は首を傾げたが、気にしてもしょうがないと割り切り目的地へと向かった。
-四月二十七日 AM10:49-
俺は目的地へと着いた。その目的地というのは
『『『キャアアアアアァァァァァァァ!!!!!!』』』
絶叫マシンに乗った人間の絶叫が飛び交っている遊園地だ。といっても、遊びに来たわけじゃない。何でも遊園地にてテロの犯行予告があったらしく、それを犠牲者無しに止めろというのが今回の命令だ。
国を潰す事を目的としている組織なのに、と疑問を浮かべるかもしれない。だが、革命軍は一般人から強い能力者を抽出して組織された集団なので、基本的に善人が多い。よってこんな命令も少なからずある。
「う、動くなああああぁぁぁぁ!!!!」
来たか。丁度良いタイミングだな。
不知火が声がしたほうに目を向けると、目立ちにくいようにする為か、私服を着た男たちが6人いる。
だが、ゴオオオオォォォォというジェットコースターなどのマシンの音と、それに乗る人達の絶叫によってその声は掻き消され、不知火を含めてその存在は一部の人しか気付いていない。
むしろ、気付いている人が少なすぎて、みんな変人を見るような視線になっている。
家族で来てる人なんかは、よくある
『なにあのひとこわ~い』
『シッ、見ちゃダメよ』
的な会話をしているのが、傍から見ているだけで分かる。
「プッ」
思わず柄にも無く吹いてしまった。何だアイツら。カッコ悪すぎる。
「クックソがあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
恥じらいとか、何かいろいろな感情が混じって発狂してしまったのだろう。男がいきなり叫んで、銃を取り出し、迷うことなくその引き金を引いた。
拳銃にしてはゴツいもので、発砲音も、ズドォン!!という大きい音がした。おそらく注目を集める為のものだろう。
それに、超能力なんて発動するまで見えないものよりも、銃などの分かりやすい武器のほうが脅しにも使える。
関係者が気付いて何かしたのか、はたまた安全装置か何かが働いたのか、ジェットコースターやら何やらが一斉に停まる。
「キャアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
絶叫とは違う、女性の悲鳴が響く。
正直、不知火にとっては何故人質を管理しにくい遊園地なんて場所を選んだのか激しく疑問だ。しかし、その疑問はすぐに解消される。
「よ、ようやく静かになったな。よく聞け!この遊園地の区画から一歩でも出たら、その人間が出ようとしたゲートから、直径1kmを消し飛ばす爆弾を仕掛けた!!おぃスタッフ!!今の聞いただろ!放送で全体に伝えろ!!」
動揺している事からして、素人であることは間違いない。
(直径1kmを消し飛ばす爆弾か・・・)
この遊園地はかなり大規模なもので、一つの大きな町を開拓してそのまま遊園地にしたのではないかという噂がたつほどのものだ。だが、直径1kmというと相当な大きさだ、1、2個爆発すれば、それだけでこの遊園地は大きな損壊を受けるだろう。
(被害者をより拡大させる為の遊園地か・・・。爆弾ってのがハッタリかもしんねぇが、証拠はねぇしなァ)
爆弾がハッタリじゃないのに、うっかり殺してしまったとなれば、爆弾を解除出来ず仕舞いなんてこともあり得る。早めに終わらせて帰りたい不知火としては、それは是非とも避けたいところだ。
「おいそこのお前!!聞こえてんのか!手を上げろって言ってんだよ!!」
「は?俺?」
しばらくの間、どう行動を起こすか思考していた不知火は、素っ頓狂な声で返事をした。それによって、ただでさえ沸点が高くない素人を怒らせてしまったようだ。
「テメェしかいねぇだろうが!!」
俺に手を上げろと要求してきた男は、痺れを切らしたのか、消音器も付いていないゴツい銃を俺に突きつけてきた。こりゃマジィな。
「いや、ちょっとボーッとしてただけだよ。悪ぃ悪ぃ」
そんな不知火の態度に対してさらに神経を逆撫でされたのか、男は引き金に指をかける。仕方ない、やるか。
「死ねぇ!!」
ズドォン!!という音と、一人の男の絶叫が遊園地中に響いた。誰もが、不知火が無惨な姿になる事を確信しただろう。だが、人々の予想に反し、絶叫の主は銃で撃った男の方だった。
「ぐァァぁあああぁぁアアアアア!!!!」
見れば、拳銃の破片がそこら中に散らばり、銃を握っていた男の手が血だらけになっている。
Lank.9の金属操作。それはありとあらゆる金属を精製、操作する能力。それは銃弾とて例外ではない。
不知火は飛んできた銃弾を操り、男が持っていた銃の銃口へと吸い込ませたのだ。
「残念だったねぇ。まァ、アンタらの運のツキもここまでってワケだ。」
不知火の口端を吊り上げて笑っている表情を見て、勝てない事を確信したのか、地面に倒れている男は身体から力を抜いた。不知火はその男の首に強めに手刀を入れて意識を奪う。
さて、あとは五人というところだろうか。
「フッザケンじゃねぞクソ野郎ォオオオォォォォ!!!!!!」
五人の内一人の男が咆哮し、半径50cm位の大きさの炎の球を軽く30個ほど作り出す。やっぱ戦いってのはこうじゃなくちゃ。
俺は前回の失敗から学んだ。だから今回は失敗なんてしない。
俺は、ナノマシンを使って全速力で炎の球を作り出した男に下に駆けながら、男の背後に金属の塊を作り出す。敵の仲間が『後ろ!後ろだ!!』と叫び、それに反応して炎を作った男は後ろを確認したようだが、もう遅い。
宙に浮いた、金属の塊から、三本の針状の金属が飛び出し、炎を操る能力者であろう男の、腰部・腹部・胸部を同時に突き刺した。
「残念だったな。まぁ早めに治療受けて、運が良ければ助かるかもよ」
俺は地面に倒れている男に言いながら、テロ集団の方へと走る。残りは4にn・・・あれ?三人しかいない?一人は逃げたのだろうか。まぁいいか。試したいこともある。
「ハハハハハハハッッッッ!!!」
俺は笑いながら三人の下へと、人間が出すには異常すぎる速度で突っ込む。一人目は、無能力者だったのか、銃を撃ってこようとした。銃弾を操れることもできたが、それより普通に攻撃したほうが速いし確実だ。
選択肢はなるべく多く持っていたほうが良い。
俺は手にタングステン製の日本刀を作り出す。といっても、精製できるのは金属のみなので、当然柄の部分もタングステンで出来ている。俺はそれを、銃を握っている右手の手首へ音速以上の速さで振り下ろし、その後燕返しの要領で刃を左手の手首へと向け、振る。
「うっ・・・ぐァああ!!て、手が!!」
音速以上の速度で振られたタングステン製の日本刀は、一人目の男の両手首を文字通り切断していた。コイツにはもう抵抗する力は無いと考え、二人目へ注意を向ける。
二人目は空間移動者らしく、物体を俺の体内へ飛ばして攻撃しようとしてくるが、人外の速度で移動している俺に対して、座標計算が間に合わないらしく、攻撃が全て外れる。どうもそれほど高ランクの能力者ではないらしい。(ナノマシンの演算がもう少ししっかりしていれば当てられる)
攻撃を避けきり、常温で凝固しない唯一の金属、水銀を精製して宙に浮かせ、手に持っているタングステン製の日本刀を消す。そして、水銀を手に集め、能力によって引き伸ばし、鞭のように叩きつける。
音速を超えて放たれた水銀の鞭の先端は、空気による衝撃波を発生させ、空間移動者を一瞬で肉塊にする。
「さァて、次で最後かなァ?」
俺はわざとらしく語尾を高くする。そうだ。何で今までこの方法を思いつかなかったんだ。
問題が分からないのなら、出題者に問えばいいじゃないか。
「ひっ・・ぅあ・・っく・・・!!」
恐怖に呼吸困難が混ざったのか、嗚咽のようなものが聞こえる。そんなものは気にしない。俺は手を親指と人差し指の感覚を広げて、コップを掴むような形を作ると、それをそのまま最後の一人の首へ全力で押し付ける。
「うっ、ぐァあ・・・!」
呼吸が出来なくなり、しかも頭をコンクリートに叩きつけられたことで、悲鳴にもならない悲鳴が男の口から漏れる。
「さァ、選択の時間だ。このまま殺されるか、爆弾を爆発させずに解体させる方法を吐いちまって、一人のうのうと生きていくのとどっちがイイ?」
男がどちらを選んだかなど、言うまでもなかった。
-四月二十七日 AM11:52-
最後の一人から無理矢理爆弾の解体法を聞き出し、安全に遊園地を脱出すると、遊園地周辺は正規軍の武装集団で固められていた。どうも、外へ出ると爆発するのなら中へ入っても爆発するのではないかとかいう理由で突入しなかったらしい。
まぁ、遊園地に仕掛けられていた爆弾は独自に作られたもので、中へ入るには何の問題も無かったらしいのだが。
ともあれ、正規軍に事件の事情聴取などされたら、革命軍とバレて捕まってしまう。俺としてはそれを避けたかったので、ナノマシンで身体能力を増強して逃げてきたというわけだ。
そして、ボロいアパートの前に着いた。予想以上に時間がかかったことや、若干運動したこともあり、不知火は空腹である。冷蔵庫(当然タングステン製)に入っているもので済ませようかと考えていた時、目に入ってきたのは、任務前に見た二人の子供だ。
「チッ、大家とか何をしてやがるんだ。放置しといたら死んじまうだろォが」
現に、目の前に居る子供の目からは、生気が失われつつある。
「はァ~~~。メンドクセェ」
-四月二十七日 PM0:07-
とりあえずは普通の日常に戻った。ボロいアパートも何時も通りだし、タングステン製という妙な家具で彩られた殺風景な部屋も何時ものそれだ。
ただ一点、自分の目の前で昼食にがっついている二人の男女がいることを除いては。
「クソ。何でこうなったんだろォなァ」
「ん?何か言った?」
女の方の子供が反応する。
「独り言だ。気にすんな」
「ふぅ~ん」
すると、またガツガツと食べ物をものすごい勢いで口に放り込んでいく。それだけ飢えていたんだろうか。
「(俺も甘くなったモンだな。任務が失敗して、プライドが無くなったからか?)」
不知火はしかしこの時まだ知らなかった。これから起こる悲劇の内容を。
-四月二十七日 AM11:32-
「クソ!これからどうすれば良いってんだ!!高位能力者の邪魔が入るなんて、聞いてねぇぞ!!!」
一人の男は焦っていた。革命軍から見放され、正規軍から追われる身となった一人の男。この状況は正に『死』を意味している。何処へどう逃げたってもう無理だ。終わった。
だが、そんな男の携帯がブルルと震える。どうも電話のようだ。男はポケットから携帯を取り出し、緑色に光っている通話ボタンを押し、携帯を耳へ近づける。
男はその電話の声を聞き、そして内容を聞いた直後、笑顔とはとても言えない笑いを浮かべた。良かった。まだ自分にもチャンスがある。
男は奇妙な笑いを顔に貼り付けたまま、路地裏へと入っていく。自分のLank.8の念動力という強大な能力を最大限利用して、この世界で生き残るために―――――
最後のは伏線ですねハイw
伏線ですとか言っちゃダメだろwww
三月十二日改稿