第八話 決別-Partiendo-
-四月十七日 PM0:03-
俺は鉄高校の校舎前に居た。気付けば俺は私服だったが、そんなものは関係ない。俺は授業を受けに学校に来た訳じゃない。
過去と決別しに来たんだ。
校舎に入ると、私服で学校に来た俺に対して、教師や生徒から視線がぶつけられるが、気にしない。俺は自分のクラスの教室の前で立ち止まる。
一瞬帰ろうかという気持ちが過ぎるが、そんな事はしていられない。
これは、今解決しなければならない問題だ。
-四月十七日 PM0:05-
昼休み。私は恭也が休んでいることもあり、一人で昼食を食べようと思っていたその時、不意に教室のドアが開けられた。
そして、ドアの向こうにいたのは恭也だった。
「???」
何故昼に来たのか分からないし、何で私服なのかも分からない。
恭也は黒板の前に立つと、クラスの皆の方を向いた。
これから何が始まるんだろう。
-四月十七日 PM0:05-
俺は教室のドアをガラガラと開けて教室へと入る。ここまで来たからには何もせずには帰れないと自分に言い聞かせながら。
黒板の前に立つと、沙紀の姿も見えた。?マークが目に見えるほど分かりやすい疑問の表情を浮かべている。
「みんな!聞いてくれ!!」
俺の言葉に反応し、クラスの数人がこちらを向くが、俺だと分かった瞬間に昼食タイムへと戻っている。
まぁいい。結果がどうあれ俺は変わらない。
「俺はさ・・・二年前の事件で、人と関わろうとするのをやめた」
それは、俺が望んだことじゃない。
「でもさ、気付いたんだよ。俺は・・・人は、他の人と関わらないと生きていけないんだよ」
勝手な言い分かもしれない。自分から拒絶しておいて今更仲直りなんて。
「孤独は嫌だ。孤独じゃ、生きていけない。だから、」
十分すぎるほど分かった。一人だけで生きていくには、この世界はあまりにも広すぎる。
「だからと言っちゃ勝手な言い草かもしれないけどさ・・・俺と友達になってくれ!変かもしれないけど、俺は二年前の事件の犯人は俺じゃない!頼む!!」
自分が言ってることは傍から見たら変だし、妙だろう。仕方ない。こんな方法しか思いつかなかった。
教室に居るクラスの奴らは、しばらく、しーんという効果音が聞こえるかと思うほど静まり返る。そして、しばらくの沈黙の後、一人の男子生徒が口を開いた。
「仕方ねぇーなぁ。そこまで言うなら『友達』になってもいいぜ」
その一言は、俺にとってとてもじゃないが信じられないものだった。こんなにもあっさりと・・・・・
「その代わり・・・」
いかなかった。クラスの男子生徒の表情がニィ、という効果音つきで変化し、殺気を放ち始める。
「えぇと・・・?何・・・・・?」
その直後、視界が暗転した。
-四月十七日 PM0:12-
高等学校である鉄高校には、当然ながら購買というものが存在する。
4限目が終了した今の時間帯は、その購買に人間が殺到し、年功序列なんていう言葉が本当にあるのだろうかと疑いたくなるほどの上下関係皆無の死闘が繰り広げられている・・・・・のだが。
「ハァ、ハァ、ハァ」
そんな状況などものともせず、榊原恭也は、校舎の周りを超能力とナノマシンの性能を併用し、陸上のアスリートが見たら驚愕するようなスピードで現在進行形で疾走している。
理由は簡単だ。あの後・・・と説明するより、後ろをちょっと振り返れば一目瞭然である。
「「「沙紀さんをよこせぇーーー!!!」」」
つまり、そういう事だ。今まで榊原という近寄りがたい存在があったから沙紀の周りにも人がいなかった。しかし、榊原が『何でもない存在』になれば、人気がある(主に男子から)沙紀を男子が狙ってくる。
そして、顔も整っていて、身長が高く、運動も出来る恭也は当然女子からも追いかけられるわけで。
「「「待ってぇ~~~榊原く~ん」」」
ついさっきまでのシリアスモードは何処へやら。今現在、榊原はクラスの男子ほぼ全員と女子4、5人ほどから追いかけられているといったカオスだ。
「A班はそこを迂回しろ!C班が出口を封鎖し、A班とB班で挟み撃ちにするッッ!!」
などという、いつの間にか出来上がったのか疑問が浮かぶ無駄なほど本格的過ぎる指示系統を駆使し、榊原を追い詰めようとする男子達生徒。(男子は恭也を除いて総勢18人)
これほど本格的な追撃。捕まったらタダでは済まないだろう。
「クソッッ!!このままじゃ捕まっちまう!!何か逃げる方策を考えねぇと!」
そこで榊原は、一台の携帯を取り出す。かける相手は信頼度が最も高い妹だ。
少しの間単調な音が鳴り、ブツッという音と共に繋がる。
「美優か!!(妹の名前は美優)現在俺はクラスの男子生徒ほぼ全員+αと逃走中を繰り広げている真っ最中で、俺は逃走してる方なんだけどさ!鉄高校で何処か良い逃走ルートとか無いか!」
実は妹の美優は高校一年生なので、この校舎については榊原ほどではないが知っている。
逃走中である榊原としてはかなり焦っていたのだが、妹の美優の方からは、笑っているのかクスクスという声が聞こえてくる。
「美優?どうかしたのか?」
本来あまり集中を削ぐべきではないのだが、突然の美優が笑い出したことに疑問を浮かべる榊原。
「プッ・・・うぅん。何でもないよ。たださ、お兄ちゃん、いっつも一人でいるか、沙紀さんと二人だけでいるイメージが合ったからさ。友達沢山できて良かったね♪」
「あぁ、本当に良かったよ。ところでさ、どうやって逃げれば良いのかをまだ聞いてなゲブボァ!!」
榊原が最期まで、基、最後まで言いかけたところで、言語が人外のものとなった理由は単純だ。
校舎の角を曲がろうとした瞬間、ある男子生徒からドロップキックをお見舞いされたからである。
だが、それでも、無駄だと分かっていても榊原は携帯を手放すことはしない。
そんな榊原の努力も虚しく、気付けば榊原の上に一人の女子生徒が馬乗りになっている。
決して整っているとはいえない顔立ち。丸々と太った身体。そして顔面にめりこんだ眼鏡。トドメとして、んふぅ~という尋常じゃない息を鼻から漏らしている。
見れば、さっきまで榊原を追いかけていた残り四人のまともな女子達は、太った女子生徒へと侮蔑の視線を浴びせている。
だが、そんなものは目の前の女子生徒に対しては、何の効力も持たない。
「逃がさないわよぉ~榊原くぅ~ん」
背筋にこれまで感じたことのないほどのゾゾゾという悪寒を感じた榊原はこう叫ぶ。
「ふっ、不幸だああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
とある物語の不幸な主人公の口癖が移った瞬間だった。
はい。次回は例のアノ人が主人公となります。