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星に願いを

もしも願いが叶うなら

自由な翼をください

鳥のように

自由に飛べる翼を


「システィーユ。星を見ていたのかい?」

システィーユは、手を組んだまま顔だけ父の方へ振り向いた。

「ううん、お願い事よ。流れ星にお願いをすると、その願い事が叶うんですって」

しかし父はシスティーユの車椅子を窓辺から離すと、窓をしっかりと閉めてしまった。

そして優しくシスティーユの頭を撫でた。

「外は冷えるからね。風邪をひいてしまうぞ」

「お父様ったら、私はもう16歳よ。小さな子供じゃないわ」

父が何か話そうと口を開きかけた時、部屋の戸がノックされた。システィーユが答えるよりも先に父親が低い声で返事をした。

「失礼します」

そう言って入って来たのは執事のロイドだった。その後ろにも家にいる仕え人たちが

執事のロイドを先頭に部屋の前に整列している。

「これはどうゆうこと?お父様」

不安と驚きを入り混ぜたような細々し声で尋ねた。

「なに、台風が来るらしいから、窓を打ち付けておこうと思ってな」

父がそう言っている間にも、部屋の中に木製の板が運ばれてきた。2人が窓に板を

押し当て、1人がその板を窓に打ちつける。システィーユはその光景をただぼんやりと

見つめていた。

徐々に外の闇めいた空は、板によって塞がれていった。窓が木の板で覆われると、作業を終えた仕え人たちは一礼して部屋から去っていった。最後にロイドが来た時と同じように

「それでは、失礼いたしました」

と礼を言うと、大切なものを扱うようにゆっくりとドアを閉めた。

それを確認したかのように、父はシスティーユのおでこにキスをする。

「いいか?父さんが出てったらすぐに鍵を閉めるんだぞ」

「分かったわ」

父は頷くと部屋から出て戸を閉めた。システィーユは、自分の車椅子を部屋の戸の近くまで押すと鍵穴を覗いてみた。すると父の着ていた赤いコートが外の様子を遮っていた。

閉めるのを確認しているのだろうか。システィーユはとりあえず持っていた鍵でドアを閉めた。もう一度鍵穴を覗いてみると、そこにまだ父は立っていた。しかしドアを閉めた音を

聞いて満足したのかそのまま長い廊下を歩いて行った。

父がいなくなると、部屋の外にはシスティーユが見たこともない武装した男達が館を

うろついているのが見えた。いつもとは違う屋敷の雰囲気に不安を抱きながらも、

システィーユは鍵穴を覗くのをやめた。


父達が帰ってから、まだそんなに時間は経っていなかった。

部屋に置いてあった本はもう飽きるほど読み返したし、寝るにしてもまだ早すぎる。

システィーユは書庫までいって、何冊か本を持ってこようとも考えた。しかし外にいた

武装した人達のことを思うと、怖くて外に出られなかった。

自然と窓辺に視線が注がれた。見るからに頑丈に打ち付けてある窓に、システィーユは

疑惑を抱いた。

父は台風が来るから、と言って板を打ちつけた。あの時確かに空は雲一つなく

澄んでいた。

星だって沢山見えたし、月だって黄金色に輝いていた。それが急に台風なんて

来るだろうか。

それに台風が来るとしたら、部屋の中からではなく外に板を打ち付けるのが普通だ。

まるで、システィーユが窓を開けないように仕組まれているような気もする。

システィーユは打ち付けられた板を、無理を承知でひっぱってみた。当然板はビクとも

しない。辺りを見回すと近くに椅子を見つけた。システィーユは椅子の側まで車椅子を

こぐと、それを持ち上げようとした。しかし重い椅子はシスティーユの力ではひきずるのが

やっとだった。次に目に入ったのがナイフだった。仕え人であり、良き親友のリリスが

リンゴを剥いてそのまま忘れていったようだ。

それを手に取るともう一度窓の側に寄り、ドアを思いっきり叩くように手を振りかぶった。

カツン

ナイフは思ったよりも板に刺さらず、軽い音を立てた。それでもナイフを抜き取ると、

小さな溝ができていた。システィーユはその溝めがけて何度もナイフを突き刺した。

気が遠くなるような作業だった。それでも不安を拭い去るには、あの窓を開けなければ

いけないような気がしてならなかった。

次第に息が荒くなってきて、ナイフを持つ手も震えてきた。それをもう片方の手でしっかりと支えると、溝に力一杯振りかざした。

すると今までとは違った太い木の枝が折れたような乾いた音が響いた。システィーユの

手からナイフが滑り落ちた。

右端の板が窓から外れている。力任せにシスティーユは引っ張ると、板は思ったよりも

簡単にちぎることができた。幸いにも板は窓ガラスぐらいの厚さにすぎなかった。

この調子でシスティーユはもう一枚の板も外すと、さっきよりも心なし増えた感じのする色とりどりの星と、暖かな光を放つ少し欠けている月が目の前に広がっていた。それを見てシスティーユは小さなためいきをこぼした。

ふと身につけていたブローチが、月の光を浴びて金色に輝いているように見えた。

月の形を象ったブローチ。幼い頃、父がシスティーユにくれた物だった。誕生日や

何かのお祝いの時にもいろんな物をもらってきた。その中でもこのブローチは特に気に入った物だった。システィーユはそのブローチを手に取ると、月にかざして見た。すると目の前を星が流れた。システィーユはポケットにブローチをしまいこむと、空の方を見ながら

拝むように手を組んだ。

しばらくして、また星が流れた。今度はすかさずに言った。

「翼をください」

ギュッと目を瞑って、しっかりと手を組んで。


「へぇ、翼が欲しいのか」

低い声がした。驚いてシスティーユが目を開けると、窓枠に男の子が座っていた。

男の子と言ってもシスティーユより1つか2つ年上のようだった。システィーユは

自分の願い事が聞かれたことに、顔が火照るように熱くなるのを感じて下に俯いた。

「その願い、叶えてやるよ」

「え?」

体が宙に浮きあがるのを感じて顔を上げると、少年の顔がすぐ近くにあった。

少年はシスティーユを抱きかかえたまま、窓から飛び降りた。

「キャアアアアアアッ!」

突然の出来事にシスティーユは目を瞑って少年にしがみついた。窓から飛び降りる

なんて予想もしていなかった彼女にとって、生きるも死ぬもとにかく少年に委ねるしか

ない。

「大丈夫だから、目開けてみな」

戸惑いながらもシスティーユはゆっくりと目を開けた。やわらかい風が頬を撫でた。

下には町の暖かなランプが揺れていた。少年はシスティーユを抱きかかえたまま、

屋根から屋根に飛び移っていた。初めは落ちるのではないか、と不安だったシスティーユも目に映る夜景と心地よい風にいつのまにか笑みがこぼれていた。

「まるで空を飛んでいる見たい」

町を優しく照らしている灯火に、どこかの家から聞こえてくる優しい音楽。窓から見える

世界が全てだった彼女にとって、初めてみる光景は新鮮なものの連続だった。

とその時、急に星空が目の前に広がった。そう思ったかと思うと、ドサドサッという音と共に、何も見えなくなった。

「す、滑った…」

情けない少年の声が下から聞こえてきた。システィーユは上にかぶさった物を手でどかして行くと、そこは積まれた空箱の山だった。


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