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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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ぼくらのマイルストーン(仮)

作者: 七篠じょん
掲載日:2026/11/06




この世界は、二つの世界がある

私たちが当たり前に暮らす表の世界

――電車が走り、学校があり、街があり、神社がある。誰もが当たり前に日々を過ごし、風景は穏やかに流れていく。

だがそのすぐ隣に、「鏡の層」と呼ばれるもう一つの世界が重なっている。

向こう側では立場も生き方も ――ありとあらゆるものが、表とは真逆になっている。




………




まだ背丈も小さかった、七つの夏。

じいちゃんの家の裏手、木々に囲まれた小さな広場。

そこだけぽっかりと、他とは違う柔らかな光が降り注いでいた。


「…… 誰かいるの?」


木の陰からそっと覗き込むと、一人の女の子がいた。

髪は桜の花びらのような色に輝き、風になびくたびきらきらと光る。

純白のワンピースの裾が、そよ風にそっとなびいている。

俺は恐る恐る近づいた。


「名前、なんていうの?」


その子は少しだけはにかんだようにうつむき、それからゆっくりと顔を上げた。


「…… レン」


声は小さいけれど、澄んでいて、とても優しかった。


「ふうん。俺はユキサダ。ま、どうでもいいけど」


俺はわざとそっけなく言った。だけど胸の奥がぽっと温かくなった。

それから毎日、俺たちはその広場で会った。


「ここはね、二つの世界が重なっている場所なんだって」


「へえ。不思議な話」


「私はどっちでもあって、どっちでもないの。いつも迷子みたいなの」


そう言って少し寂しそうに笑う。

俺は思わず手を握った。


言葉はぶっきらぼうだったけれど、手は離さなかった。

夏休みが終わる日、また会う約束した。


「またね」


「…… うん。絶対にまた来る」


それなのに次の年、広場はただの森に戻っていた。

俺は何度も探し、呼んだ。


そしていつしか――あれは夢だったんだ、と自分に言い聞かせるようになった。




………




新学期。


まだ体が慣れない、湿気が纏わりつくような暑さの朝。

俺は通学電車のホームに立っていた。


「おっす、ユキサダ。おはよう」


「ユッキーおはよう」


「おう、ノブ、ヒメカ。おはよう」




友達のノブとヒメカと合流

ノブとヒメカとは昔から腐れ縁だ



ふと、隣の列に目をやった瞬間――


視線が吸い込まれた。


同じ制服姿のクラスメイト、東(アズマ)がそこにいた。

今年同じクラスになったばかりで、話す機会なんてほとんどなかった。特に心に留めたこともなかった、そんな男だった。


それなのに――目が離せない。

俺の視線とアズマの視線が、まっすぐに重なった。


瞬間――時間が止まった。




周囲のざわめきが遠く消え、空気がきらきらと輝きだす。

そこには、あの日と同じ桜色の髪をした女性が立っていた。

つばの長い白い麦わら帽子に純白のワンピース。

風が髪をなびかせるたび、光が踊る。

あの夏の日と同じ、桜色の髪が輝いている。

誰が見たって美しい。


――心がひどく騒いだ。


「…… っ」


息が詰まる。

ありえない。夢のはずだ。

だけどその姿は、記憶とぴったり重なる。

その瞬間目をつぶった。


「ユッキー? どうしたの?」


声がした。ヒメカが声をかけてくれた。

隣の列を見ると、そこにはいつものアズマがいた。アズマは既に俺を見ていなかった。



「…… な、なんでもない」


「何だよ、朝から。寝ぼけてるのか?」


「うるさい」


俺は心の動揺を隠すように、わざとノブに冷たく言った。


「ほらユッキー、ノブ、もうすぐ電車が来るわよ」


「オッケー」


「あぁ、すぐ行く」


車内では少し離れた場所に立ち、窓の外を見ていた。

だけど頭の中はさっきの姿でいっぱいだ。


あれは一体誰だったんだ?



――見覚えがあった。あれは、あの夏の日に出会った少女の姿だった。






翌日から、俺はなぜかアズマのことが頭から離れなくなった。


勇気を出して声をかけてみた。


「マズマクーン。昨日の数学、できたの? 俺は一応全部できたけど」


「……急に何だ?新垣くん」


「いやー難しかったね、昨日の数学」


「…… ちょっと話しかけないでくれ」


「お、おう」


何だコイツ。


俺はムキなってそれから毎日アズマに話しかけるようになった。



そして一つの疑問を問いかけた。


「なあアズマ。俺達、昔あったことあるよな?」


「……会ったことなんてない」


「そんなことない。絶対あったはずなんだ」


「僕にそんな記憶はない」


「でも――」


「ごめん、失礼する」


なんでだ?

なんで、こいつはこんなに俺の話を聞いてくれないんだ?


――あぁ、最悪だ


それなのに、何故か一緒にいると居心地が良かった。







放課後、川沿いを歩いていると――


「ユーキーサーダー!何か最近アズマ君と仲良いねー!」


腐れ縁の友達二人が俺の元へやってきた。


男友達のノブがにっこり笑いながら腕を組んでくる。


「何がだよ」


「だってアズマ君とずっと一緒にいるじゃないの。最近付き合いないから、俺は寂しいよ」


「うるさい。ただ俺が話しかけてるだけだ」


「はいはい。そういうことにしておくわ」


ノブはからからと笑う。

隣にいる女友達のヒメカが、そっとうつむく。


「…… 本当に、ただそれだけなの?」


声は小さく、震えていた。


「ああ。それ以外何があるんだ」


俺は答えた。

ヒメカは笑顔を作る。


「そっか。それならいいけど……」


その笑顔が少し曇っているのに、俺は気づかないふりをした。


「ま、急がなくてもいいんじゃない?」


ノブが明るく言う。


「答えはそばにあるって。ね?」


「だから何の答えだよ」


俺はごまかすように歩き出す。

そうだ。急ぐことなんて何もない。

そう自分に言い聞かせながら、頭の中にはいつもあの姿が浮かんでくる。





それから毎日が落ち着かない。

教室の後ろの席にいるアズマの背中を、いつも目で追ってしまう。

学ランを着た男の姿。なのに――


「…… おかしいだろ」


独り言が漏れる。


「あの男は一体何なんだ?」





休み時間、意を決してアズマの席へ行く。


「アズマ」


「……何?」


「いや、別に。名前呼んだだけ」


俺はそう言って逃げるように立ち去る。バカだ。本当にバカだ。


「名前を読んだだけって…君は子供か」


「……そういえば、俺が思い出の人に似てるって、前に言ってたよな」


「…だからなんなのさ」


「でもその子、女の子だったんだよな」


「……え?」


「おかしいよな。」


「………」


「ただそれだけだ…すまん。」


俺が立ち去ろうとしたその時、


「新垣くん、待って」


「ん?」


「ごめん、やっぱり何でもない」


アズマがその場を立ち去ろうとした。


「おい、ちょっと待ってくれ!」


「…」


「アズマは、なにか知っているのか?」


「……別に。大したことを知ってるわけじゃない」


「それを言ってほしい」


真っ直ぐな瞳が俺を見つめる。


「……少しずつでいいなら、 話すから。……待ってて欲しい」


「…ああ。わかった」


アズマが微笑む。


それから数日。

会うたびに少しずつ話す言葉が増えていった。






だけどある日、ホームで二人きりになったとき――

朝靄の中で、アズマの髪がふわりと桜色に輝いた。


「…… え?」


気のせいか? それとも――

アズマがゆっくりとこちらを向く。


「……僕は」


その瞬間、電車がホームに入り、声がかき消された。

だけど俺は見た。

アズマの瞳に、涙が浮かんでいたのを。


――まだ確かめちゃいけない。

答えは、俺の記憶の中にあるかもしれない。





夏祭り。

神社の境内には屋台が並び、太鼓の音が響く。

射的で俺が百発百中すると、ノブとヒメカは大喜びでお菓子を受け取った。


「さすがユッキー! どうして全部当たるの?」


「まぐれだよ。ノブが外しまくってたのは何だったんだ」


「うるせえ! 銃が悪いんだよ!」


「はいはい。道具のせいにするなんてカッコ悪いな」


たこ焼きを食べ、かき氷を買おうと並んで

――リンゴ飴に手を伸ばした瞬間、人混みの向こうに桜色の髪が揺れた。


あの日、ホームで見た姿。

白い麦わら帽子と純白のワンピースを着ている彼女がいた。

風が裾をなびかせ、歩くたびにさらさらと髪が揺れる。

歩く姿は穏やかで ――俺は思わず後を追う。


「どうした、ユキサダ?」


ノブの声に、俺は足を止めた。


「俺、行かなきゃ」


振り返りもせず言う。

ヒメカが一歩前に出る音がする。


「どこいくの……?」


声は穏やかだった。

だけど俺が人混みの先を見つめたままなのを見て、彼女の肩が小さく揺れた。


「ユッキー、行ってみなよ」


彼女は俺の背中を軽く押す。指先は思ったよりも冷たかった。


「うん」


俺は頷き、人混みへ踏み出す。



ドーン――。



最初の花火が闇に咲く。

続いて次々と光が広がり、川面に映る輝きが揺れる。

その光が、柵の向こうの彼女をはっきりと照らし出した。



風になびく髪、少し目を細めて輝きを見つめる横顔――

一瞬、その姿が金色に輝き、まるで別人のように美しく見えた。


「どいてください――」


係員の声が響く。

サイレンが近づく。


振り返った隙に、人波に押され、俺は彼女から離れた場所にいた。


「あっ……」


再び人垣をかき分けて前に進もうとした。


だがさっきまでそこにいたはずの姿は、どこにも見つからなかった。

花火はまだ続いている。夜空は明るいのに、俺の視界はどんどん霞んでいった。


風が変わり、空気がきらめき始める。

鳥居の脇に、桜色の髪の姿が見えた。

息を切らしてたどり着いたその先で――


「…… 新垣くん」


はっと顔を上げる。

そこにいたのは、学ランを着たアズマだった。

髪は黒く、表情は沈んでいて、どこか苦しそうに見える。

さっきの桜色の姿とは、まるで別人のようで――

だけど瞳は、間違いなく同じだ。


「アズマ……」

「さっき…… お前を見た。桜色の髪の、あの姿のお前を」


アズマは唇をきつく噛み、うつむいた。


「見間違いだよ」


「見間違いなんかじゃない。俺はちゃんと見た。それに ――朝のホームでも、学校の帰り道でも」


言葉を続けようとした俺を遮るように、アズマは歩き出した。


「…… 来て。人が少ない場所へ」


神社の裏手へと続く石段を、黙って登っていく。

街の喧騒が遠くなり、木々のざわめきだけが周囲を包む。

頂上の広場に着くと、アズマは手すりにもたれ、夜景を眺めていた。

提灯の灯りが、まるで星のように散らばっている。


「僕は…… 逃げていたのかもしれない」


静かな声が夜に溶けるように響いた。


「いつか姿が見られる日が来ることを怖がっていた。知られたら、嫌われるって ――そう思っていた」


アズマがゆっくりと振り返る。

その瞬間、彼の輪郭がふわりとゆらめいた。


学ランが透けるように霞み、あの桜色の髪がそっと現れる。

純白のワンピースが闇の中で柔らかく輝く。

まるで二つの姿が重なり、溶け合うように――


俺の前で立ち止まる。

風がそっと髪をなびかせ、さっきまでの姿とは違う、柔らかな気配が辺りを包む。

その声は、いつもより少しだけ高く、温かく、それでいてどこかはかなげに響いた。


「…… ユキサダくん」


胸がいっぱいになって、言葉が出てこない。

ただ見つめ続ける俺に、アズマは少しだけはにかむように笑った。


「驚いたよね。こんな姿で…… ごめんね」


「どうして…… 姿が変わるんだ?」


やっとの思いで声が漏れる。

まだ目の前の光景が信じられない。

アズマは桜色の自分の髪にそっと手を添え、風に光るその色を見つめながら、ゆっくりと話し始めた。


「この世界は二つ重なっているの。この隙間が間の層。

 こっちの世界とあっちの世界。そして中間の世界。

 それが私の居る場所――

 2つの世界はそれぞえ性別も姿も全部逆。

 人が多くてエネルギーが集まる場所では境界が薄くなって、もう一つの世界の姿が出てきちゃうんだ。」


「鏡の層……」


俺はその言葉を繰り返す。

二つの世界が重なっているなんて、すぐには信じられない。


だけど ――あの日の記憶が次々と浮かんでくる。



「今は境界が開いているから、この姿でいられる。だけど最近は人が多くなって、境界が不安定になっている……」


アズマの桜色の長い髪が風で揺れている。


「じゃあ…… 学校で会う時は、どうして男の姿なんだ?」


俺が訊くと、アズマは小さく頷いた。


「学校は私の世界と全く同じだから。元の世界の影響を受けないからこっちの姿、男の姿でいられる。どっちも本当の自分なんだけど。変な話だよね」


ふふっとアズマは笑った。少し自虐的な、寂しそうな笑みを浮かべた。

教室で教えてくれた時も、ずっと二つの自分の間で揺れていたんだな。


「俺が子供の頃、田舎の裏の広場で会ったのは……」


アズマの瞳がそっと潤む。


「うん。あの場所は特別。人が滅多に来ないから、二つの世界が深く重なっている。世界の、ちょっとした隙間みたいな場所。

 あの場所にある鏡は特別なんだ。

 だからあの時、会えたんだ。ユキサダくんだけが……」




全部、全部つながった。

ホームの朝も、教室の休み時間も、川辺の会話も

――どれ一つ欠けてもいけない、俺たちの時間だった。



アズマが俺の目をまっすぐに見つめる。


「どちらの姿であっても、私は私なんだ。どっちかが偽物なんかじゃない。自分でも時々わからなくなる――」


少しだけ自分を抱きしめるような仕草をする。



俺は一歩前に進む。もう迷わない。



「……どっちの姿でもいい。

 俺がホームで見つけた人。

 教室で隣にいた人。

 川辺で一緒に歩いた人。

 桜色の髪で笑う人、学ランを着てる君も。――全部。


 俺が会いたかったのは、他の誰でもない。アズマ…君なんだ」


少しの静寂が辺りを包む。


「――ユキサダくん、お願いがあるの」


「なんだ」


「私のこと……レンって呼んでほしい」


「…… わかった。……レン」


俺はめちゃくちゃ照れくさかった。

レンの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。


だけどその顔は ――満面の笑顔だった。





「私を見つけてくれてありがとう。」



友人に相談しながら書いて少しずつ自信がつきました。

まだまだ改善の余地があると思うのでいつか続きまたは、内容を変更して書いてみたいです

読んでくださりありがとうございました。


また機会があったらよろしくお願いします。

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