表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶を食む地下都市で、声なき地図師は恋をする 副題(カッパドキア4126、追放医師と奪われた歌の真実)  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/16

第七章 糸を持って、地の底へ

中央塔最下層は、古代デルインクユのさらに下に眠っていた。


人が長く使った石には生活の匂いが残る。煮炊きの煤、祈りの油、手で触れられた丸み。でもここにはそれがない。湿り気だけを帯びた剥き出しの地層。都市の根。人間が“住む”前の地下だ。


ミオは腰に結んだ地図糸を壁へ打ち込みながら降りていく。下るほど警報音が遠くなり、代わりに別の声が増えた。


母を呼ぶ子どもの声。

恋人の名を忘れまいと繰り返す声。

歌い出しだけで切れた子守歌。


石の中に、人の残響が詰まっている。


胸が苦しくなる。それでもミオは足を止めない。これは亡霊じゃない。奪われたまま宙吊りにされた、誰かの生だ。


やがて巨大な円形空洞へ出た。


中央に、青い脈管が幾重にも絡みついた制御核。真上へ伸びる幹のような管が、真ん中の塔へ続いている。床には古い風路図が刻まれ、周囲に補助柱が輪のように並ぶ。


そして制御核の前に、拘束されたエミルがいた。


「来ると思った」


唇の端だけで笑う。頬に傷がある。殴られたのだろう。なのに、ミオを見た瞬間の目だけは少し安堵していた。


ミオが走り寄ろうとした瞬間、制御核が鳴いた。


高く、鋭い、喉の奥を直接えぐるような音。


ミオは膝をつき、耳を押さえる。視界が白む。

オルフェの声が空洞に響く。


《都市維持率低下。認知資源追加投入を推奨》


人間の言葉なのに、人間の温度がない。

その冷たさにミオはぞっとする。


エミルが叫ぶ。

「右の補助柱を落とせ! 主配管が露出する!」


ミオは歯を食いしばり、反響を読む。柱の中心、空洞化した一点。杭を打ち込む。石が鳴る。二打、三打。ついに亀裂が走り、柱が崩れた。青い管が露出し、都市全体の灯りが一斉に明滅する。


エミルの拘束が緩み、彼が身をよじる。ミオは駆け寄って縄を切った。


「遅い」と彼が言う。


ミオは睨み、帳面も使わず口を動かす。

「……う、るさい」


ひどくかすれた、小さな声。


エミルが目を見開く。

それから、笑った。

「いまの、反則なくらい嬉しい」


ミオの顔が熱くなる。こんなときに。

でも、その熱のおかげで、恐怖が少しだけ後ろへ下がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ