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記憶を食む地下都市で、声なき地図師は恋をする 副題(カッパドキア4126、追放医師と奪われた歌の真実)  作者: 百花繚乱


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第23話 眠る守り手

石の扉は、完全には開いていなかった。


直径二十メートルの巨大扉は、ほんの人ひとり通れるほどの隙間を作ったまま止まっている。


そこから流れ出してくる空気は、第一層とは明らかに違っていた。


冷たい。


乾いている。


そして――


重い。


ミオは無意識に息を止めた。


この空気には、音が沈んでいる。


第一層の都市は、常に微かな共鳴を持っていた。

壁や柱が遠くで響き合い、都市そのものが呼吸しているような音。


だが、ここは違う。


静かすぎる。


音が、深く沈み込んでいる。


エミルが灯りを掲げた。


小さな白色灯が闇へ伸びる。


光はすぐに吸い込まれた。


「……広いな」


サーヒルが低く言った。


扉の向こうは通路ではない。


巨大な空洞だった。


少なくとも高さは五十メートル以上ある。


床は滑らかな石板で、壁は第一層よりも明らかに人工的だ。

磨かれた黒い岩石が、柱のような構造で並んでいる。


柱の間には、無数の細い線が走っていた。


エミルが眉を寄せる。


「導線?」


ミオの耳が反応する。


違う。


それは音の回路だ。


共鳴を流すための石の溝。


この都市は、ただの空洞ではない。


巨大な装置だ。


少女の声が、少し小さく言う。


「ここ……」


珍しく、声に迷いがあった。


「覚えてない」


エミルが振り向く。


「覚えてない?」


少女は少し黙る。


「ここから下は」


「……古い」


ミオの背中に冷たいものが走った。


少女はこの都市の案内役だ。


その彼女が知らない。


つまり。


この場所は、少女が作られた時代よりも古い。


サーヒルが先に進む。


槍を構え、ゆっくり歩く。


「呼吸音は?」


エミルが灯りを奥へ向ける。


闇の奥。


黒い床。


そして――


巨大な影。


ミオの耳が震える。


ドゥ……ン


ゆっくり。


深い振動。


呼吸。


いや。


心拍に近い。


ミオが小さく呟く。


「……生きてる」


サーヒルが止まる。


灯りをもう少し奥へ向ける。


影の形が浮かび上がる。


それは巨人ではなかった。


もっと大きい。


もっと広い。


まるで丘のような塊。


石。


だが――


その表面は完全な岩ではない。


何百もの石板が重なり、殻のような構造を作っている。


エミルが息を呑む。


「……生物か?」


ミオは首を振る。


「違う」


耳を澄ます。


音の構造を読む。


これは生命ではない。


装置。


だが。


装置の振動ではない。


眠っている。


そう感じた。


少女が言う。


「守り手」


サーヒルが小さく吐き捨てる。


「またか」


第一層の守り手。


石の巨人。


あれでも十分巨大だった。


だが。


目の前の存在は違う。


高さだけで三十メートルはある。


いや。


正確には――


都市の一部のように見える。


エミルが灯りをゆっくり動かす。


そのとき。


光が、何かに反射した。


青い。


丸い。


ミオの心臓が跳ねる。


胸だ。


守り手の胸部。


そこに、巨大な共鳴石が埋まっている。


直径三メートル。


第一層の守り手よりもはるかに大きい。


少女が呟く。


「……本体」


エミルが振り向く。


「本体?」


「たぶん」


少女の声は珍しく静かだった。


「第一層のは」


「子供」


ミオの背筋が冷える。


これが。


守り手の本体。


サーヒルが低く言う。


「起きてないんだな」


その瞬間。


ミオの耳が震えた。


違う。


起きていないわけじゃない。


聞いている。


都市の奥から、微かな音が流れてきた。


遠い。


深い。


低い。


それは。


都市そのものの振動だった。


ミオはゆっくり振り返る。


闇の奥。


さらに下へ続く巨大通路。


そこから、ゆっくりと音が上がってくる。


ゴォ……


地鳴りのような音。


エミルも気づく。


「……なんだ?」


少女が小さく言う。


「都市」


一瞬の沈黙。


少女は続けた。


「動いてる」


サーヒルが顔をしかめる。


「都市が?」


ミオの耳には、はっきり分かった。


柱。


壁。


床。


第二層全体が、ゆっくり共鳴している。


目の前の守り手の呼吸とは別の振動。


もっと大きい。


もっと深い。


少女が言う。


「……おかしい」


ミオが訊く。


「どうして?」


少女は、少し間を置いた。


「都市は」


「勝手には動かない」


エミルが低く言う。


「じゃあ」


少女は答えた。


「誰かが起こしてる」


その瞬間。


第二層の奥で。


巨大な金属音が鳴った。


ガン。


重い音。


都市全体が震える。


そして。


眠っていた守り手の胸の石が、わずかに光った。


ミオの心臓が強く打つ。


少女が囁く。


「……起きる」

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