第17話 石の巨人
石の腕が、階段の闇から現れた。
巨大だった。
岩の塊のような腕が、ゆっくりと石段を押し上げる。
ギギギ、と石が擦れる音。
ミオの呼吸が止まる。
やがて、その腕の先に、影が見えた。
石の巨人。
高さは十五メートル以上。
身体は岩の柱のような構造で、関節は巨大な球状の石で繋がっている。
頭部は、顔のような形をしていた。
だが目はない。
代わりに、胸の中央に円形の石が埋め込まれている。
その石が、低く震えていた。
ドン。
守り手が一歩、階段を上る。
その振動で、広間の柱が揺れた。
エミルが低く言う。
「……撤退だ」
ミオの足が動かない。
目が守り手から離れない。
あまりにも巨大だった。
都市の柱が動いているようだった。
少女が言う。
「初めて見た?」
ミオは小さく頷く。
「……うん」
少女は少しだけ誇らしそうだった。
「かっこいいでしょ」
エミルが思わず言う。
「全然かっこよくない」
ミオは小さく呟く。
「……怖い」
守り手がまた一歩動く。
ドン。
石段に亀裂が走る。
エミルがミオの腕を引く。
「行くぞ」
ミオは首を振る。
「……待って」
エミルが振り向く。
「何だ」
ミオは守り手の胸を見ていた。
円形の石。
振動。
その周期は――
都市の共鳴と同じだった。
ミオの目が細くなる。
「……同じ」
エミルが言う。
「何が?」
ミオは小さく言う。
「……都市」
少女が笑った。
「そう」
エミルが眉を寄せる。
「つまり?」
少女は軽く答えた。
「守り手は都市の一部」
ミオの胸がざわつく。
都市の一部。
つまり。
この巨人は――
装置。
エミルが低く言う。
「防衛機構」
少女は少し考えてから言った。
「免疫かな」
エミルが呟く。
「免疫?」
少女は続ける。
「都市の外から来たものを排除する」
ミオの喉が乾く。
つまり自分たちは――
異物。
守り手が腕を持ち上げる。
巨大な影が二人を覆う。
エミルが叫ぶ。
「下がれ!」
ミオの体が動かない。
そのとき。
ミオの喉から、また小さな音が漏れた。
「……あ」
その瞬間。
守り手の腕が止まった。
エミルが目を見開く。
「まただ」
ミオも驚いていた。
守り手の胸の石が、微かに揺れる。
共鳴が乱れた。
少女が言った。
「やっぱり効くね」
ミオの胸が早くなる。
「……どうして」
少女は簡単に言う。
「都市の声だから」
エミルが眉を寄せる。
「都市の声?」
少女は続ける。
「この都市、音で作られてる」
ミオは円盤の振動を思い出す。
共鳴。
音。
都市。
少女が言った。
「ミオの声」
「都市と同じ」
ミオの胸が強く打つ。
「……同じ」
エミルが静かに言う。
「だから守り手が止まるのか」
守り手の腕がゆっくり下がる。
しかし完全には止まっていない。
振動が少しずつ戻っている。
少女が言った。
「でも長くは止まらない」
ミオの顔が青くなる。
「……なんで」
少女は言った。
「都市がまだ完全に起きてないから」
エミルが言う。
「意味が分からない」
少女は少し考える。
「簡単に言うと」
「ミオは鍵だけど」
「まだドアは開いてない」
守り手の胸の石が再び強く震えた。
エミルが叫ぶ。
「もう一回声出せるか!」
ミオは息を吸う。
喉が痛む。
それでも――
「……あ」
守り手がまた止まる。
だが今度は、完全ではない。
ゆっくり動く。
ドン。
一歩。
ミオの顔が青くなる。
「……止まらない」
少女が言った。
「だって」
「守り手、一体じゃないから」
エミルが振り向く。
「何?」
そのとき。
ミオの耳に、新しい振動が届いた。
遠く。
下層。
巨大な足音。
ドン。
ドン。
もう一つ。
そしてもう一つ。
ミオの声が震える。
「……エミル」
エミルの顔が固まる。
ミオは階段の闇を見つめた。
「……もう一体」
少女が軽く言った。
「うん」
「守り手、もう一体いるよ」




