第15話 共鳴の扉
円盤は、まだ震えていた。
だが先ほどとは違う。
ミオの声に反応した瞬間から、
振動の周期がわずかに変わっている。
エミルは床に耳を当てていた。
「……変化してる」
ミオは不安そうに見下ろす。
「……わたし?」
エミルはゆっくり頷いた。
「可能性が高い」
少女の声が楽しそうに言った。
「やっぱり」
ミオの胸がざわつく。
「……なに」
少女は少し考えるように言った。
「地図師ってね」
「ただ地図描く人じゃないんだよ」
エミルが眉を寄せる。
「どういう意味だ」
少女は答えない。
代わりに訊いた。
「ミオ、もう一回声出せる?」
ミオの喉がきゅっと縮む。
まだ完全に戻っていない声。
無理に出せば痛む。
エミルが言う。
「無理するな」
ミオは少し考えた。
そして小さく頷く。
「……やる」
彼女は円盤に手を置いた。
冷たい石。
その奥に、巨大な振動。
ミオは息を吸う。
声を出すのは怖かった。
喉の奥にまだ残る痛み。
けれど――
もしこの都市が本当に音で動くなら。
「……あ」
かすかな声。
その瞬間。
ゴン
円盤が強く震えた。
広間の柱が低く鳴る。
エミルが顔を上げる。
「今のは……」
床の振動が広がる。
柱。
壁。
通路。
すべてが同じ音を返していた。
少女の声が弾む。
「やっぱり!」
ミオの目が見開く。
「……なに」
少女は嬉しそうだった。
「共鳴鍵」
エミルが低く呟く。
「鍵?」
少女は説明する。
「この都市はね」
「音のパターンで動く」
ミオの喉が震える。
エミルが言う。
「つまり……声紋認証か」
少女が笑う。
「近い」
「でももっと古い」
ミオは円盤を見つめる。
振動はまだ続いている。
まるで都市が目覚め始めたみたいだった。
そのとき。
ゴゴゴ……
低い音が広間に広がった。
エミルが周囲を見る。
「何だ?」
ミオの耳が反応する。
床。
中央。
円盤の下。
振動が強くなる。
そして。
広間の中央の床が、
ゆっくりと割れた。
石の円盤が回転しながら下がる。
その下から現れたのは――
巨大な螺旋階段。
ミオの呼吸が止まる。
階段は、深い闇へ続いていた。
どこまでも。
エミルが呟く。
「隠し通路か」
少女が言う。
「本当の入口」
ミオの胸が強く打つ。
「……下」
エミルが頷く。
「行くか?」
ミオは階段の闇を見る。
耳を澄ます。
音がある。
遠い振動。
大きな空間。
そして。
都市。
ここよりさらに巨大な空間。
ミオの手が震える。
「……都市」
エミルが苦笑する。
「やっぱりか」
少女が言った。
「ここは第一層」
ミオの心臓が早くなる。
「……第一」
少女は続けた。
「下に都市がある」
「もっと大きいの」
エミルが呟く。
「信じられない」
ミオは小さく言う。
「……行く」
エミルは少しだけ笑った。
「止めても行くだろ」
ミオは頷く。
二人は階段へ近づく。
そのとき。
ミオの耳が、
何かを捉えた。
振動。
遠い。
だが強い。
ミオの顔が青くなる。
「……エミル」
「どうした」
ミオは闇の下を見た。
「……音」
エミルが耳を澄ます。
だが聞こえない。
ミオだけが感じていた。
巨大な振動。
都市全体を揺らすような。
「……動いてる」
少女が小さく言った。
「あ」
エミルが振り向く。
「何だ?」
少女は少し困った声で言う。
「起きちゃった」
ミオの背中に冷たいものが走る。
「……なにが」
少女は答えた。
少しだけ楽しそうに。
少しだけ不安そうに。
「都市の守り手」




