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友好と衝突

作者: ウォーカー
掲載日:2026/02/22

 「ザザッ・・・聞こえますか?どうぞ。」

「カナオーストパニッシューベン・・・」

宇宙へ向けての交信。

人類が地球外生命体と初めて意思疎通をした瞬間だった。


 地球上で、宇宙からの電波を解析している研究者たちが、

ある日、規則性のある電波が伝わってきていることに気が付いた。

その電波は最初は微弱だったが、徐々に大きくなっていった。

もしやこれは地球外生命体からの通信では。

この予測は大々的に発表され、

世間では地球外生命体の存在が現実味を帯びたと大騒ぎになった。

地球外生命体とはどんな人たちなのだろう。

昔の小説のように、銀色の皮膚をしているのだろうか。

もしや、地球人を食べにやってくるのでは。

様々な予想で世間は地球外生命体の話題でもちきりとなった。

そしてしばらくして、宇宙からの電波が観測可能になった時、

初めて、地球と地球外生命体との交信が行われた。

もちろん、言葉は通じないので、

地球外生命体が何を言っているのかはわからない。

しかし、確かに何らかの言語として聞こえてきたのは画期的だった。


 それから地球と地球外生命体との交信は、数年間続いた。

お互いに相手の言語を少しずつ理解し、

今では外国人と話をする程度にまで意思疎通ができるようになった。

地球外知的生命体の話から、以下のようなことが分かった。

地球外知的生命体の暮らす惑星は、タムリンと呼ばれている。

惑星タムリンは地球とほぼ同じ大きさで、似たような環境のようだ。

そこに暮らす人々も人間と似たりよったりの脳と体、

ついでに人口も地球と同じ程度。

この広い宇宙で安定的に知的生命体が存在するには、

惑星もその環境も似たりよったりになるのだろうと、

科学者たちは推測した。


 地球と地球外生命体との交信は、最初こそ、友好的に行われた。

しかしその雲行きが怪しくなってきたのは、

交信開始からさらに数年も過ぎた頃。

お互いの科学者の予想によると、地球とタムリンは、

少しずつ接近している。

そして、やがて地球とタムリンは衝突する。

そんな予測が立てられた時、地球とタムリンの人々はまた大騒ぎとなった。

惑星衝突など起これば、恐竜が絶滅した大絶滅のような大災害を引き起こす。

惑星衝突で舞い上がった塵は日光を遮断し、隕石の冬が来る。

惑星衝突による地震と津波で、多くの犠牲者が出るだろう。

地球とタムリンは、遠くの友人から、迫りくる脅威へと変貌を遂げた。


 このままでは地球と惑星タムリンは衝突する。

惑星衝突による惨事を回避すべく、話し合いが行われた。

まず考えられたのは、小さい方の惑星を破壊してしまうこと。

しかしこの案には地球とタムリンの双方の人々から猛反対を受けた。

地球もタムリンも、惑星の大きさどころか人口すらほぼ同じ。

そんな似たりよったりの惑星の片方を破壊するなど不公平だと言われた。

惑星タムリンが地球に飛んできているのだから、

惑星タムリンを破壊すべきという意見もあった。

しかしそれは相対性理論により否定された。

タムリンが地球に向かっているのか、地球がタムリンに向かっているのか、

それは観測者の条件次第で変わってくる。

この宇宙に静止しているものなどないのだから。

地球側では一部の過激な人々が、

核融合爆弾を積んだロケットを発射しようと言い出した。

しかしそんな事をすれば迎撃され、逆に反撃を受けるだろうと却下された。

では惑星タムリンにスパイを送り自爆させるのはどうか。

その案は、人が惑星タムリンに行き来できるほど接近している時点で、

もう破壊しても手遅れであることが科学者たちから示された。

惑星の破壊は早く行われなければ、破片になった惑星が降り注ぐことになる。

その影響を避けて惑星タムリンを破壊する方法は見つからなかった。


 地球と惑星タムリンが衝突する時は、刻一刻と迫っている。

もう惑星タムリンは、天体望遠鏡を使えば、

地球上から見えるほど近くにきていた。

人々は迫りくる大災害に恐れおののき、悲観して暴動を起こす人々もいた。

それはタムリン側も同じで、科学者はいくら知恵を絞っても、

タムリンと地球が衝突することを回避する方法を思いつかず、

人々は地球と同じように慌てふためき争い合ったりした。

どうせもう死ぬのだからと、殺人まで犯すものもいた。

ゆっくりと迫りくる破滅は、死刑宣告にも等しい。

人々は冷静さを失い、破壊と殺戮の限りを尽くした。

そんな中でも、科学者たちは破滅を回避しようと、懸命に動いていた。

地球の片側に推進機を大量に取り付けて、

地球の自転公転をずらして惑星タムリンとの衝突を回避する案も示された。

それは同時に惑星タムリン側にも示され、

惑星タムリンでも同様の推進機を取り付けることで、

地球とタムリンの起動をずらして衝突を回避できないかと話し合いが持たれた。

だが実際にはこの方法を行うには、

必要な推進機の数が膨大すぎることがわかった。

いや、最初から分かりきっていたことだった。

惑星を意図的に動かすなど、人にできるはずがない。

そうしている間にも、もう地球と惑星タムリンは、

肉眼で見えるほどの距離に近付きつつあった。


 空を見上げれば、そこには大きな惑星が見える。

惑星はこちらに少しずつ近付いているように見える。

目に見える脅威に、人々の混乱はいよいよ限界を迎えつつあった。

地球側もタムリン側も、もう打つ手がない。

お互いに攻撃する準備は整っているが、そんなことをしても意味はない。

今更どちらかの惑星を破壊しても、衝突はまぬがれないから。

そうしてとうとう、地球と惑星タムリンは衝突する。

せめてもの対策として、地球とタムリンの衝突面は無人にしてあった。

そして衝突。地球とタムリン、二つの大きな惑星が衝突した。

激しい衝撃が地球とタムリンを襲った・・・りはしなかった。

衝突はゆっくりと、吸い付くようにして起こった。

もちろん、衝撃が無かったとは言えないが、

予想していた大地震や大津波などを起こすほどの衝撃ではなかった。

地球と惑星タムリンは、ぶにょんとくっつくように衝突した。

人の手の及ばぬところで、惑星衝突の惨事は回避されたのだった。

惑星衝突の災害が起こらなかった理由はいくつかある。

まず、地球と惑星タムリンとの相対速度が、思ったよりも小さかったこと。

ゆっくりと近付いてくる惑星は、見るものには恐怖を与えるが、

衝突した時の衝撃は小さくする効果があった。

そしてもう一つ。

惑星タムリンの地表は地球と変わらないが、一度ひとたび地面を掘ると、

タムリンの地下にはゴムやゼリー状の物質が大量に含まれていた。

それがクッションとなって、地球とタムリンの衝突の衝撃を緩和した。

こうして、人々を恐怖に陥れた地球とタムリンの衝突は、

終わってみれば非常に穏やかに行われたのだった。


 今、地球と惑星タムリンは、くっついて一つの惑星になった。

人々は互いに脅威と思っていた相手が脅威でないとわかり、

友好的に交流を始めた。

地球人はタムリン語を覚え、タムリン人は地球語を覚え、

お互いに笑顔で握手をするほど距離が縮まっていった。

しかしそれに不平を唱える者もいた。

地球と惑星タムリンの衝突面に住んでいた人たちである。

地球とタムリンはくっついて一つになったが、

接触面はお互いの地面に埋もれてしまった。

その大きさは、地球のアメリカ大陸を丸ごと飲み込んでも足りないほど。

そこに住んでいた人たちは、家も土地も財産も失ってしまった。

もちろん、避難するための住居は用意されたが、せいぜいが仮設住宅。

元の豊かな生活とは程遠い状況だった。

また、地球とタムリンがくっつた部分のどこを境界とするか、

そこでもやはり争いが起こっていた。

どこまでが地球で、どこからが惑星タムリンなのか。

また、地球とタムリンでは生活様式が異なり、

地球人のやることはタムリンでは失礼にあたり、

タムリン人のやることは地球人には失礼にあたることもあった。

こうして一つとなった地球とタムリンの人の心は離れていった。


 人々の心は国を動かし、国は惑星を動かす。

今や地球とタムリンでは、友好より衝突することの方が多かった。

惑星の衝突は人々の衝突を生み、惑星衝突に匹敵する災害になりつつあった。

領土問題、人々の摩擦。

このままでは地球とタムリンで開戦は避けられない。

初めての地球外生命体との接触は、惑星間戦争に向かいつつあった。

それを避けようと、科学者たちが立ち上がった。

科学者たちは政治家ではない。

話し合いで戦争を止めることはできない。

ただ科学の力で問題を解決するだけ。

解決案として、地球とタムリンの科学者たちは協力し、

地球と惑星タムリンをくっつけているゴムとゼリーの層を剥がすことにした。

そうしてしまえば、もう今までのように、

どこが境界かとか、地球人とタムリン人との紛争も失くなる。

しかし、地球とタムリンで交流はできなくなる。

地続きにならなければできないこともある。

しかし今回は、地球と惑星タムリンを分離し、

紛争を止めるほうが利益が大きいと考えたのだ。

実際にその事が発表されると、人々の反応もやはり好意的だった。

地球の人々もタムリンの人々も、自分たちと違う知的生命体との交流より、

それによる紛争の方にうんざりしていたのだった。

こうして地球と惑星タムリンの分離作業が開始されることになった。


 くっついた二つの惑星を分離する。

それは空前の規模の工事を必要とした。

それには税金が投入され、工事関係者の儲けになった。

それはまた、地球内とタムリン内での紛争の原因になるのだが、

少なくとも他人より身内同士の紛争のほうがましだと、

地球と惑星タムリンの分離工事は進められた。

工事には数年を要し、

やっとのことで地球と惑星タムリンは分離されたのだった。


 「みんな、今までありがとう!」「さようなら!」

そんな感謝の言葉が口から出たのは、

地球と惑星タムリンが分離された後のことだった。

そして人々は知った。

他者とお互いに仲良くするには、適切な距離が必要なのだと。

今までひとつだった地球と惑星タムリンが離れていく。

しかしこれで終わりではない。

惑星タムリンは太陽の重力に捕らわれ、太陽系の惑星の一つとなった。

通信なら頻繁に行えるし、物資の行き来も可能、

人を送ることも不可能ではないだろう。

ただし、地球と惑星タムリンが一緒だった頃とは違う。だがそれでいい。

地球とタムリンの人々は繰り返し思う。

お互いに仲良くするには、適切な距離が必要なのだと。

今、お互いに手を振っている。

手を振る動作は、さよならと、また会いましょうと、

正反対の意味を同じ動作の中に含んでいる。

この正反対の二つの意味が同じ動作で示される意味を、

地球人と惑星タムリン人は、噛み締めるように心に刻んでいた。



終わり。


 仲良きことは美しいこと。

とは言え、仲が良い相手にも礼儀は必要です。

人と人が仲良くするには、適切な距離が必要です。

それが元々遠い人同士であれば、尚更でしょう。


人と人を仲良くさせたがる者ほど、この距離を理解しなければなりません。

人と人の距離を無理に詰めさせてはならない。

そうでなければ逆に紛争を引き起こしてしまいます。

仲良くしたいからこそ、適切な距離が必要なのだと思います。


地球と惑星タムリンの人々は、惑星衝突を通じて、そのことを学習しました。

それはきっと無駄にはならないでしょう。


お読み頂きありがとうございました。


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