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未来のパイロット

降りられなさの合い言葉

作者: GoodGolems
掲載日:2025/12/27

――名のない出来事の記録――

Ⅰ

その日、何かが決まったらしい。

だが、誰が決めたのかは分からなかった。

決まったという言葉だけが、

会議室の空気に薄く漂っていた。

誰も異議を唱えなかった。

異議を唱えるほどの確信も、

異議を唱えないほどの納得も、

どちらもなかった。

ただ、

「決まった」という形式だけが先に歩き出した。

その場にいた人々は、

それぞれの胸の奥に、

言葉にならない小さなざらつきを持ち帰った。

問いは立たなかった。

問いを立てる場所が、

すでにどこにもなかった。

Ⅱ

翌日、

その決定は淡々と実行された。

誰も反対しなかった。

反対する理由がなかったのではなく、

反対するための言葉が見つからなかった。

「仕方がない」という言葉が、

便利な避難所のように使われた。

だが、

仕方がなかったのは決定ではなく、

言葉のほうだった。

Ⅲ

数週間後、

小さな問題が起きた。

問題と呼ぶには些細で、

問題と呼ばないには重すぎる出来事だった。

誰が悪いのかは分からなかった。

誰も悪くないようにも見えた。

ただ、

あの日の決定が、

静かに影を落としていることだけは

誰もが感じていた。

しかし、

その影に触れる言葉は、

どこにも見当たらなかった。

Ⅳ

ある人は、

自分がもっと強く言うべきだったのではないかと

夜中にふと思った。

別の人は、

自分が何も言わなかった理由を

思い出せずにいた。

また別の人は、

あの沈黙が正しかったのかどうかを

今も決められずにいた。

誰も間違っていなかった。

誰も正しくなかった。

ただ、

引き受けられなかった時間だけが

静かに積もっていった。

Ⅴ

季節が変わる頃、

その出来事はもう話題にされなくなった。

忘れられたのではない。

語られなかっただけだ。

語られなかったものは、

消えるのではなく、

形を変えて残る。

沈黙の中で、

断絶のようなものが生まれた。

それは争いではなく、

誤解でもなく、

ただ、

戻る理由が見つからなくなったというだけの

静かな断絶だった。

Ⅵ

そして今も、

その出来事は終わっていない。

終わったことにされただけで、

終わってはいない。

誰も責められない。

誰も免れない。

残響のように、

その日の沈黙が

時折、胸の奥で揺れる。

それが、

この物語のすべてである。

結末はない。

結末がないことだけが、

唯一の結末である。

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