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未来のパイロット

降りられなさの合い言葉

作者: GoodGolems

――名のない出来事の記録――

その日、何かが決まったらしい。

だが、誰が決めたのかは分からなかった。

決まったという言葉だけが、

会議室の空気に薄く漂っていた。

誰も異議を唱えなかった。

異議を唱えるほどの確信も、

異議を唱えないほどの納得も、

どちらもなかった。

ただ、

「決まった」という形式だけが先に歩き出した。

その場にいた人々は、

それぞれの胸の奥に、

言葉にならない小さなざらつきを持ち帰った。

問いは立たなかった。

問いを立てる場所が、

すでにどこにもなかった。

翌日、

その決定は淡々と実行された。

誰も反対しなかった。

反対する理由がなかったのではなく、

反対するための言葉が見つからなかった。

「仕方がない」という言葉が、

便利な避難所のように使われた。

だが、

仕方がなかったのは決定ではなく、

言葉のほうだった。

数週間後、

小さな問題が起きた。

問題と呼ぶには些細で、

問題と呼ばないには重すぎる出来事だった。

誰が悪いのかは分からなかった。

誰も悪くないようにも見えた。

ただ、

あの日の決定が、

静かに影を落としていることだけは

誰もが感じていた。

しかし、

その影に触れる言葉は、

どこにも見当たらなかった。

ある人は、

自分がもっと強く言うべきだったのではないかと

夜中にふと思った。

別の人は、

自分が何も言わなかった理由を

思い出せずにいた。

また別の人は、

あの沈黙が正しかったのかどうかを

今も決められずにいた。

誰も間違っていなかった。

誰も正しくなかった。

ただ、

引き受けられなかった時間だけが

静かに積もっていった。

季節が変わる頃、

その出来事はもう話題にされなくなった。

忘れられたのではない。

語られなかっただけだ。

語られなかったものは、

消えるのではなく、

形を変えて残る。

沈黙の中で、

断絶のようなものが生まれた。

それは争いではなく、

誤解でもなく、

ただ、

戻る理由が見つからなくなったというだけの

静かな断絶だった。

そして今も、

その出来事は終わっていない。

終わったことにされただけで、

終わってはいない。

誰も責められない。

誰も免れない。

残響のように、

その日の沈黙が

時折、胸の奥で揺れる。

それが、

この物語のすべてである。

結末はない。

結末がないことだけが、

唯一の結末である。

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