12月9日12時16分
「私さ、自殺しようとしている場面を見たことがあるんだよね」
僕が何か言う前に君は口を開く。学校の屋上のフェンスにもたれて座っている君は、遥か昔を思い出すかのように、引き出しをゆっくりと開けるように話し始めた。
「もともと病んでる人で常に希死念慮を抱いていたな。ある日その人に呼び出されたんだけど、行ってみてびっくり、屋上から飛び降りようとしてた」
僕は何も言わず、ただ次の言葉を待つ。風が2人の間を通り抜けていく。
「フェンスまで近づいたけど、結局怖くなったって泣いてた。遺書まで書いてたのに。遺書の中身は見損ねたけど、人の死に対する本能的恐怖で歪む顔は一生忘れられないね」
ははっ、と笑って今度は射抜くような目で僕を見る。
「それで君は何をしに私を呼んだんだい? まあ取り分け自殺しにここに呼んだんだろうけど」
何も言わずに目線を外す。このままだとさらに奥にある感情までも見抜かれそうだ。
「ああ、それとも私を殺しにきたとか? それはそれで嬉しいな。是非とも一度は殺される感情を味わいたいからね」
君はうっとりとした、恍惚とした表情をうかべる。もう、目の前にいるのがただの学生、それどころか人とは思えなくなっていた。本能が今すぐここから逃げたいと悲鳴をあげているが、感情をベールで覆い隠す。
「自殺、しに来た」
「おお! 是非目の前で飛んでくれないか。戻れなくなった時の表情をどうしても見てみたかったんだ」
「なんでそこまでして人が死ぬ瞬間が見たい」
一瞬固まった後、すぐに
「まあまあ、それはただの変人の趣味みたいな」
それを取り繕うように言葉を吐く。
「私のことはいいだろう。飛ぶのか飛ばないのか教えてくれよ」
なぜだかこの言葉で心のタガが外れた音がした。何も感じていなかったのに今はとても憎く感じる。
「あんたも一緒に飛ぶっていうなら、飛んでやるよ」
少し呆気に取られた顔をして、参ったと呟いた。少々の沈黙が流れ
「わかった、その感情を書き残せないのは少し口惜しいが一緒に飛ぼうじゃないか」
「あんたがそういうなら」
2人してフェンスに手をかけて越え、屋上の縁に降り立つ。
「いやあ絶景だね。最期の景色がこれになるのも悪くはないね。君もそう思うだろう?」
僕は無視して君の身体を何もない空間へ押し出した。え、と声を漏らして君は逆さまに落ちていく。でもすぐに
「最高の気分だ」
それだけ聞こえ、地面に衝突した音が届く。屋上からでも地が赤く染まっていくのが見える。人が出てくる前にここから撤収しよう。人を殺めた手を眺め、押し出した感覚を反芻しながら屋上を後にした。




