夢
7章 夢
夢を見た。一人で砂浜に立ち尽くしている夢。月明かりだけが海を照らしている。波の音だけが響く。
「そうか、アンタが"守護"ろうとしたのは───────」
うに夜叉は2019年3月でVTuberを引退している。VTuberを起用する会社の面接を担当していたらしく、新しく入ったVTuberが不祥事を起こしたようで、それに負い目を感じたのかもしれない。
それにしても綺麗な海だ。母なる海に還ろうか。俺は一歩ずつ踏み出していく。冷たさは感じない。
「お、ち」
声が聞こえた。
「に、ん」
うるさいな。
「おに、ゃ」
邪魔しないでくれ。
「お、にち」
何なんだこの声は。
「おに、ちゃん」
「お兄、ちゃん!」
お兄ちゃん?
そうか、俺はお兄ちゃんだ。忘れていた。
「俺は、美玖の、お兄ちゃんだ!」
その時、海が開いて道ができた。
俺は走る。現実に戻るために。
白い扉が見える。そこに飛び込んだ。視界が真っ白になる。真っ白な闇が全てを塗り替えても、俺は。
2019年6月3日月曜日
「ここは、どこだ?」
気づくと病院の病室に寝ていた。側にはツーサイドアップの少女とショートボブの中年の女性がいた。
「お兄ちゃん!」
少女が手を握った。
何秒かおいて俺は言った。
「お前、誰だ?」
2019年6月5日水曜日
俺は伊藤雅樹というらしい。四人家族で4月末から一ヶ月以上も意識不明だったようだ。後遺症で記憶を一時的に失っているとのこと。天使がニコニコ超会議に現れたのは大きなニュースになっていた。家族と接するうちに記憶が戻るのを待とうとのことで、すぐに退院になった。エンジェルハンターになる予定だということと稲垣米のマネージャーになったことは確かに覚えているが、家族の記憶だけがすっぽり抜け落ちている。学校もしばらくは行けそうにない。それでも天使討伐と米のリサーチはやめたくない。