嘘
16章 嘘
2019年7月7日日曜日
7AM
俺の部屋のドアが開いた。
「雅樹!」
そこに立っていたのは、俺の父親、伊藤明夫だった。
「父さん!無事だったの!」
「なんとかな」
「母さんと美玖は?無事なの?」
「ああ、今は会えない場所にいる。でもきっといつかは会えると思う」
「よかった、うっ」
泣きそうになるのをこらえる。
「マサキくん」
女性の声がした。顔を上げるとそこには赤髪で三つ編みの人が立っていた。
「マキマさん!」
「最初に出会ってから1年と1ヶ月。エンジェルハンターの試験、合格だよ、マサキくん」
「というかなんでマキマさんがここに?」
「実はね、今回の天魔択一事件、B国が絡んでいて私たちは調べていたんだ。B国は天使と裏で繋がってるらしいの。そこで人質としてマサキくんの家族に手伝ってもらったわけ」
「じゃあ、全部嘘だったってことですか?」
「拉致した人達がいるのは本当。これがエンジェルハンターの試験の一環ってことも本当。マサキくんがエンジェルハンターになったのも本当だよ」
「父さんはいつからマキマさんと知り合ったの?」
「お前が意識不明で入院してた時に見舞いに来たんだ。そこで雅樹がエンジェルハンターを目指しているって聞いてな、父さんも応援しようって思ったんだ」
「母さんと美玖には会えるんですか?」
「さっきお父さんが言ってたけど今は会えないんだ。理由とか状態も言えない。時間の問題だね」
「そうですか」
「じゃあマサキくん、これからは違う世界に来てもらうよ」
「違う世界?」
「そう、この世界にいる天使が元いた世界。神様と魔王様が争ってる世界だよ」
「この世界には戻ってこれるんですか」
「私とかが使える転移魔法で飛べば帰れるよ。あともう一つ、ドッペルゲンガーを作って意識を共有すれば両方の世界で生きられるけど、どうする?」
「俺は、この世界には未練はない、と言えば嘘になるけど、父さんは?」
「父さんたちのこととか学校のことは心配するな。行って来い」
「うん、わかった。俺はただの普通の高校生だろう、何にも関係ないんじゃないかな。でも、もしかしたら俺にも何かできることがあるんじゃないかと思って…」
黒い扉が現れた。
「マサキくん、行こう」
「はい!」
俺の第二の人生がここから始まる。期待と不安に胸を弾ませながら、雅樹は新しい一歩を踏み出すのであった。