家族
11章 家族
2019年7月2日火曜日
5AM
学校に行かなくなってからというもの、昼夜逆転してしまった。直していかないとな。30分くらい外出し、お菓子を買って帰ってきた。玄関のドアを開ける。鍵が開いている。締め忘れたか?疑問に思いながら家の中に入るとそこは大変なことになっていた。物が散乱している。両親の寝室に行くとベッドはもぬけの殻だった。
「父さん?母さん?美玖!」
美玖の部屋に行く。美玖はいない。
何が起きた?強盗か?どうする?こんな非常時なのに俺の口から出た言葉は
「親拉致られてたんか笑」
くそ、なんでこんなことしか言えないんだ。ここで俺は今までの生活を回想する。
「俺は機関に育てられていた…?何年前からだそれ、どうでもいいけど。お前らは宗教すら利用しようとしたが甘いな、俺はその全てを利用する!世界すらも!」
幼いころから俺の親は宗教団体、平和の証人に入っていた。月に一回、施設に預けられ、その日1日は水だけで生活した。そこの信者たちは、外部の世界との接触を極力避け、孤立した共同体を形成する。一部の信者に対して神秘的な力や特別な能力を与え、その特権を保持することで支配を維持していたという。
「ってことは認知症の件も錯覚ってことになるねぇ」
俺の祖母が認知症になっていた時があった。俺を亡くなったおじさんの名前で呼んだり親父を強盗だと勘違いしたり、挙げ句には母さんにナイフを向けたこともあった。
怪しかったのは毎日乳酸菌飲料が祖母の家に届いていた。その製造工場が平和の証人と繋がっていることもニュースになっていた。平和の証人は本拠地がB国にあるとも言っていた。俺の日常は奴らのせいで狂わされた。
「俺の人生なんてとっくに壊れてたよ」
「子供の頃から洗脳されていた…?」
「北海道ってR国領なんすかね」
R国はC国のさらに北に位置する巨大な国だ。ギャングが裏で暗躍していると聞く。
「で今度は沖縄も占領されてきてると。我々は何者も拒まないだから我々からなにも奪うな」
「俺はな、学校でスマホ禁止だったからずっと勉強を強いられ、家ではアニメを見させられたんだ…俺以外の家族が仲良さそうにしてたから、俺は特別な存在なんじゃないかって……まあ俺はまともなものを食べて普通にダラダラする普通の生活がしたかっただけなんだ…」
「そうだ、自分の道は自分で決めるんだ。僕が"証人の証人"ですよ」
6AM
その時家の電話が鳴った。知らない番号だ。電話に出た。
「もしもし」
「伊藤雅樹だな。お前の家族は預かった。我々の指示に従え」
男の加工した声だ。
「そうか、わかった。何をすればいい、金か?」
「パソコンでぽあろとホッケーの配信を開け」
「なんだと?」
「二度言わせるな」
電話が切れた。
椅子に座り、言われた通りに配信を開いた。ぽあろとホッケー、二人共ゲーム配信をしている。こんな時間だから視聴者は100人と少ない。
「おっ、来たかバイトリーダー、今日はよろしくな」
ホッケーがまるで俺に気づいたかのように言った。ゲームの内容と一致はしている。
これから俺はどうすればいいんだ。回想の続きでもするか。
「家庭科のテストで1番だったんだ、カップ麺生活だけど」
最近は部屋の外に出るのも億劫でカップ麺生活をしている。おそらくノイローゼか鬱病にでもなっていると思う。
ふとパソコンの画面を見ると、知らないウィンドウが現れている。真っ黒の背景に白い横線。突然聞き慣れた声がした。
「雅樹!雅樹!助けて!」
「母さん?今どこにいるの!」
「わからない、家で寝てたら突然この場所に飛ばされてたの!美玖とお父さんもいて、みんな縄で縛られて椅子に座ってるの」
「雅樹か!お前は大丈夫か!」
「父さん!俺は大丈夫だ!」
「お兄ちゃん!」
「美玖!」
俺はイヤホンをつけてぽあろとホッケーの配信を左と右に音声を振っている。家族の声は真ん中に聞こえ、声と一緒に白い横線が波打つ。
「伊藤雅樹。ゲームをしよう。お前には右か左か選んでもらう。賭けるのは家族、知人の命だ。選んだ方を殺す」
電話の声と同じだ。
「お前は、お前らは何がしたいんだ!俺を憎んでるなら俺を消せばいいだけの話だろ!」
「さあな、だがこれは全世界に中継されている。名付けて天魔択一だ。せいぜい足掻くんだな。楽しみにしているぞ」