第9話 そろばん頭のエメラルド
※エリアス侯爵視点
思い思いの数字を5人の幹部達が言っていくけれど、エメラルドは驚くべきことに即座に回答を導き出した。
「答えは358,472,048ですわね」
「せ、正解です。あり得ない。同じ人間とは思えません」
答え合わせをしていく5人は自分たちが言った数字なのに、かなりの時間をかけてやっと正解にたどりつき、首を傾げながらぼやいている。
「そろばん頭の私に勝負を挑もうなど100万年早いのですわ! さてお話を元に戻しましょうか。さきほどの帳簿の件ですが、不審な点がいくつもあります。あなた方は数字を誤魔化して、お金を懐に入れていましたね? 横領罪になります」
そろばん頭ってなんだ? エメラルドはたまに不思議な言葉を話す。だが、もう尋ねる気はしない。また、きっと朗らかに微笑みながら「旦那様はお気になさらず!」と言われるだけだ。
「横領なんてしていません。名誉毀損で訴えますぞ!!」
エリアス侯爵家の事業を任せている幹部らが、顔を真っ赤にさせて怒っている。エメラルドは、彼らの怒声などにはまるで動じていなかった。壁に掛かった時計の10時の知らせの方が大事なようだ。
「あら、10時ですわね! 料理長アーバンに頼んでおいたおやつが、ちょうどできあがる時間ですわね。うふふ」
「エメラルド奥様! プリンとかいうものをご指示通り作りましたよ」
ノックの音とともにヒョッコリと顔を覗かすアーバンは、すっかりエメラルドに手懐けられていた。
「ちょうど10時ぴったりね! 早速食堂に行きますわね。では、旦那様。この紙にお金の不審な流れを記録しておきましたから、お確かめください」
3枚にまとめた報告書を押しつけて、鼻歌を歌いながら去って行くエメラルド。それにはわかりやすく帳簿の不審点と、おかしな金の流れについての分析が、詳細に書かれていた。
「あ、幹部達のあなた方は帰ってはいけませんよ? まだ、お話は終わっていませんわ。ちょっと、休憩時間をあげますからね。お茶を飲んで、トイレに行きたい方は行っておきなさいね」
エメラルドはまるで幼い子供達に話しかける家庭教師のような口調でそう言うと、いそいそと食堂へと向かっていくのだった。
数多くの小説の中から拙作をお読みいただきありがとうございます。
少しでもおもしろかったよ、と思っていただけたら、是非ブクマや☆彡 ★彡☆彡 ★彡☆彡 ☆彡 で応援いただけると、執筆の励みになります。
※誤字報告をいただき、ありがとうございます。