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第21話 商会の経理担当者を教育するエメラルド / 酢豚を作る

 「バランスシート(貸借対照表)と損益計算書の作成の仕方を教えますからしっかり覚えてくださいね」




 私はエリアス侯爵家が手がけている事業の経理担当者達を新たに任命し教育をし始めていた。彼らを集めて定期的に講習会を開き、きっちりと帳簿を作成する術を教えていく。魔石を利用した自動計算機はアドリオン商会が開発した物で、それも経理担当者一人一人に配った。




 この世界は優しくて、使用人はよほどのことをしなければ解雇できない。横領などの犯罪は別にして、能力がどんなに低くても、一度雇った以上は最後まで面倒を見る風潮があった。それ自体は悪いことではないけれど、怠ける者が必ず出てくるのは考えものだわ。能力別にお給料に差をつけないことも問題だった。頑張っている者とそうでない者が、同じ報酬を受け取るのはおかしい。前世ではお給料を決めるのに査定というものがあったから、こちらの世界でも導入することにしようと思う。




「成果に見合ったお給料制は良いと思うよ。エメラルドは賢いことを思いつくのだね」


 旦那様は私に白い歯を見せた。まるで歯磨き粉の宣伝のように完璧で、清潔な美男子の笑顔。普通の令嬢ならきっと一瞬で恋に落ちる。でも私にはトラウマがあるからそれはない。




「ねぇ、エメラルド。ところで今日のお昼はなんだい?」


 最近はやけに甘えた口調で話しかけてくるのも困ってしまう。私はエリアス侯爵家を立て直したら、この屋敷を出ていきたいのだから。




「今日は酸っぱい物が食べたい気がしますわね。豚肉を揚げて野菜と一緒に甘酸っぱい味で絡めたものはいかがでしょう?」


 私がその言葉を口にした瞬間、厨房の方からこちらに駈けて来る料理長アーバンの姿が見えた。




「アーバン、ちょうどぴったりなタイミングで来てくれましたね?」


「それはですね。奥様が私を呼んだような気がしたからです」




「す、すごいわ! 今日は酸っぱいものが食べたいのよ。酢豚という料理を知っていますか?」


「酢豚は聞いたことはないですが、いつも通りに教えていただければ大丈夫です。それより、エメラルド奥様は懐妊なされたのでは? なんというおめでたい」


 酸っぱい物が食べたいという言葉に反応しての祝福の言葉だったが、私は朗らかに笑い飛ばした。




「残念ですがそのような日は永遠にきません。ねぇ、旦那様」


「あ。う、うん」




 途端に元気がなくなった声色に私は首を傾げる。私達の寝室は別だし、キスさえもしていない。手も握り合ったことすらないのに、子供ができるなんてあり得ないのだった。私達が仮面夫婦だということを知らないのは、料理長アーバンだけだった。それを知った時、彼はとてもがっかりしながら悲しい声でつぶやいた。




「もしも、エメラルド奥様が実家にお戻りになる時は、是非私もお連れください」と。もちろん私はしっかりと頷く。




 私とアーバンは酢豚を一緒に作り始めた。油で揚げる作業も手慣れたものだ。小麦粉をまぶしてあげた衣に、しっかりと染みた甘酸っぱい味は単純なようで複雑な味わい。砂糖を加えたケチャップの甘ったるさを、酢が良い塩梅に引き締める。ショウガの味もほのかにして、ピーマンのほろ苦さも肉と食べると良いアクセントになる。


 肉を噛みしめると衣に閉じ込められていた肉汁が溢れ、そこに甘さと適度な酸っぱさが混ざり合う。その完璧な連携プレーに誰もが喜びの涙を流すはずよ。




 あぁ、酢豚さん! シェイシェイ(謝謝)

数多くの小説の中から拙作をお読みいただきありがとうございます。

少しでもおもしろかったよ、と思っていただけたら、是非ブクマや☆彡 ★彡☆彡 ★彡☆彡 ☆彡 で応援いただけると、執筆の励みになります。

※誤字報告をいただき、ありがとうございます。

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[一言] 折角醤油が出来たのに肉に下味つけないの…(´・ω・`)
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