第18話 唐揚げを作る / 醤油職人の誕生
ガーリックとジンジャーは、おろし金で慎重にすりペースト状にする。ボウルに鶏肉とそれを入れ、よく混ぜ合わせて均一に味がしみこみようにした。小麦粉をまぶし、たっぷりの油で食材を揚げることに慣れてきた料理長アーバンは、手際よく唐揚げも揚げてくれた。
この世界は曖昧で微妙な食材のラインナップなので、正直戸惑うこともある。日本に存在していた食材や調味料の大抵があるのだから、とりあえず醤油も味噌もありにしておけばいいのに、ゲームクリエイターは変なところに拘りがあったようだ。
「美味しいですね。これが油に放り込んで、できた料理だなんて信じられません。全く脂っこくないし、肉の本来の美味しさがひきだされています。この前のトンカツもこの唐揚げも驚きの美味しさです」
料理長アーバンは驚嘆の声をあげる。もちろん旦那様も大絶賛だ。
「このサクサクした衣の中には、ふんわりとした肉の旨味が凝縮されているね」
旦那様はとても的確な感想をおっしゃった。
「そうなのです。一口かじると、そこからじわりと広がる肉汁が舌を包み込み、口のなかで調和のとれた旨さを奏でるのですわ。このジューシーな肉の食感は思わず目を閉じて、その美味しさに酔いしれてしまうほどでしょう?」
「エメラルドの言う通りだよ。思わず目を閉じて味わう旨さだ」
なんて気が合うのかしら? 旦那様も私の「食という戦いにおける戦友」になれそう。
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この異世界は、大抵なんにでも複雑な味わいの、こってりソースをかける世界だ。オーブンで焼いた鶏肉の上にもデミグラスソースのような濃厚なソースをかけたり、塩辛いトマトソースをたっぷりかけるのが常識なのよ。もちろんこってりしたソースにまみれたお肉も美味しいけれど、シンプルな塩で味付けした焼き鳥なんて最高なのよね。醤油の甘辛いタレをつけた焼き鳥も格別だし。そう思ったら本当に醤油は絶対必要だと思う。
あ、今回タヌキとキツネの家しか行っていないけれど、他の三人の家にも、日を改めてきっちり訪問したわ。同行したタヌキは自分が全ての財産を処分されたので、仲間達のお宝にも敏感だった。自分だけが辛い思いをするのが嫌だったらしく、かなり厳しく幹部達の財産を確認していた。
「私がエメラルド奥様にされたように、全ての財産を没収するべく、記録しておきましたのでご安心ください!」
そう言いながら幹部達の所有財産の報告書を提出してくれた。
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醤油と味噌がいよいよ恋しい私。見た目は18歳でも中身は33歳の私は、ふと空を見上げて醤油や味噌が降ってこないかを確認する今日この頃。発酵食品を必要とするお年頃なのかもしれない。ゲームの世界なら、なにか醤油的なポーションとか、目の前にポッと出てくるものではないの? そのように期待したけれどそんな気配は全くない。
そこで、私は醤油開発研究所を新たに建設した。あの商会の5人を、私みずからプロの醤油職人に育成することを決意したのよ。幸い前世でのクライアントに醤油造りの老舗がいたので、見学は何度もさせてもらった。まずは材料の準備から始めようと思う。大豆と小麦粉は農夫から直接仕入れて、塩は塩田まで料理長アーバンと出向いて、見学がてら買いに行った。
醤油開発研究所に戻り、まずは大豆を洗浄し、しばらく水に浸す。大豆を蒸した後は、ペースト状になるまで醤油職人5人衆につぶさせた。そこに小麦粉を混ぜ合わせ、木樽に移し魔石を利用して温度調整をしていく。発酵を促し微生物の働きを活発にさせるのよ。
毎朝醤油職人達はラジオ体操をして、庭園の周りを軽く走る。それから、定期的に樽のなかの発酵度合いを確認するのが日課になった。
発酵と熟成は時間がかかるため、その間は庭園の掃除やら庭木の手入れなどをさせている。タヌキ達は私の指導の下、機嫌良く働いてくれていた。香りや味の変化で醤油が最適な状態になったことを確かめると、今度は大きなろ過器を使ってろ過し、塩をたして味の調整をしていくのよ。
その後、手作業で瓶に詰めると、やっと前世での醤油が楽しめる。ちなみに発酵には魔石を使ったので、前世では半年から1年かかる発酵・熟成期間もわずか3ヶ月ほどで完成したのだった。
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