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第10話 横領していた幹部達を脅すエメラルド

私は今、前世で大好きだったプリンを食べている。卵黄とミルクと砂糖だけで作ることができるけれど、プリンは最高に美味しい食べ物だと思う。プリンをスプーンですくい口に運ぶ。この固めのプリンの食感がとても好きだ。


 濃厚なまろやかさと甘さが舌の上でゆっくりと溶けていく。キャラメルソースの香りとちょっぴり苦みのある風味が、プリンにアクセントを加え絶妙な味わいだった。




「ご馳走様、アーバン! 最高のプリンでしたわ。お昼はトンカツが食べたいです。さくっとした食感とジューシーな肉汁のハーモニーがたまらないのよ」


「え? トンカツってなんですか?」


「幹部達をちゃちゃっと片づけてから説明に来ますね。とりあえず、厚めのヒレ肉を用意して、それに塩コショウしておいてくださる?」




 私は浮き浮きしながら会議室に戻る。アドリオン男爵家にいた頃は恋しいと思わなかった日本の食べ物が、エリアス侯爵家に嫁いだ今は無性に恋しい。前世での年齢が33歳で、この異世界では18年生きている。そろそろ、前世(日本)の味が恋しくなるお年頃かもしれない。私はそんなことを考えながら先ほどの会議室に戻った。




「お待たせしました。では会議を再開しましょうか? 旦那様、さきほどの報告書は確認できましたか? この件についてのお考えは?」


「もちろん、エメラルドの意見に大賛成だ。お金の流れも妙すぎる。『孤児院ひだまり』に大金が払われているのはなぜだ?」


「そっ、それは節税対策でして、以前にも一度ご説明したかと思います。それをすることによって、寄付金を経費に計上できます!」


 タヌキ顔中年男のジョーセフが、得意げに胸を張った。




「異議あり! 我が国の場合、王家にお支払いする税金についての節税対策を考える必要があるのは当然ですわ。孤児院に寄付をするのは良いですが、国から認可された孤児院でないと意味がありません」




「な、なにをおっしゃいます? ここは昔から認可されている団体で、王妃殿下が会長をなさっています!」




「はい、アウト! 貴男は詐欺罪5年と王族に関する偽りを述べた罪100年で、合計105年の牢屋暮らし確定です。あと、横領罪が10年追加ですから115年にのびるわね。『孤児院ひだまり』は認可されていません」




 私はそう言いながらもブレスレットにある小さなボタンを押す。すると鮮明に再生されたのが、さきほどのタヌキ顔ジョーセフの声だった。このブレスレットには録音機能をもつ魔石を埋め込んであるのよ。




「なっ、なんで録音してるんですかぁーー! 酷い雇用主だ。訴えてやる! そんなに部下が信じられないのですか?」




「会議での録音は常識ですわ。とても良い建設的な意見がでた場合に聞き逃さないようにとの配慮です。訴えてやる、ですって? 面白いわね? ジョーセフは一生牢屋に住みたいのね」




「『孤児院ひだまり』は認可団体として登録されているきちんとした施設です。こちらに認可団体全てが記された一覧表があります。オーガスタム侯爵閣下がご確認ください」


 ウィルはキツネにどこか似ている風貌だった。彼はカバンから大事そうにそれを取り出すと旦那様に渡した。




「『孤児院ひだまり』は、この一覧表の5行目にしっかりと記載されている。エメラルドの勘違いではないか?」


 




「そうですとも! 全くよく調べもせずに偉そうに! そもそも、女が口を出すようなことではないのです」


 タヌキ顔のジョーセフは、我が意を得たり、とばかりに得意げに笑った。




 アホだ・・・・・・アホすぎる・・・・・・




「旦那様に忠告いたします。横領の疑いのある部下が出してきた証拠を、調べもせずに鵜呑みにしてはいけません! そちらは偽物ですよ」




 私は自分の手帖に挟んである本物を広げて旦那様に見せてから、侍従を呼び治安守備隊に連絡するように言った。




「ジョーセフ達は法で裁かれたいようなので、治安守備隊に連絡してあげてちょうだい。ここにいる幹部達は、多分家族には死ぬまで会えないでしょうから、拘束される前に家族を呼んでも良いですよ」




 治安守備隊とはこのエリアス侯爵領で起きた犯罪を取り締まる組織で、そこで罪が公にされたら、お次は裁判で刑罰を決めるという流れになっている。治安守備隊に連れて行かれるだけでもこの領地では大きな噂となり、ゴシップ誌の餌食にもなる大変不名誉なことなのよ。




「もっ、申し訳ありませんでした」


 まずはキツネが謝った。とても反省するのが早い。




「すいません。許してください。お願いします」


 お次はタヌキ。少し不満そうではあるが、治安守備隊の名前をだされて、慌てて私に頭を下げた。




「ひぃーー。牢屋に入るのは嫌ですぅ」


 他の幹部達も口々に情けない言葉を叫び、膝から崩れ落ちて床に突っ伏して泣いている。




 泣くぐらいなら最初からやるな! おじさん達の涙ぐらいで、このような横領が帳消しになると思ったら大間違いなのよ。




「定期的に『孤児院ひだまり』に寄付したことにして、大金を5人で山分けしていたことを認めるのね? あなた達は一生ただ働きしなければいけない金額を懐に収めたのですよ?」


 私がその愚かな幹部達を叱った直後に、壁に掛かった時計が12時を知らせた。




 しまったわ。なんてこと! こんなおバカさん達を相手にしていたから、トンカツの作り方を料理長に教えてあげる時間がなくなった。せっかくのお昼の楽しみが台無しになってしまう。これは私にとってゆゆしき問題なのだった。

数多くの小説の中から拙作をお読みいただきありがとうございます。

少しでもおもしろかったよ、と思っていただけたら、是非ブクマや☆彡 ★彡☆彡 ★彡☆彡 ☆彡 で応援いただけると、執筆の励みになります。

よろしくお願いします。

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