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感情の色

感情の色〈柑子色〉

作者: 小池ともか

 こうじいろ/薄めの明るい黄赤

 ―――隣にいると輝いて。

 おはよう。

 かけられた声におはようと返す。

 駆け寄ってくるあの子。いつものように隣に並んで歩き出す。

 昨日あったこと。観たテレビ番組の話。登校中すれ違ったかわいい犬の話。

 そんななんてことない話だけど。

 あの子が少し話して黙るのは、私の返事を待ってくれてるから。

 すぐに返事ができない私の言葉を待ってくれてるから。

 私の隣で、ふんわり笑って。

 いつの間にか、自然にそんな風に。あの子は私を待ってくれるようになった。



 いつからか、皆の会話のテンポについていけなくなって。

 慌てて話すと上手に話すことができなくて、思っていることをわかってもらえなかったり誤解されたりしてきた。

 何度も何度もそんなことを繰り返して。何度も何度も落ちこんで。わかったことは、それなりに皆に合わせていれば、仲のいい子はできなくったってハブられはしないってこと。

 本音を理解なんてしてもらわなくっていい。

 にこにこ笑ってここにいればいい。

 毒にも薬にもならない、役に立たないけど害にもならない、そんな私でいればいい。

 そう思ってた。

 時々誰かに優しい言葉をかけられたって、ただそれだけのこと。期待なんてしない。

 それでいいと思っていたのに。



 あの子だけは、何か違ってた。

 気付いたら隣にいて。

 そのうち少しずつ、話すようになった。

 あの子はぽつりと何かを言っては黙り込んで。私が返すとまた暫くしてから話し出す。

 途切れ途切れの、途切れないやり取り。

 他の人から見たら会話にもなってないような、そんなやり取りだったけど。

 ただの相槌じゃなくて、あの子は私の応えを待ってくれてる。

 私の気持ちを待ってくれてる。

 それがとても嬉しかった。



 少しずつ、私も話せるようになってきて。

 少しずつ、会話も増えてきた。

 私の隣にいるあの子は全然急かすことなんかなく、いつも私の言葉を待ってくれる。

 言葉に迷う空白の時間も、優しく笑って待ってくれる。

 私といたって楽しいことなんかないと思うのに。それでも笑って隣にいてくれる。

 どうして隣にいてくれるの?

 どうしてそんなに気遣ってくれるの?

 どうしてそんなに、わかってくれるの?

 あの子には自分の気持ちを話せるようになってきたのに、いつも以上に言葉にならない。

 どうしてって。

 ずっと聞けずにいた。



 私の隣のあの子。

 こんな私に呆れもせずに、一緒にいてくれるあの子。

 このまま一緒にいてくれるの?

 いつまで一緒にいてくれるの?

 あの子がいくら待ってくれてても、いつまでも言葉にできない思い。

 期待するのは怖かった。

 私だけかもって不安になった。

 でも。あの子を信じたい気持ちの方が大きくなって。

 私の本音を伝えたくなって。

 一緒にいられて嬉しいって。

 やっとそれだけ言葉にできた。

 たどたどしい、ほんの少しだけ出すことのできた私の気持ち。

 あの子はいつも通り笑ったまま、同じだねって受け取ってくれた。



 あの子は今日も私の隣で、なんてことない顔をして。

 当たり前みたいに私に話しかけて。

 当たり前みたいに待ってくれて。

 当たり前みたいに私の話を聞いてくれる。

 ふたり並んで歩く道。

 前よりちょっと、途切れ途切れじゃなくなったやり取り。

 もちろん途切れる時もあるけど、優しく笑って待ってくれる。

 私の隣のあの子。

 どうして一緒にいてくれるのか、結局聞けなかったけど。

 もう、聞く必要なんてないのかも―――。


 読んでいただいてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ふふふ、でも。  そういった信頼を寄せることこそが、自分の都合のいいように押し付けているのではないかと、不安になるときもあるのです。  そこに達していないうちは、ネガティヴさが足りませんね…
[良い点] 柑子色。 まるで二人の関係のように、自然で優しい色ですね。 待っていてくれる、空白も苦にならない相手って、すごく居心地がいいんですよね。 合わせなきゃ、喋らなきゃを考えなくていい。互いが…
[良い点]  私とあの子は馬が合うというか、テンポが合うのでしょうね。お互いに、一緒が心地好いということがよく伝わってきます。  友だち関係って難しいですよね。  私のような経験は、皆、多かれ少なかれ…
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