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8、お礼を受け取る?(2)

 妖精の里へはフリッツ一人で向かった。

 マリアも救出の立役者であったが、セーラとは男爵邸で少し話したぐらいで面識があまりなかったからか、招待状はフリッツで来るようにとの文面だった。


 妖精の里にフリッツが到着すると、妖精たちはフリッツを歓迎した。

 それから、何人かの妖精がフリッツに謝罪してきたのだった。

「先日は失礼をいたしました。お許しください」

 フリッツに「出て行け」などと言った妖精たちのようだった。

「気にしていませんよ。人間たちに踏み荒らされて恐ろしい目にあった直後のことでしたし、人間の俺にああ言うのも当然です」

 フリッツがそう言うと、その妖精たちは感謝の言葉を述べた。

「寛大なお言葉感謝します」

「流石はセーラ姫様のお友達。立派なお方だ。人間だからと言って、あんなことを言った自分が恥ずかしい」

 などと妖精たちはフリッツを口々に持ち上げるのだった。

「そんな大げさですよ」とフリッツは困ったように笑って言った。


 妖精たちが歓迎してくれたり、謝ってきたりしたのは、恐らくヘレナが約束した通り里のみんなにフリッツのことを話してまわったのだろう。

 妖精たちの話を聞くとその通りだったようだが、ヘレナの働きはそれだけではなかったようだ。

 妖精の女王が、妖精の国という妖精たちの住む王国のようなところから駆けつけると、あまりの怒りに、連れてきた軍勢とともに、フリッツの住む街に攻め込もうとしていたらしい。それをヘレナが、ゾンダー男爵だけを相手にするよう説得していたという。

 そこにセーラが帰ってきて事態は収まったということだ。


 そもそもセーラは、妖精の国から、この妖精の里に遊びに来ていたのだという。

 前にも話した里の長がやってきて、

「女王様のお嬢様を危険な目にあわせて、私どもはどうしたらいいのか、おろおろするばかりでした。それを助けて頂いたご恩。決してこの里の者は忘れません」

「だから大げさですって」

 

「フリッツおかえり」とヘレナがフリッツのところにやってきた。

「やあ、ヘレナ。君の言っていた通り、みんな俺のことを歓迎してくれてる。約束通りになったね。頑張ってくれたんだな」

「へへへ」とヘレナは嬉しそうな顔をした。

「俺なんかのために、ありがとう」とフリッツが言うと、

「だからお礼を言うのはこっちだって」とヘレナが頬を膨らませて言う。「本当にセーラのことをありがとう」と今度はセーラがフリッツにお礼を言った。

「俺は何もしていないよ。モンスターに襲われそうになってピンチになったけど、全部セーラが倒してしまった」

「流石セーラ」とヘレナは嬉しそうに言った。

 その時もう一人の妖精がフリッツのところに飛んできた。

 その妖精は、「この人がセーラの友達?」とフリッツについて、ヘレナに聞いたのだった。

「そう。この人がフリッツ」とヘレナは妖精に言い、それからフリッツにその妖精を紹介した。

「この子はリリアナ」


「リリアナ。セーラの友達だね」とフリッツは言った。

「うん」とリリアナは元気一杯に頷いた。


 ヘレナは、妖精の里が襲われた時のリリアナについて教えてくれた。

「この子、妖精の里が人間に襲われた時、真っ先に飛びかかっていったんだけど返り討ちにされて、消耗したからしばらく休んでいたの。で、あとから何もできなかったて悔しがっていて。私がフリッツのことを話したら、リリアナも私と一緒に里を回ってくれた。みんながフリッツのことを快く迎えたのはリリアナのおかげでもあるの」

「そうなんだ。リリアナも。見ず知らずの俺のためにそこまでしてくれたんだ」

「当たり前だよ」とリリアナは言った。「セーラの友達だもん。歓迎しないなんておかしい」

 フリッツはそれを聞いて温かい気持ちになった。


 それからフリッツは、妖精の女王に閲見することになったのだった。


 女王は、顔立ちにセーラと似たところもあるように見えたが、セーラと違い子供っぽいところはなく、威厳に満ちていた。

「この度、娘の救出に尽力してくれた次第聞き及んでいます。妖精の女王として、母親として、大変感謝しています」と頭を下げて言ったのだった。

「いえいえ、そんな俺は大したことはしていません」

「さてこの度私の前に来てもらったのは、感謝を述べるためだけではありません。感謝の印として何か礼をしなければならないのです」

 また礼か、とフリッツは思った。もう礼をもらいすぎて、なんだか息苦しい気分になってきた。フリッツは慣れないことが続いて、うまく受け止められないでいた。


「礼なのですが、今回の働きを考えた場合、当然、加護の付与になるでしょう」と妖精の女王は言った。

「加護? ですか?」

「はい。妖精が与えることのできる加護にはいくつか種類があります」

 と言って、女王は説明をしてくれた。

「まずは『不老の加護』。これは加護を受けている間、年をとらなくなります。

 次に『無傷の加護』。この加護を受けると、決して傷を負わない体になります。

 あとは『裁きの加護』。これはあらゆる攻撃に魔を打ち払う『裁きの光』の力を与えます。それは悪しき存在ならば必ず一撃で葬る力です。

 今回の場合、候補はこの三つでしょう。あなたはどれか一つ、加護を受ける権利があります。何がいいでしょうか」

「えっと、どれもとんでもない力ですね」

「妖精の女王が与える加護となるとこれくらいの格になりますよ」と女王はほほ笑んでいった。

「でも俺は、セーラにもらった召喚石を使っただけなのに」とフリッツは戸惑った表情で言った。


「そもそも召喚石を妖精からもらっている事態がとんでもないことないことなのよ」とヘレナはフリッツに言った。

「そうなの?」

「そうよ。妖精の召喚石は、数万もの軍勢に匹敵する力と言われる代物。一国を滅ぼしたり、救ったりそういうスケールの出来事で使用されるものなのよ。それを妖精一人を救い出すために使うなんて。しかも喚び出したのは、当の救おうとしている相手だなんて」とヘレナはおもしろそうに笑った。

「そんなの知らなかったんだよ。だってセーラが困った時に使えって言ってたし」とフリッツは困惑した表情だ。

「ごめん、ちがうの。もちろんフリッツは正しい使い方をしたんだよ」とヘレナは言った。

「そうなの?」

 妖精の女王も頷いた。

「そうですね。セーラは、召喚石をあなたに信頼の証として渡したのです。それに対して、あなたがそれを使ったのはセーラを助けたいという思いから。それは、その渡した思いに応えるものです。私が自ら加護を与えようというのも、その姿勢を見たからというのもあるのです。それで、どうでしょうどの加護を受けるか決めましたか?」


 フリッツは妖精の女王の言葉に少し考えて、

「加護はいらないです」と言った。

 妖精の女王は、

「何ですって?」と驚いたように聞き返した。

「そんなすごいもの俺にはもったいない。俺はこれからもセーラと友達でいられればそれで十分です」

 フリッツがそう言うと、あたりがざわめいた。「それは流石に」と呟く声が聞こえる。

 妖精の女王は、

「なるほど。加護ではなく、それを望みますか。だがそれとなると簡単にいいとは言えません」

 フリッツはその時、既視感を感じた。公爵家でもまったく同じような展開を経験したばかりだ。マリアやセーラと単に、今までのまま友達でいたいと言っただけなのに、フリッツの望みはどんどん拡大解釈されていく。


 妖精の女王は、

「セーラの意志を確認しましょう」と言った。

 それに対して、セーラは、

「私は別にこいつならいいわ」と素っ気なく言った。

 妖精の女王はそれを聞くとほほ笑んだ。

「あら、セーラ。随分フリッツさんのことを気に入っているみたいですね。まあ、そこまで認めているのならいいでしょう」

 セーラはフリッツのことを気に入っている? フリッツにはそうはみえなかったが、セーラはあまり素直なタイプではないので、母親が言うのなら、実際はそうなのかもしれない。

「フリッツさん、あなたを我が娘セーラの守護の対象とすることを認めましょう」

「ええ、ありがとうございます」

 フリッツは「守護の対象」とまた新しい知らない言葉が出てきたが、もう聞く気も起きなかった。とりあえずわかったフリをしておこう。


 事態をわかっていないフリッツのためにヘレナが教えてくれたのだった。

 セーラは、フリッツの守護妖精という存在になったらしい。

 守護妖精は、対象を守護するためにいつでも自由に加護を与えたりできるのだという。

「いや俺は友達といったんだけどな」とフリッツがぼやくと、

「まあ同じようなものよ。ちょっとしたおまけがついているだけの」とヘレナは笑った。

「ちょっとしたね」とフリッツはその内容を考えたくない、というようにため息をついた。

 

 妖精の女王との閲見が終わると、セーラがフリッツに話しかけてきた。

「あんたもしかして私の加護が目当てであんなことを言ったの?」

「セーラの加護? セーラもそういうの何か持っているの?」

「やっぱり知らなかったのね。あたり前じゃない。妖精の女王の娘なんだもの。さきほどお母様が言っていたような加護はどれも私も与えられるわ」

「そうなんだ。それはすごいね」とフリッツは言った。

「もうちょっと感心したら? 別にいいわ。あんたなんかに加護を与えてやらないんだから」とセーラは不機嫌そうに言った。それから、

「でもまあ、もうちょっと強くなったり、すごーく困って私に必死でたのむのなら考えてやらないこともないけど」

 フリッツはそれを聞くと、

「わかった。いつか必要になったら必死でお願いするよ」


 

 そんなこんなで、フリッツにはいつも通りの日常が戻ってきていた。

 冒険者としての日々。ただし今ではマリアとセーラが一緒だ。それにリリアナとヘレナが遊びに来ることもある。

 フリッツは今まで一人だったから、こうして仲間とパーティを組んで冒険に出られるだけで楽しかった。


 セーラはフリッツに加護を与えないと言っていたが、冒険の途中でフリッツが怪我をしたと思ったのに、見てみると不思議と傷がなかったりすることがあった。それはその時だけセーラが加護をこっそりかけてくれたのだと思うのだけれど、セーラに聞いてもそれを認めようとしない。

 でもフリッツが、セーラが自分を守ろうとしてくれるのを確かに感じるのだった。

 

 フリッツが新たに手に入れたスキル「ティアA魔物誘引」によって今やティアAに属すると強力なモンスターが簡単に討伐できるようになっていた。罠でモンスターの動きを止めると、マリアが剣技で火力を出す。

 今まで一体のモンスターも倒せなかったのが嘘のように、ドラゴンやキングオーガという強力モンスターを倒せてしまうのだった。


 ある日、冒険からの帰り道、

「パーティっていいな」とフリッツは噛みしめるように言った。

「そうでしょ、感謝しなさい」とセーラが恩着せがましく言う。

「セーラは何もしていないでしょ」とマリアが言う。

「妖精はそこにいるだけで意味があるの。そんなこともわからないの?」とセーラと反論する。

 マリアとセーラはかなり仲良くなった。会話の内容は今みたいな、くだらない言い合いばかりだが。


「でもフリッツさんも言う通り、このパーティで冒険に出るのが楽しいのは事実ですわ」とマリアが言った。

「まあ私がいるから当然よね」とセーラも頷く。

 前までは誰も俺と組んでくれなかったんだよな、とフリッツは思ったのだった。声をかけても毎回断られて、馬鹿にされたりするのは辛かった。でも運良く初めて組めたパーティが、こんなに楽しいのだから、まあいいか、とフリッツは思ったのだった。


「今日も疲れました。帰ったら甘いものが食べたいですわね。私最近見かけた良さそうなカフェがあるのですが、フリッツさんよかったら行きません?」

「おお、いいですね」とフリッツは言った。

「ちょっと、私も行くからね。妖精も甘いもの好きなんだから」とセーラも言う。


 フリッツは、得ができそうな機会をみすみす逃してしまったり、得をしてもそれをを他人にあげてしまったりするので、人から「損ばかりしている」とよく言われる。だけれど、彼は自分が損をしていると思ったことはない。こうして仲間たちと楽しい日々を過ごせている。それで十分。フリッツは今の生活に満足しているのだ。

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