2、妖精セーラ
「今日も来てやったわよ。フリッツ」
フリッツが冒険に向かう度に、妖精のセーラがやってくるようになった。
こんな頻繁に会いに来るなんて肩透かしを食らったような気分だ、とフリッツは思った。まあいいのだけれど、自分であんなに妖精は貴重とか、珍しいとか言っておいて、こう度々顔を合わせていてはありがたみは全くない。
フリッツが、仕掛けた罠に貯まったアイテムを回収したり、受注したクエストに必要な薬草を集めている間も、セーラはいろいろ話しかけてくるのだった。
「ねえ、冒険者って普通、何人かで一緒になって行動するものじゃないの?」
「俺なんかと組んでくれる人はいないよ。レベル1の罠師なんて何の役にも立たないからね」
「えー可哀想wwww」とセーラはお腹を抱えて笑ったのだった。そして、
「じゃあさ、私がフリッツと組んであげようか」と言った。
フリッツはセーラの言葉に首をかしげ、
「セーラが? もしかしてモンスターを倒したりできるの?」と言った。
「うーん、そういうのはできなーい」とセーラはその場でくるくる回って言った。
「じゃあだめだ。俺と組んでもしょうがない」
「なんでよ。妖精って、すごいんだからね」とセーラは頬を膨らまして言った。
「はいはい」とフリッツは言う。
「モンスターを倒したりはできないけど……一緒にいるだけで与える加護とかいろいろあるんだけどな」とセーラはぼそっと呟いた。
「ん? なんか言った?」とフリッツが尋ねたが、
「何も言ってない」とセーラは大きな声で言った。
「さて、薬草も集めたし、今日の作業は終わったけど」とフリッツが言うと、
「ふーん。じゃあ私は帰ろうかな」とセーラは言いつつ、寂しそうな表情をするのだった。
「でも早く帰っても暇だし、少し話して行こうか。セーラがよければ」
「仕方がないわね。そんなに言うなら特別よ。妖精とお喋りできるなんてなかなかないんだから感謝しなさいよ」
口ではそう言いながら、セーラの表情はとても嬉しそうだった。
「今日は私の友達の話をしてあげる」
「友達って妖精?」
「そう。同じ妖精のリリアナとヘレナ。私と仲の良い友達なの」
「へえ」
「リリアナはおっちょこちょいで、私が見てないと危なっかしい真似ばかりする。本当に世話が焼ける子ね」
それを聞いてフリッツはくすっと笑ってしまった。
「何を笑ってるの?」とセーラは不満そうに言った。
「なんでもないよ」
「気になるわね。まあいいわ。えっと、もう一人のヘレナは大人しい子で、でも時々口にすることが面白いの」
そうして、セーラは三人で遊んだときのこと、いたずらをやり過ぎて大人たちに怒られたことなどを話した。フリッツはそれを面白そうに頷きながら聞いていたのだった。
「いつか君の友達と会ってみたいな」とフリッツは言うと、
「うん、今度連れて来るね」とセーラは嬉しそうに言ってから、それが普段のキャラと違って恥ずかしくなったのか、首を振って、「じゃなくて、あんたみたいなざこ冒険者を私の友達に会わせるわけないじゃん。セーラ、こんなくそざことお友達なの?wwww ってみんなからの私の評価が下がっちゃうよ」
「そうか、それは残念」とフリッツは少し低い声のトーンで答えた。
「まあ、フリッツがもうちょっと強くなったら考えないでもないけど」とセーラは空中であぐらを組んで座り、自分の膝に頬杖を突きながらいったのだった。
しかし、急に不安になったのか、セーラはフリッツの顔を覗き込んで、
「ねえ怒った?」
「え、なにが」
「ごめんなさい。別にあなたを傷つけるつもりはなかったんだけど。今度お友達連れて来てあげるから怒らないで」
「別に怒ってないよ」
「本当に怒ってない?」
「うん」
「なーんだ。私言い過ぎて怒らせたのかって勝手に思っちゃった」
「そうだ」とフリッツが何かを思い出したように、ポケットから何かを取り出した。
「これあげる」
フリッツが広げた手のひらには。ワインレッド色の小さな小石が乗っていた。この前、セーラがガラス瓶の中にあるのを欲しがったのとよく似た小石。今回のものはそれよりも少し大きかった。
「きらきらの小石だ」とセーラは目を輝かせて見つめた。そして、「これくれるの?」とセーラが聞くと、
「うん」とフリッツは頷いた。
「どうしたの? これ」
「今日、罠のガラス瓶のなかに入ってたんだ。この前欲しがってたから。これだけ別にしておいた」
「売ったら高そうだけど」
「大丈夫。これがなくても、最近は道具屋さんが良い値段が買い取ってくれるから、それ以外で十分間に合う。いろいろ話をしてくれるお礼だよ。前まで一人だった時とちがって、最近はセーラが来てくれて楽しいからさ」
「私が勝手に来て、一方的に話を聞いてもらってるような気がするけど」とセーラは小さな声で呟いた。
「いらないの? セーラならすぐに『仕方ないわね、もらってあげる』って言って受け取ると思ったんだけど」
「私を何だと思ってるの? でも仕方がないからもらっといてあげる」
それを聞いてフリッツはふふっと笑い、「どうぞ」と言った。
セーラは、その宝石を受け取ると、うっとりと眺めた。
そしてセーラは、フリッツに聞こえない小さな声で、
「ありがとう。大切にする」と呟いたのだった。
「気に入ってくれた?」とフリッツが尋ねると、
「まあまあね」とセーラはいつもの高慢な調子で言ったのだった。
「じゃあさ、お返しに私はこれをあげる」
とセーラはどこからか、青い卵形の石を取り出してフリッツに渡した。
その青い透明な石で、表面に白く何か文字が書いてあった。妖精語のようでフリッツにはなんと書いてあるかわからなかった。
「これは?」
「それは私を一回だけ呼びだせる召喚石」とセーラが答えた。そして、「これを通して出てきた私は最強なんだから」
「妖精を呼び出せる召喚石?」
「そう。もしすごーく困った時。たとえば何かに襲われて、命の危険を感じた時とか、そういう時に使って。すごく貴重なものだからあなたが本当に困ったときに使ってよ。いい?」
「でも、これこそとても貴重なものだよね。あげた宝石なんかと釣り合わないぐらい。こんなのもらえないよ」とフリッツがセーラに返そうとすると、
「いいから。もうあげたんだから。返さないで」とセーラはそれを押し返した。
フリッツはセーラに返せないことを理解してそれを受け取ることにした。
「ありがとう。大切に使うよ」
その時、「セーラ」と、か細い声が聞こえた。
フリッツとセーラが声の方を見ると、そこには一人の妖精が飛んでいた。その妖精は、服はぼろぼろ、ふらふらと飛んでいて、フリッツたちのところになんとかたどり着いたという感じだった。
セーラが「ヘレナ」とその名前を呼んだ。「一体どうしたの?」
ヘレナは、疲労困憊と言う感じで、今にも倒れそうな様子だったが、なんとか声を振り絞りだして話しはじめた。
「大変なの。妖精の里に、三、四人の人間が現れて、大騒ぎ。いくつも家はこわされるし、それに仲間が何人か捕まっちゃった」
「そんな」とそれを聞いたセーラの顔は真っ青になり、「私行かなきゃ」と呟いた。
「ごめん。フリッツ。その子のことを見ててくれる? 私急いで行かないと」
そう言うと、セーラは慌てた様子でどこかに飛んでいってしまった。




