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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雪降る日の想い深ける

作者: 雨月 宙

 『彼女と出会って、何年経っただろうか』


 ふと私は、窓から見える静かに降り続ける雪を見ながらそう思った。

 何故、そんなことを思ったのかといえば、私にも分からない。

 彼女は活発で、満面の笑みが誕生月の向日葵のように華やかで可愛いらしく、夏の眩しいが輝かしい日差しのようで、情熱的でもあり、夏、がよく似合うからだ。

 夏が近づくと彼女の季節だなと思うほど、彼女との思い出もまた、夏、であるのにだ。


 どこか憎めない悪戯好きの彼女が、ひょっこり現れたのは初夏。まだ春めいたぽかぽかとした気温で過ごしやすい季節。

 野うさぎが春の訪れにひょっこり巣から出てきて、自然の恵みに喜んで飛び跳ねるそんな様に現れた。


 『その時、なんて話をしただろうか?』


 出会いは衝撃的で、脳に焼き付いているのに何故か断片的にしか思い出せない。私より小さな彼女は私を見上げて、猫が興味あるものを探る好奇心旺盛な瞳を向ける様に、じーと見つめてきたのはよく覚えているのに。

 去り際、彼女の力強い視線が私の視線を捉えて、交差して、私の脳を焦がした。それくらいの衝撃だったのに。


 『まぁ、思い出せないなら、仕方ないか』


 そう思って、もう一度、向かう側の雪を眺めた。


 「あぁ......」


 急に、思い出した。

 彼女と次に会ったのが、冬。風花舞う、そんな時だった。空は綺麗な青が映える青空なのに、どこか肌寒いと思ったら、空から、桜が風に乗って舞う様に雪がちらついていた。

 彼女は寒いのが苦手で、全身もこもこの白いロングジャケットを着込んで、玄関先に佇んていた。私が、新聞を取り忘れて外へ出なかったら、ずっと寒空の下立っていたのだろうかと思うと、あの時忘れたのは運命的な何かの作用だったのかとも思える。

 野うさぎが寒さに凍えて丸まって震えている様な、そんな彼女を見た時は、何も言葉が出て来ず、ただただ愛おしくて、咄嗟に抱き寄せたのだ。


 その時も初めて会った時もそうだが、私は、無言だった。

 人付き合いが苦手で、口下手で。気になる彼女を視線だけでしか追うことが出来ず、声を掛けられなかったのだ。


 雪を見ると、一番にそのことを思い出す。胸が張り裂けそうで、心臓が異常なほどバクバクした。寒いはずなのに、頬は何故か熱く、きっと顔は赤かったのかとも思う。

 そういう気持ちになったのは、恥ずかしながら初めてで、戸惑いもあったが、


 彼女が

 好きで好きで

 今も昔も仕方ないのだ。


 という気持ちを今も抱いているわけで、そんな風に思ったのだろうと、私は思った。


 ただ、私と彼女はまだまだそんな長いこと語れるだけの物語を、二人では、綴っていない。だから、何年もない。

 まだまだこれから、沢山、彼女とは色んな出来事を共に過ごしていくのだ。


 そういえば、明日は、世の中では、


 バレンタインデー


 女性から意中の男性へチョコレートを贈るイベントだが、そもそも、世界的にはチョコレートを女性から男性へ贈るというイベントではなかったはずだったなと思う。

 男性からでも贈り物をするんだったと思ったが、そもそも私は男ではない。

 そこからして規格外であるが、折角だから何かサプライズ的に何か用意しようかと思ったのだ。


 私は、自宅のパソコンを開いて、ネットサーフィンをし出した。

 彼女へ贈るものを探す旅だ。


 探し続けてたどり着いた先は沢山の薔薇園。


 情熱的な真っ赤な薔薇

 可愛らしく愛らしいピンクな薔薇

 奇跡と言われた鮮やかに誇り高い青い薔薇


 がバランスよく花束となって形となった。


 『彼女は明日、喜んでくれるだろうか?』


 明日届くのを心待ちにして、私は、また、遠くの窓の外の雪を見た。


 『きっと大丈夫』


 彼女のあの時見せた、満面の美しくも可愛らしい笑みが浮かんだのだから。

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