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決意するわけで

 <8月24日 AM11:30>


「むぐぅぅ、いたひぃ~。はなしゅでしゅ」


 彩葉に頬を引っ張られる俺は、離してくれるよう懇願する。


「彩葉ちゃん離してあげて、心春ちゃん痛がってる」


「うっ、ごめん」


 楓凛さんの言葉に、我に返った彩葉が手を離して謝ってくる。


「いいでしゅ、わたちも言うちゅもりなかったでしゅから、悪かったでしゅ」


 頬を擦る俺は涙目である。


「でも心春さん、何故虎雄さんに体の不具合をお伝えできないのですか? 仮にも心春さんを作られた方です。相談すれば問題も解決しそうなものだと思いますけど」


 珠理亜が至極ごもっともな意見を述べる。


「そこは、深い事情があるんでしゅ。なんといいましゅか……その……こはりゅはその……トっ」


「ごめん心春!! 私が悪かった」


 歯切れの悪い俺の言葉に被せてくるのは、いままで一言も喋らなかった來実。ポカンとする俺に頭をさげる來実。


「私が余計なこと言ったせいで、心春を困らせてしまってホント悪い!

 心春にも言いたくないことだってあるよな」


 俺に頭を下げてた來実は、他の3人に向かっても頭を下げて謝る。


「私から話振って、勝手だが、これ以上は心春に追及するのは止めてもらえないか」


「いえ、わたくしも、心春さんの事情も考えずに言い過ぎましたわ。配慮に欠けていましたわ。申し訳ありません、心春さん」


 珠理亜に頭を下げられ、楓凛さんと彩葉も頭を下げ謝ってくる。

 ファミレスで幼女に頭を下げる4人の女子。


 目立つ! 実に目立つ! ちょっと周りの視線に焦る俺。


「しょもしょも、わたちが黙ってたのが悪かったのでしゅ。


 トリャには必ず話しましゅ。ただもうちょっと時間が欲しいんでしゅ」


 俺の言葉に頷く4人を見てホッとして、本当に心配してくれる気持ちが嬉しい反面、俺の体の状態を全て話してないことに罪悪感を感じてしまう。


 ふと來実を見ると目が合う。


 そういえば、俺とひなみの会話を聞いたと言ってたけど、それって俺の不具合の進行状況も聞いていた可能性も、あるってことだよな。最悪動かなくなるとか……


 來実の目の奥にある、俺に対する不安の色を感じ取って、ソワソワしてしまう。

 そんな俺の頭に來実がポンっと手を乗せて優しく撫でてくる。


「心春、本当にごめんな」


 謝ってくる來実に俺は必死に首を振って、謝ってくることを否定する。


「くりゅみが謝りゅことないでしゅ。くりゅみのお陰で、その、いずりぇでしゅけど、トリャにも話す決心がついたのでしゅ」


「そっか……」


 嬉しいとも、悲しいともとれる笑顔で答える來実。


「しょの……」


 何か言わなきゃと、話を振ろうとする俺の頭を來実がポンポンと優しく叩くと、珠理亜たち3人の方を向いて再び頭を下げる。


「私が悪かった。だから心春を責めないでやってくれ」


「來実さんが謝る必要はありませんわ。何も悪いことはしてませんもの」


「そうですっ、別に芦刈先輩が悪いとか思ってませんし。むしろ心春のことが聞けて良かったって感謝してますっ」


「だよねぇ~。心春ちゃんのことはビックリしたけど、知ってるのと知らないのでは大違いだから、知れて良かったよ」


 3人の言葉でホッとした表情を浮かべる來実。和やかになったこの雰囲気、來実にまだ言わなければいけないこともあるだろうけど、ここは蒸し返すべきではないだろう。


「みんな、わたちのせいでごめんなしゃい。もうお昼でしゅからご飯食べましぇんか? ここは、わたちが奢りましゅから」


「え? 心春が奢るのはおかしいだろ」

「ですわ。それは違うと思いますの」 

「だね、でもお昼は食べるのには賛成かな」

「お腹すいたしねぇ~。ご飯食べようよ」


 俺の奢り発言は全否定され、メニューを開く楓凛さんに続きメニューを開く3人。

 珠理亜が興奮してメニューの詳細を來実たちに聞き、呼び出しのベルを物珍しそうに眺め、押したがる。


 その後も出てきた料理のスピードと味に感動し、いつもより饒舌な珠理亜を微笑ましく見ながら、この変な繋がりで集まった5人の女子会は賑やかに進む。


 <同日 AM14:00>


「わたちは、商店街へ行って帰りましゅ」


 一緒に帰ろうと言う來実の誘いを断り、俺は商店街へ向かうことを告げる。

 夕華との約束である髪留めの視察に行っておきたいのと、個人的に電気屋さんに寄って帰ろうと思ったからである。


 4人に見送られ手を振る俺は、次の女子会の開催をちょっぴり期待しながら商店街へ向かう。



 * * *



 小さな心春がさらに小さくなっていくのを見送った來実は楓凛に振り返る。


「楓凛さん、色々教えてくれてありがとうございます」


「ん? 大学のこと? 來実ちゃんもくる? 歓迎しちゃうよ」


「今の成績最悪ですけど、目指してみようかなと」


 恥ずかしそうに笑いながら鼻を掻く來実。


「來実さんが目指すと言うのなら、わたくしも応援しますわ」


 ちょっぴり照れて珠理亜が告げると、來実と目が合うがすぐに目を互いに反らし顔を伏せる。


「ツンデレが2人」


 彩葉の言葉にクスクス笑う楓凛。


「あのさ、虎雄にフラれた後でも心春とは仲良くしていこうって思うんだ」


 來実の発言に3人が注目する。


「なんか後ろ向きな発言ですわね。虎雄さんと心春さんは別ですから、その意味も理解できなくはありませんけど……」


 珠理亜の言葉に頷く彩葉と楓凛。


「まあ、後ろ向きだよな。でもケジメはつけないとな」


 心春が去った方を見ながら來実は小さな声で呟く。


「虎雄が前に進まないと、心春も進まない……動かなくなるとか絶対させないからな」

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