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俺は最新でお前はかつての俺なわけで ~心春な日々~  作者: 功野 涼し
8月 ~夏休み~

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女子会の合間に

 <8月24日 AM11:30>



 トラは椅子に座り机に向かって、カリカリとノートに鉛筆を走らせる。そんなトラの横からぴょこりと夕華が爪先を立て、机の上に顔を覗かせる。


 背が低いので鼻までしか見えていないが。


「トリャお兄ちゃんは何をしているのですか?」


「わわわわっ、夕華!? いつの間に!」


 夕華の登場に慌てふためくトラは、机の上に広げたノートを体で覆い隠す。


「扉を4回ノックして、後ろから3回名前を呼んだのですが、気付いてもらえなかったので、強行手段を取らせてもらいました。それよりも気になります。何をそんなに真剣に書いているのですか?」


「夕華って、結構グイグイくるというか、圧が強いよね……」


 トラの言葉に、唇に指を当て考える夕華だが、すぐに答えに行き着いたようで、少し微笑みながら口を開く。


「私はこはりゅお姉ちゃん、トリャお兄ちゃんの行動をよく見て、理解に努めるように言われていますから……興味津々と言ったところです」


「そ、そうなんだ。見られてるって思うとなんだか緊張するね」


 頬を指で掻いて照れるトラは、自分の書いていたノートと夕華を何度か見比べ、何か意を決したようにノートを握ると夕華に差し出す。


「夕華に相談なんだけど、ノート読んでくれる?」


「私に相談ですか?」


 不思議そうにしながらノートを手に取ると、言われた通り目を通す。

 夕華の目が文字を追っていくのを、緊張した面持ちで見つめるトラ。

 やがて夕華は、そっとノートを閉じると視線をトラに向ける。


「人間の関係図でしょうか? それと男女の恋愛観に関した書籍の記述からの抜粋。それに対してのトリャお兄ちゃんの考察が書かれていました。ここからの相談とはなんでしょう?」


「えっと、夕華は、人から好きだって告白されたら、その……どうする?」


「どうするかですか? 好きだと言われ、答えを求められているのであれば、答えれば良いのではないでしょうか?」


「う、う~ん。それはそうなんだけど。1人じゃなくて何人かいた場合、1人を選ぶということは、他の人を傷付けるってことになるんじゃないかって思うんだ。

 それは、ボクの望むところじゃないって言うか、みんなと仲良くしたいっていうか」


 段々と自身なさげに声量を落としていくトラを、見つめる夕華は再び唇に指を当て思考を開始する。

 そんな夕華の答えをトラは固唾を飲んで待つ。


「トリャお兄ちゃんはそもそも、答えを持ち合わせているのですか? その数人の中から1人を選ぶ答えを」


 ビクッと一瞬、身を大きく震わせ、少しだけ頬を染め小さく頷く。


「なんとなくだけど」


「では、それに答えれば良いのでは? その結果、他の方が傷付くことは避けれないことだと思います。

 

 推測ですが、このまま長引かせることは、その答えの方をも傷付け、他の方を余計に苦しめるだけではないでしょうか?」


「うっ、確かに……」


 夕華の答えにぐうの音も出ないトラは、椅子に座ったまま項垂れる。


「私は、建造さまから、人とアンドロイドが家族になれる理想系が、こはりゅお姉ちゃんの家にはあるのではないかと、それを知識として、感覚として学ぶように言われています。


 そのため、他のアンドロイドより、恋愛、家族愛についての知識は豊富ではあります。

 ただ、それは文字に起こせる知識。曖昧で、不安定で、掴みどころのない感覚。これが分かりません。


 トリャお兄ちゃんは、答えが決まっている。その結果、他の方を傷付けるのが嫌。そのまま放置するのも選択肢であると考えられます。

 それでも、それは否定しているような表情をしている。


 今トリャお兄ちゃんが持つ感情の振れ、これを私は知りたいのです」


 夕華の瞳が真っ直ぐトラを見つめ、その瞳に悩むトラを映す。その瞳のトラが背筋を真っ直ぐにして、夕華に向き合う。


「あのさ、もしもだよ。夕華が人間から好きだって言われたらどうする?」


「人間からですか?」


 思わぬ質問に、少し目を開き驚く夕華だが、すぐに答える。


「アンドロイドは、恋愛感情を持ち合わせていませんから、その旨をお伝えします。そもそも成立しないと考えられます」


「じゃあ逆で、アンドロイドが人間を好きだって言った場合、人間はどう思うのかな?」


 先程より更に目を大きく開く夕華は、トラに近付くと手を伸ばしそっと頬に触れ、目をジッと覗き込む。


「ど、どうしたの!」


「いえ、まるでトリャお兄ちゃんが、人間ではないかのような表現をするので、可能性を排除しました。

 体温、脈、呼吸、瞳孔の動き、トリャお兄ちゃんは間違いなく人間です。


 先程も言いましたが、アンドロイドに恋愛感情はありませんから、その質問も成立しません」


 夕華に言われ、自分の胸を押さえ心音を感じるトラ。


「それでも、もしアンドロイドがそう思うのであれば、そのままを言葉にして伝えればいいのではないでしょうか? 


 成立しないと言っておきながら矛盾しますが、結果は目先だけでなく、未来をも見ればどれだけ時間が経っても、不確定要素だと私は考えます。ですから当たって砕けてしまえです」


「砕けちゃうんだ」


 笑顔で質問に答える夕華に、トラはクスっと笑う。

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